【西条俊生さんの個展「物質絵画」】 この画面はどんな手触りだろう
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区のボタニカ・アートスペースで開かれている現代美術家西条俊生さん(浜松市)の個展「物質絵画」を題材に。
袋井市生まれ、浜松市在住の西条さんの個展は、大小二つの部屋に40点ほどの平面作品を展示する。大きい方の展示室の約20点は支持体の表面に石こうを塗り、その上にアクリル絵の具や水彩絵の具を走らせている。
あわい色のにじみや画面の傾きを感じさせる絵の具の流れも楽しいが、絵肌(マチエール)の存在感が際立つ。壁に掛かった作品が、別の壁を作っているように見える。
そして色調以上に「触調」が気になる。この画面はどんな手触りだろう。そんな欲望が胸の奥から湧いてくる。つるつるの人肌、粗くひいた木材、コンクリートのザラッとした表面、紙やすりのがさつき…。触覚をさまざまに想像させるアートである。
小展示室には「black square」と題した作品が数点。エッジが立った四角形が、その奥のペイントを透過させる。同系色で描かれているのに色がつぶれないのが不思議だ。薄い紙の上に築かれた、いくつものレイヤーを感じさせる。
「物質絵画」とはよく言ったものだ。私たちは「もの」を視覚だけで捉えてはいない。「どんな形か」は認知の一要素でしかないのだ。会場オーナーによると西条さんはかつて彫刻家であり、映像作家であったという。本展は「画家」という存在の反対側にいるアーティストが、「画面」を自分のやり方で構成している。そこがユニークだ。
(は)
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■西条俊生個展「物質絵画」
会場:ボタニカ・アートスペース3F、4F
住所:静岡市葵区研屋町25
開館:午後1時~7時 ※観覧無料
会期:4月13日(日)まで