高級魚トラフグにそっくりな魚<カラス>とは 遺伝的に同種とする研究結果も?
日本近海には多くの魚が生息しており、その数は4500種を超えています。
これだけの種類がいると似たもの同士の魚も多く、中には外見上ほとんど区別がつかない魚も少なくありません。
例えば、高級魚として名高いトラフグは“フグの王様”とも呼ばれる魚ですが、実はこの魚によく似たフグ科にカラスという魚がいます。「カラス」と聞くと、鳥類のカラスを思い浮かべてしまいますが、実は魚にもカラスがいるのです。
トラフグによく似た<カラス>という名の魚
カラス(Takifugu chinensis)はフグ科トラフグ属に分類される魚です。
トラフグが北海道から九州の広い範囲でみられるのに対し、カラスは主に朝鮮半島や中国沿岸、国内では山口県、福岡県、長崎県などで見られるほか、トラフグが体長70センチほどの大型種なのに対し、カラスは体長50センチほどの中型種といいます。
本種は外見がトラフグによく似るものの、臀びれが黒く、背面の模様は不明瞭で黒っぽいことから区別することが可能。1949年に阿部宗明博士により記載されました。
「カラス」という名は黒い魚の別名としてしばしば用いられますが、本種は標準和名が「カラス」。体色が全体的に黒っぽいことが由来と考えられています。
この黒い体色に由来し、石川県輪島市では「クロフグ」、山口県下関市では「クロ」とも呼ばれているようです。
カラスとトラフグは同じ種類?
よく似たトラフグとカラスですが、実はこの2種を同種と考える研究結果もあります。
実際、2008年に出版された論文「Genetic comparison between torafugu Takifugu rubripes and its closely related species karasu Takifugu chinensis」では、トラフグとカラスの2種は遺伝的解析から同種としており、カラスはトラフグのシノニム(複数の学名がつけられたもののうちの1つ)になっています。
一方、生息する水深と産卵場所の水深が異なることから別種とする見解もあるようです。
実際に、ふぐ延縄のうち浮延縄はカラスを対象として導入され、底延縄はトラフグ、マフグを対象に用いられました。これはこの2種の生息する水深が異なることを示しているとも考えられます。
また、漁獲されるフグの中には、トラフグとカラスの両方の特徴を持った個体の存在も知られているようです。
トラフグとカラスは区別される
トラフグとカラスは酷似するものの、漁業関係者はこの2種を区別しており、両種は外見が異なるほか、漁師さんは釣れる水深が違うことを認識しています。
加えて、カラスとトラフグは味が異なり、カラスの味はトラフグに劣るとされます。味が違えば価格も異なり、カラスはトラフグよりか安価で取引されます。ただし、フグ科の中でも高価な部類の魚で、トラフグに次いで価格が高いといいます。
なお、有毒部位はトラフグもカラスも同様と考えられえおり、毒の強さもほぼ同程度と言われています。
カラスの漁獲量は減っている
カラスはトラフグに味が劣るされているものの、食用として重宝されており、乱獲により漁獲量が減少している魚でもあります。
かつて、年間1000トン以上あったカラスの漁獲量も、近年は数トン程度まで激減。国際自然保護連合ではカラスがCR(深刻な危機)に分類されています。
また、遺伝的解析の結果では、カラスはトラフグと同種とされているものの、産卵場所の水深から分類学的な研究がまだ必要とされています。本種の保全のためにも今後の研究が待たれます。
(サカナト編集部)