【ジープ島コラム最終回】第12回「後継者」(ジープ島開島者・吉田宏司)
ミクロネシア連邦チューク州にあるジープ島
ジープ島での吉田宏司さん(前)と渡会和馬さん(奥)
私はコロナ禍の中、2020年6月1日に「人間と自然との調和」をテーマとした「吉田自然塾」を立ち上げ、毎週のように山や湖や滝に出かけるようになった。
しかし、このコロナ禍の中で、いつ島に行けるのか? また、コロナが明けた場合、私は既に60歳を過ぎ、継続することは到底難しいだろうと考え、一抹の不安を覚える日々でもあった。私の経験上、台風も来れば嵐も来る!あの小さな島を管理していくことは並大抵ではないという事をよく知っていたので、よほど忍耐強い人間でなければ到底耐えられないだろう!と思い、後継者をどうすれば良いか?その事が気になっていた。
そして山岳自然を中心とした活動を始めて、半年が過ぎた頃だった。2020年の12月の末に突然フェイスブックのメッセンジャーに知らない若者からメールが入った!名前は渡会和馬という!!そこには、こんな事が書かれてあった。「2013年に本を読ませて頂き、たいへん感動しました。私にとってこの本はたいへん心の支えになり、自分の夢を叶えていくきっかけになった本です。その感謝の気持ちを伝えたくてメールしました。本当に有難うございました」と……。
スキー場での渡会和馬さん(左)と吉田宏司さん(右)
ジープ島での渡会和馬さん
それなら是非会おう!という事になり、翌年の1月17日に赤倉で自然塾の集まりがあるので、ホテル無門に来るように伝えた。ところが、本人は気がせいていたらしく、1日前の大雪の16日に赤倉入りしたのだった。彼は岐阜の人で雪道には慣れていなかった為、案の定夜の10時半過ぎに車は急な坂の途中で雪にはまり止まってしまった。そこに偶然にも私の知り合い2人が通りかかかり、深夜3人がかりで雪を掘り車を動かしたのだった。
それから翌日ホテルで本人に会ってみると、たいへん元気の良いさわやかな青年という印象だった。その日は自然塾のメンバーもいたので、翌日高田に移動して、2人でいろいろな話をした。19歳でお母さんが倒れ、それが何年も続き、妹の面倒を見ながら、夜中華料理屋でアルバイトをして、昼には病院と学校を往復する生活が続き、たいへん苦労したことなど……。
しかし、そのような苦労話の中でも彼の表情を見ながら聞いていると、決して暗さというものがなく、むしろ様々な障害があっても乗り越えていくような何か内に秘めた不屈の精神のようなものを感じた。
そして、最後に「ジープ島の後継者は決まっていますか?」と聞かれたので、「ちょうど半年くらいそのことを考えていたんだよ!」と伝えると「是非!僕にやらせて下さい!!」という返事が返ってきた。
それから本人に私の近くに住むように伝え、すぐに池の平の温泉場で冬の3か月働き、それから上越に下って、直江津に住みながら、私の知人の会社で1年働き、コロナ明けと共にジープ島に向かったのである。そして島でようやく2年が過ぎ、2025年3月で3年目に入ろうとしている。
私が1997年に赤道直下の無人島に住むと決意した時からの一連の流れを通して、私自身多くの自然に導かれ、また同時に全く予期せぬ人たちとの出逢いの中で、自らの思いが続けば、おのずと自然界も人間界も然るべきものが準備されているという事を実感させられた。
人間にとって最大の財産とは如何に良き人と良き自然とに出会うかであり、神意は決して計れないのと同じに人や自然の出会いにおいても、人智を遥かに超え、決して計り知る事ができないものであるような気がしている。
妙高山と吉田自然塾でのスノーモービル
吉田宏司
随筆家、海洋研究家、ジープ島を運営する代表者。1956年新潟県上越市生まれ。青山学院大学卒業後、ダイビングクラブを主宰しながら、約15年にわたり、ダイバーを世界中に案内し、自身も世界中の海に潜る。
1997年、40歳の時に少年時代からの夢だった「無人島を開拓して、ゲストに大自然を感じてもらう宿泊施設を建てる」と一大決心。1周275歩直径34mの無人島「ジープ島」に入島(グアムから飛行機で1時間半南下したミクロネシア連邦、トラック環礁に位置する島)。ダイナマイト漁で破壊されたサンゴの海を15年かけて再生させ、魚やイルカが集まる島へと成長させた。
シープ島は2009年に放送されたテレビ番組「世界の絶景100選」で第1位に選ばれたほか、2020年元旦放送のテレビ番組「なるほど!ザ・ワールドから新年あけまして!!奇跡の絶景スペシャル〜」に出演、雑誌「ブルータス」の表紙にもなるなど、新聞、テレビ、雑誌から多くの取材を受けている。また、世界海洋ボランティア協会の会長、海洋自然学校の創始者でもある。現在はジープ島にも行きつつ、妙高山を中心とした吉田自然塾を主宰している。
著書に「もしあなたが、いま、仕事に追われて少しだけ解放されたいと思うなら。」(KADOKAWA)、「South-ing JEEP ISLAND」(晋遊舎)がある。
(編集部注・今回のコラムで登場した現在ジープ島在住の渡会和馬さんの連載コラムが4月1日からスタートします。はるか赤道直下の南の島から毎月送られてくる原稿を「にいがた経済新聞」で掲載します。どうぞご期待ください)
【ジープ島問い合わせ先】
株式会社オアシスツアーセンター
電話03(3318)6919
メールアドレスtabi@vacations21.com