TX土浦延伸に「一歩前進!」 茨城県の事業計画素案を読み解けば(茨城県)【コラム】
最近、鉄道ネット界わいをにぎわせているのが「つくばエクスプレス(TX)」延伸です。茨城県は2025年2月25日、「TX延伸構想事業計画素案」を公表しました。概算事業費や費用便益比(B/C)の試算値が示された素案には、関係自治体から「TXの土浦延伸は長年の悲願。実現に向けてまた一歩前進した(大意)」(安藤真理子土浦市長。3月3日の定例会見で)の期待が示されます。
要注目ワードが「東京延伸一体整備」。現在、秋葉原(東京)~つくば(茨城)間のTX、茨城側につくば~土浦間、東京側に秋葉原~東京(駅)間(土浦、東京は仮称です)の整備(新線建設)構想があり、2つの路線延伸に一体的に取り組むことで相乗効果を得られるという考え方です。
本コラムは、TXの延伸計画が動き出した背景を深掘り。茨城県による予定開業年は2045年とかなりの先ですが、東京~秋葉原~つくば~土浦が乗り換えなしでつながれば、どんな効果を期待できるのか。〝空想乗り鉄〟してみました。
昨年末に期成同盟会が誕生
今回のTX延伸の初めの一歩。それは2024年12月に発足した、「TXと都心部・臨海地域地下鉄の接続事業化促進期成同盟会」です。
メンバーは沿線の茨城県守谷、つくば、つくばみらい、千葉県柏、流山、埼玉県三郷、八潮の7市と東京都足立、荒川、台東、中央の4区の11市区。松丸修久守谷市長が会長を務めます。
具体的活動として2025年1月、茨城県に会への参加を要請。大井川和彦茨城県知事は2025年1月31日の定例会見で、「東京、土浦双方向の延伸が実現できるよう、(期成同盟会の活動に)積極的に参加したい。両端の延伸で、経済効果が最大限になることが望ましい(大意)」と述べました。
今のところ、茨城県から期成同盟会参加の正式アナウンスはありませんが、県の考え方を表すのが最初に取り上げた「TX延伸構想事業計画素案」です。
素案のポイントは別表の通り。応用都市経済モデル(CUEモデル)とは、土地利用や交通シフトを考慮した経済予測手法です。土浦延伸では、JR土浦駅隣接地にTXの新土浦駅(仮称)を開設するほか、つくば~新土浦間に中間駅も整備します(素案では、従来の中間2駅を1駅に集約)。
事業費(建設費)は、土浦方面への延伸単独で約1320億円。東京延伸で秋葉原~東京(駅)間も一体的に整備すると約3070億円。いずれのケースも、県の試算では新線建設による経済効果が費用を上回って採算を確保できる見通しです。
事業計画素案の詳細は、茨城県のHPをご確認ください。
「茨城県にインパクト」(大井川知事)
TXの歩みをおさらい。かつての呼び名は「常磐新線」で、常磐線混雑を緩和する国鉄新線として1970年代後半に構想されました。
当時、国の運輸政策審議会はルートとして東京~秋葉原~守谷~筑波研究学園都市を想定。さまざまな事情で、2005年8月に開業したTXは秋葉原が始発になりました。
2025年8月に開業20周年を迎えるTX。大井川知事は、2025年1月31日の会見で次の通り発言しました。
「TXは大きなインパクトをもたらし、つくば、守谷、つくばみらいの沿線3市は急速な発展を遂げた。TXには東京側で臨海部への延伸構想もある。茨城、東京の双方でネットワークが広がれば、首都圏全体で大きなメリットになる(大意)」
茨城県は2025年度予算案に「TX土浦延伸構想推進事業(新規)」として3300万円を計上しました。
今夏に茨城県知事選
ここで、いったん鉄道を離れて政治日程に目を転じます。茨城県では任期満了に伴い、2025年8~9月に知事選が予定されます。
大井川知事は今のところ(※コラム執筆時点)3選出馬を表明していませんが、4年前の前回選挙では「活力を生むインフラと、住み続けたくなるまちの実現」を公約に掲げ、鉄道などの社会資本整備充実に力を入れる意向を示しました。
今夏の知事選、TX延伸がどんな形で争点になるか不明ながら、多くの県民がTXを茨城の未来を占う判断材料の一つとする可能性も大いにあるでしょう。
東武、関鉄にも相乗効果?
ここから、東京~秋葉原~つくば~土浦間が一本につながった未来のTXに空想乗り鉄。
東京~土浦間は、「上野東京ライン」開業の2015年3月ダイヤ改正で、常磐線列車の上野~東京~品川間直通運転が始まり、既に鉄道ルートが機能しています。
そうした点を考えれば、TXの土浦、東京延伸、東海道、東北、上越、北陸の各新幹線から乗り継ぐ筑波研究学園都市への直行ルート誕生に最大の意義がありそうです。
TX沿線では、学園都市以外でも柏市の柏の葉キャンパス駅近隣に大学や研究機関が集積。千葉県流山市(市内のTX駅は南流山、流山セントラルパーク、流山おおたかの森の3駅です)は、首都圏の住みたいまちランキング上位の常連です。
鉄道各社では、TXは流山おおたかの森で東武アーバンパークライン、守谷で関東鉄道常総線の私鉄2線に接続。東武や関鉄にも、相応の整備効果をもたらすでしょう。
人口減少時代に鉄道路線の必要性は
TXには土浦、東京延伸のほか、もう一つの延伸計画があります。都心部・臨海地域地下鉄構想。東京都は、東京~新銀座~晴海~有明・東京ビッグサイト(いずれも仮称です)を結ぶ臨海地下鉄を整備。東京(駅)でのTXとの相互直通運転も検討されます。
仮に臨海地域地下鉄が開業してTXと相直すれば、東京ビッグサイト~筑波学園都市が一本に。例えば、ビッグサイトの商談会に参加したバイヤーや研究者が学園都市を訪れるなど、これぞ本物の「産学連携路線(?)」が誕生します。
臨海エリアには、JR東日本の羽田空港アクセス線がりんかい線(東京臨海高速鉄道)経由で乗り入れるプランもあります。実現すれば、つくばと羽田空港の結節点が臨海部に誕生するかもしれません。
ただ、繰り返しますが、TXが延伸されるのは順調にいっても20年後。「人口減少時代に巨額投資で鉄道整備する意義があるのか」、「人口減少時代だからこそ、地域の活力維持に新しい鉄道が必要」という矛盾する論理に挟まれながら、TXは本コラムタイトルにあるように「一歩前進!」しました。
【参考】中速鉄道の可能性を政府レベルで検討!? 石破総理が衆院予算委で言及
https://tetsudo-ch.com/12997514.html
記事:上里夏生