公式戦が終わってから中学入学までの指導、何をすればいい? 中学に向けて11人制の準備をしたほうがいいのか教えて
公式戦が終了した6年生、卒団まで招待大会や練習試合はあるにせよ、どんな準備をしたらいい? 中学に向けて11人制に取り組んでおいたほうがいいの? というご相談をいただきました。この時期、よく聞くお悩みですよね。
ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、公式戦が終わってから中学までにどんなことをしたらいいのか、ご自身が実践している内容も踏まえ、アドバイスを送ります。
(取材・文 島沢優子)
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<<ゴールキックが奪われ失点に......。ビルドアップのときのポジションや周りを確かめる動きをどう身に着けさせればいい?
<お父さんコーチからの質問>
こんにちは。少年団で指導しているパパコーチです。
6年生を担当しているのですが、中学への移行期について、どんな練習をすればいいのかご相談です。
11月中には全国大会の予選も終わりますが、そのあとも3月の卒団まで練習試合や招待試合など小さな大会もあります。練習日は週2回設けていますが、自由参加になります。
6年生は全員中学以降もサッカーを続ける予定と聞いていますが、この時期は11人制でプレーさせたほうが良いのでしょうか。(練習試合や大会は8人制)
中学ではプレー人数や時間が変わることは理解していますが、それでもいきなり11人制になると戸惑うという声も聞きます。
冬の間は体力づくりや11人制に慣れさせる時期にしたほうが良いのでしょうか。
個人的には、たまに遊びに来る程度で、のんびり過ごしてもらってもいいと思っているのですが、ほかのチームが3月後半までトレーニングマッチを組んでいることもあり、保護者達からの圧があるのも事実です。(「トレマしてる子たちより遅れるんじゃないか」「中学入学時点で差がつくんじゃないか」など)
その際に指導の注意点などがあれば教えてください。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
まず最初にお伝えしなくてはならないのは、8人制から11人制というように、人数が増えたからといってサッカーの成り立ちが変わるわけではありません。
8人制の戦術をしっかり理解していれば、なんら不自由はないはずです。
■見る範囲や動く距離は変わるけど、幅と深さの基本がわかっていれば心配ない
当然ながら、攻撃にしても、守備にしても、コートのサイズが大きくなれば、見る範囲や動く距離は変わります。パスの長さも変わります。
しかしながら、幅と深さを理解して相手を崩していく、もしくは守る。そこは同じであると考えてください。
したがって、何ら気にしなくてよいかと思います。
それよりも、コーチの中にある戦術的な理解や視野がどのくらい広がっているかなど、卒団までに習熟させたかった目標があるかと思います。そこに向かって練習すればいいと思います。
そうすれば、大会がないから目標がなくなるといったことは起きないはずです。
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■試合勘は多少維持できたほうがいいが、中学までを完全オフにしても出遅れることはない
そのなかで、練習を自由参加にしているのはとても良いことです。ジュニア期の一番の目的は、サッカーが大好きな子どもに育てることです。例えばチームの練習は週2回やるけれど、他のことをしたい子は休んでもOKにしましょう。
公式戦はないと思うので、練習試合を最低月2回ほど組んであげるといいでしょう。中学でどんなチームに行くかはバラバラだと思いますが、試合勘は多少維持できたほうが良いので、配慮してあげてください。
ただし、練習をしていないと中学で出遅れるなどと心配しなくても大丈夫です。
■育成年代のサッカーキャリアの節目は「高校に上がるとき」
子どものサッカーキャリアの節目は中学ではなく高校に上がるときです。
中学までは学校の部活動やクラブで多くの子どもがサッカーを続けますが、サッカーにある程度本気で取り組むかどうかを決めるのは中学3年生が多いようです。
私自身、本格的にサッカーをしたのは高校からです。その3年間で大きく伸びた実感があります。高校で真剣にやるかどうかでそのあとのキャリアが変わってくるのです。
中学から高校にかけては、身体的にも第二次性徴期が落ち着くシーズンです。その間、足の速さや身長、体格などの成長も少しずつ緩やかになってきます。高校生ではそれまで以上に賢く、サッカーIQを上げてほしいところです。
■サッカーIQをアップさせるミーティングなどもおすすめ
中学に上がるまでのこの時期、そういったサッカーIQをアップさせるミーティングや解説をしてもいいでしょう。
先日、私のチームの中学生たちの練習で、サッカーでは人の動きはこんなふうになっているよとか、トライアングルをつくるためにはどう動くかといった話をしました。
味方に近づきすぎるとどうなるか。みんなで相手からボールを奪うにはどうするか。そういった学習の時間を作ってから、駆け引きの練習をしました。
練習では、例えばマンツーマンディフェンスでついてもらいます。自分のマークを外さないことを徹底させます。そうすると、攻撃側はパスが出来なくなります。バッチリ守られているのでパスの出しどころがありません。
結果、ドリブルしかしなくなります。そこで初めて「どうやったらパスを回せるか」「パスをつないで全員で攻められるか」という戦術的なことを学び始めるのです。
■かつてオシムさんが嘆いていた、本来小学生で学んでおくべきこと
これらの学びは、本来なら小学生の時点で経験しておかなくてはなりません。
オシムさんが日本でプロの選手でもそのあたりの不足を嘆いていたと記憶しています。よって、「日本人は数的優位の練習をもっとしたほうがいい」とおっしゃっていました。
それは、サッカーの成り立ちを理解するには数的優位の練習が効果的だからです。つまり、小学生からしておくべきことをすればよいのです。
■試合で体力をつければいい ドイツでは6年生は30分ハーフ
加えて、体力作りのためにグランドを走らせたりするのも必要ありません。試合をたくさんやって、そのなかで体力をつけてもらえばいいのです。
ドイツは6年生は30分ハーフでした。日本の子どもよりも体格に秀でていますが、サッカーには試合の流れがあるのでそれを体感できるよう設計されているのでしょう。
冒頭で8人制でもOKと話しましたが、たまに11人でやるのもいいでしょう。6人、7人、8人とさまざまな人数で試合をしましょう。地域によっては、現在は中学1年まで8人制でやっているところもあります。
親が変われば子どもも変わる!?
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■中学に向けてこの時期から5号球を使い始める必要はない
最後に。
この季節、6年生のコーチの方々に「もうすぐ11人制になりますが、なにかやったほうがいいですかね?」とよく尋ねられます。
「ちゃんと育てておけば、8人が11人になろうが問題ないですよ」と私は答えます。
それとこの時期、6年生の練習や試合でいきなり5号球を使い出す指導者がいます。
これもいいとは思いません。無理させず、中学生になったら蹴ればよいのです。
池上 正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさい サッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。