行政からの警告を無視して「大阪では問題ない」と言い張るブラック社長に、「ここは和歌山です」と言い返した男性に当時の状況を聞いた
法令違反を平気でするようなブラック企業に入社してしまったら、傷の浅いうちに退職するのが正解だろう。ブラックすぎる工場を1年で退職したという60代の男性に編集部は取材。その実態を語ってもらった。
本社は大阪、工場は和歌山にあった。法令遵守という言葉がまったく通用しない本社社長が工場も仕切っていたという。入社から半年が経ち、行政から警告を受けていたある問題を指摘した男性に社長は、「大阪では問題ない」と言い放ったのだ。すかさず男性は、
「ここは大阪ではなく和歌山です。役所の指示に従えないブラック企業の工場運営などとんでもない」
と、当然の如く社長に言い返した。(文:天音琴葉)
実際は黒字なのに「利益が出ていない」という社長
これは男性が数年前、中小メーカーの工場長として入社したときの出来事だ。人材紹介会社を通じて、正社員として採用された。同族企業のワンマン経営だったそうで、理不尽なことがまかり通っていた。
「和歌山の子会社からの大阪本社への利益移転が酷かったです。いつも子会社は利益が出ていないように社長は話しましたが、実際は黒字でした。そういうことにして、子会社の社員の昇給や賞与を抑制していました。また、本社ではその利益を内部留保に回していたようです」
これでは子会社の社員は働く気が失せる。社長は、労働関連の法律にも疎く、労働基準監督署やハローワークの指示に従わないこともざらだった。さらに、障がい者雇用の数の件で、改善しなければ罰金になるとハローワークから警告されていたが、男性がこれについて社長に意見したところ、前出の「大阪では問題ない」発言が出た。
こんな無茶苦茶な言い分がまかり通っていた理由として、大阪本社には労働関連の法律に詳しい社員がおらず、顧問弁護士契約もしていなかったことが原因だと男性は推測する。さらに行政にもこの調子で押し通していたというから驚きだ。しかし和歌山では、そういうわけにいかなかった。
男性は、
「本社のある大阪では黙認されていたかもしれないが、和歌山では行政よりの指摘があったケースがいくつかありました」
と語る。工場で1年間に4件の労災が発生、このうち3件は不注意によるものだったが、1件は冬に屋外で機械操作させたことによる事故だった。寒さで手の感覚が乏しいなかでの操作は危険であることは言うまでもなく、当然、労基からも指摘を受けた。
ブラック企業には地域特有の事情も
さらに男性は、労働基準法違反もいくつかあったと打ち明けた。
「一つ目は、農協以外の口座には給与を振り込みしてくれなかったことです。もう一つは、私を含め3人が管理監督者として採用されたのに、いずれにも裁量労働権が認められなかったことです。それにもかかわらず、遅刻や早退等で減額され、残業代や深夜残業代は払われませんでした」
最終的に会社側は一部非を認めたものの、交渉は決裂した。結局、男性は入社から1年で退職することになった。しかし、ブラックなのはこの会社に限った話ではないと男性は言うのだ。
「背景には、人材の買手市場という、この土地の問題があります。地元に就職したいという需要がかなりあるが、それに反して就職先企業が少ないです。そのため、労働条件や環境の改善は労基の立ち入りがないと、なかなか実行されないというブラックな土地柄です。実際に周辺の企業は労基による立ち入りで改善命令が出され、労働環境が改善されたという話を数件聞いています」
なお男性が退職したあと、工場と本社に労基が立ち入り査察したことを元部下たちから聞いたという。これで少しは改善されたのだろうか……。「従業員には申し訳なかったが、早く退職して正解」と話す男性から、すがすがしさを感じた。
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