本所吾妻橋『ORAND/OUET』は、両国の書店『YATO』が仕掛けるカルチャーの交差点
両国・蔵前橋通り沿いの書店『YATO』が2024年10月、本所吾妻橋駅近くにカフェ&イベントスペース『ORAND/OUET(オランド/ウエ)』をオープン。東京の東側で文化の発信拠点をつくりたいとの思いを抱く店主に話を聞いた。
お話を伺った人
佐々木友紀さん
1978年、青森県生まれ。大学卒業後、故郷で高校の英語教師、フリーランスでEC管理などを経て、東上野の『ROUTE BOOKS』で勤務。2019年に書店『YATO』をオープン。
本からはじまる文化交流の場
佐々木さんが書店『YATO』を開店したとき、「こういう店は中央線沿いにつくったほうがいいのでは」とよく言われたという。店主が独自の視点で選んだ本が並ぶ、いわゆる独立系書店とよばれる個人店は、たしかに東京の西側に多く点在している。
「ご指摘はごもっともかもしれませんが、だからこそ東側でやることの意義があると思っています」
『ORAND/OUET』は、1階がカフェ、2階がイベントスペース。
「『YATO』のほうがどんどん本が増えてしまって、新刊トークイベントなどができる空間がなくなってきたんですね。だから新しいスペースがほしかったんです」
当初、佐々木さんは映画館をつくりたかったという。
「でも墨田区菊川に『ストレンジャー』という映画館ができたんです。だったら僕はお客さんとして応援したいし、この街にないことをやったほうが住む人にとっても、街にとってもいいと思いました」
いざ開店してみると、地元の人だけでなく、遠方からもお客さんが来てくれた。
「カフェに来てくれた人が、2階で展示をしてくれたり、良い出会いが続きました。本屋は本に興味がある人しか来ませんが、カフェの場合はふだんあまり本屋に行かない人も来てくれるので、かなり幅が広がった気がします」
カフェメニューは、確かな素材を使い、身体に良いものを意識的に出している。
「それも表現のひとつだと思っています。自分の理想を、提供する食事や空間で表現する。本を毎日買うことは困難ですが、カフェは毎日でも行けますし」
2階のイベントスペースでは開店以来、新刊トークイベントをはじめ、演劇を上演したり、フリマを開催したりと、空間を自由自在に活用している。佐々木さんにとって、“文化の発信拠点”とはどんな場所なのだろう。
「まずは気分が良くなる場所だといいなと思っています。自分を大事にして、良い気分でいること。まず自分が心地良く生きていないと、他者を尊重するのも、社会に関心を持つことも、難しいときもある気がしています。カルチャーの射程はすごく広くて、ごはんをつくったり、食べたり、買いものをすること、生活そのものがカルチャーや政治にもつながっていると思うんです。その中心に本があるイメージ」
書店という母体から生まれたカフェとイベントスペースは、お客さんを巻き込みながら、試行錯誤を繰り返していく。
ORAND/OUET
元喫茶店の建物を、1階はカフェ(ORAND)、2階はイベントスペース(OUET)に改装。1階は落ち着いた色彩の内装で、読書や思索に静かに集中できる。軽食からスイーツまでメニュー豊富で、どれも丁寧につくられた逸品揃い。呼吸が深くなる心地良い空間だ。
ORAND/OUET(オランド/ウエ)
住所:東京都墨田区吾妻橋2-11-5/営業時間:12:00~19:00/定休日:水・木/アクセス:地下鉄浅草線本所吾妻橋駅から徒歩3分
YATO
入り口には生活、建築、エッセイなどやわらかめの本、奥へ分け入るほど哲学や歴史といった人文書が並ぶ。じっくり棚を見ようとすると、1回の来店では難しく、何度も訪れて宝探しのごとく徘徊するお客さんも多数。長く読み継がれる、大切な一冊が見つかるはずだ。
YATO(ヤト)
住所:東京都墨田区石原1-25-3/営業時間:14:00~21:00(日は13:00~20:00、月・火は予約制)/定休日:水・木/アクセス:地下鉄大江戸線両国駅から徒歩5分
取材・文=屋敷直子 撮影=佐藤侑治
『散歩の達人』2025年8月号より