『鬼滅の刃』を観に行ってないのに『鬼滅の刃』のせいで30分並ぶハメになった私が “仏の笑み” を浮かべた理由
記事の撮影で『映画館のポップコーン』が必要になり、このクソ暑いなか映画館へ行った。すると「映画館へ通じるエレベーターに乗るための行列」が出現していたので、嫌な予感を抱えつつ映画館のフロアへ到着すると……あぁ、死ぬほど混んでますね。
この日は平日の昼間だったが、どうも激混みの原因は映画『鬼滅の刃』らしい。私が欲しいのは『鬼滅の刃 メモリアルポップコーンボックス』ではなくノーマルのポップコーンだ。できればカウンター別にしてもらえませんかね? ワシ仕事で来とんねん。時間ないねん。
キッズたちは夏休み中だからいいとして、平日の昼間に映画館に来れる保護者って一体どんな職種? 全員不労所得でも得てんの? なんでそんなに余裕があるのよ? おいキッズたち、お前らが今から観る映画の結末教えてやろうか!? なぁ!?
……などと、私は1ミリも思わなかった。むしろ仏の笑みを浮かべていた。ワケを話そう。
・令和のお母さんって大変
私の友人Y美は専業主婦で、幼稚園から小学生まで3人のお子さんがいる。郊外とはいえ23区内に新築戸建てを買い、ご主人は小さいながらも社員を4〜5人抱える会社の社長さん。私は彼女に対して、つねづね「いい暮らししてんなぁ」と思っていた。
が、つい4日前のこと。「来週、家へ遊びに行っていいか」と連絡した私に、Y美は「火曜はバイトの面接があるから、それ以外ならいいよ」と返事をよこしたのである。バ、ババイトォ!?
聞けば、裕福そうに見えたY美一家の家計は実際のところ火の車で、ついにバイトを始める覚悟を固めたのだという。子供が熱を出すたびに早退を余儀なくされ、職場に居づらくなったY美が看護師の仕事を辞めたのは3年前のことだ。
私は「辞めても生活できるんだからイイよね〜」とか思っていたが、言わないだけでY美はかなり苦労していたらしい。余裕がありそうに見えても、実情は違うんだなァ……。とはいえ子供たちが発熱しまくる状況には変わりがない。この状況でどんなバイトを……?
そうY美に尋ねると「時給1200円のホテル清掃」との答えだった。 “家から近く、勤務時間が短く、当日欠勤にもある程度対応可能” という条件だと、選択肢はわずかだった模様。
1日に働ける時間が4時間程度なので、日当は4000円ちょい。子供3人育てつつ旦那の弁当作りつつ家事しつつバイトもしたら、果たしてY美の自由時間はどうなるのだろう……。
・独身女性、ビックリする
「もうすぐ “いつも家にいるY美” じゃなくなってしまうのか……」そう寂しく思っていた翌日、Y美から連絡が。そこで彼女の発した衝撃の告白に、私は思わず言葉を失った。
なんとY美は「子供たちが『鬼滅の刃』を観たいと言うから木曜日もダメ」と言い出したのだ!!!
映画館の料金は大人1人と子供3人で合計5000円。そこへ交通費プラス『鬼滅の刃 メモリアルポップコーンボックス』なんて買った日にゃ、軽く1万円を超える計算になる。1日4000円ちょいを稼ごうとしているY美にとってデカすぎる出費ではないか。おい、やめろ! どうせすぐアマプラとかで観られるから!!
……と言いかけて、私は気づいた。
「それが親なのだ」と。
・親と子供の夏休み
映画館のフードカウンターは見たことないくらい混み合っていて、ただノーマルポップコーンを買いに来ただけの私は30分も列に並ぶハメになった。
しかしながら、Y美の一件を知った今の私には分かる。この親御さんたちはヒマなわけでも、たぶん不労所得を得ているわけでもない。日々のつらい労働を経て休みをもぎ取り、苦しい家計の中から映画代を捻出している人が大部分なのである。
日当2日ぶんを費やし、観たくない映画(観たい人もいると思うけど)を観、疲れ果てて帰宅したあと即座に飯を作ることを厭わないもの……それが親。その苦労をキッズたちは知らないが、知る必要はないのだと思う。彼らが親になったとき、いやでも知ることになるのだから。
かくして私は「全国のお父さん、お母さん……お疲れ様です」という温かい気持ちで、30分の行列を乗り切ることができた。こう不景気だと「周りが全員裕福そうに見える」という人も多いと思うが、決してそんなことはない。結構みんなギリギリでやりくりしていることを知れば、きっとあなたも優しい心が持てるはずである。
そういうワケなので、ただポップコーンを買いに行っただけなのに『鬼滅の刃』のおかげでメチャ並ぶハメになった際はくれぐれもカッカしないこと!!! 現場からは以上だ。
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.