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貴族のスポーツ、フェンシング金メダリスト宇山賢さん

TBSラジオ

宇山賢さん(Part 1)
1991年、香川県出身。同志社大学在学中からフェンシング日本代表チームで活躍し、東京2020オリンピックでは男子エペ団体で日本初の金メダルを獲得。現役引退後は株式会社Es . relierを設立し、フェンシングの普及やキャリアなどの課題解決に取り組んでいらっしゃいます。


JK:香川アリーナのオープニングイベントの時、ちょうどお隣に座られて。背の高い人だな~と思って「何してらっしゃるんですか?」って(笑)全然知らなくてごめんなさい! フェンシングって聞いてすごい興味持っちゃって、「うちの孫もフェンシングやってるのよ」ってね。

宇山:すごい近い話で僕もびっくりしました(^^)

JK:実物見てないから1回見てみたいです。かっこいいですよね! 貴族のスポーツでしょ?

宇山:基本的には野蛮な「戦闘」から、「決闘」という上品な貴族の剣術としてブラッシュアップされたものなので、「どうやってでも勝つ!」というような振る舞いじゃなく、公平さを体現したり、礼儀というところでも試合で握手・挨拶をしっかりしないとペナルティを出されてしまう側面もあります。

JK:日本で言うと柔道ですね。ひとつのしきたりがあって、それから始めて。だけどお面・・・じゃなくてマスクつけるでしょ? 誰だか分からないじゃないですか!

宇山:そうなんですよ。なので顔が売れないというか(笑) 試合の前と後の時はしっかりお面を取るんですけれども、それ以外はどっちがどっちか矢印つけないと分からない(^^)

出水:試合を振り返りたいんですが、団体戦は3人制で、宇山さんは4人目の交代選手として登録出場。とくに振り返っていただきたいのが初戦のアメリカ戦で、6点差で遅れを取っている段階で宇山さんの出番が来た。この時の心境は「今?」なのか、それとも準備万端整って「よっしゃー!」なのか?

宇山:フェンシングの団体戦は剣道の紅白戦みたいに〇勝対〇勝みたいな世界ではなくて、全員で得点をつないでいくリレー方式を採用しているんです。その中で私は交代選手。いわゆるピンチヒッターというか、日本が劣勢やピンチになった時にちょっとでも空気を盛り返すような役割だったので「大丈夫かなあ」って・・・やっぱりレギュラーの選手になりたかったので、最初に交代選手って言われた時には悔しい思いもあったんですけれど、ピンチヒッターで登場した時にヒーローになれるように準備をしよう!と。

JK:逆に注目じゃないですか!

宇山:自分が出る時は同点とか競っている時じゃなく、おそらく負けている時だということでシミュレーションをしながら準備をしていたので、緊張はしなかったですよね。

JK:そういう時は責任感なのかプレッシャーなのか・・・どんな心情ですか?

宇山:試合当日はあまり何も考えなかったですね。それまで準備したものを出す瞬間なので、試合当日に迷いが生じるとせっかく準備してきたものが出しきれないので、相手だけを見て戦ったという形ですね。

出水:このエペのチームのキーワード「エペ・ジーン」という言葉も新流行語大賞にノミネートされるなど、注目されましたね。

宇山:当時キャプテンをされていた見延選手がメダルを獲得した後にインタビューで出したワードなんですが、「ジーン」には2つ意味がありまして、フェンシングというスポーツには「エペ」「フルーレ」「サーブル」という3種目があるんですけれども、マイナーなフェンシング業界内の言葉でそれぞれ「エペ陣」「フルーレ陣」「サーブル陣」と呼ぶんです。これに、自分のフェンシングを見ていただくことで人々にジーンと感動してほしい、という願いを掛け合わせたものが「エペ・ジーン」。

JK:チームワークですね。

宇山:そうですね、いわゆるチームワークと、皆様に何かを届けたいという造語になります。

出水:今だから話せるエピソードってありますか?

宇山:僕は試合当日にならないと出場が確定しなかったので、実は当日試合に出た瞬間にオリンピック選手になれたんです。もし交代選手のままで出なかったら、オリンピック選手ではなかった。厳しいルールがあって、枠というものがあるので、練習しながら「明日本当に出れるのかな」みたいにずっと思ってたんです。

JK:練習して、用意して、全て鍛えてあるのに、その一言で人生が・・・ですもんね。

宇山:試合の前日、ごはんを食べた後にミーティングしたんですけども、「試合がピンチになったらすぐ交代を出していいか」とコーチが問いかけたんですね。その時みんなが「絶対勝ちたいから、勝つためだったら自分は引いて宇山を出してください」みたいなことを一瞬で言ってくれたので、「おそらく200%出場できるな」ってすごく気が楽になった。

JK:本当に出たんですもんね! だからここに証拠の金メダル!すごいことですよ!

出水:フェンシングは大きく3種目あるんですが、その違いを教えていただけますか?

宇山:ざっくり言うと、狙うところが違います。いわゆる本番の決闘をスポーツ化したものが「エペ」という私の種目になるんですけれども、剣の先端にセンサーがついていて、先に体全身どこでもタッチした方が得点。切りつけたら得点というシンプルなルールです。次に派生したのが「フルーレ」という種目で、こちらは胴体が有効面。エペに比べて狙うところが狭いんですね。 剣の正確性を練習するための種目ということで派生したと聞いています。最後「サーブル」という種目は上半身。腕も含むんですけれども、なぜ足がダメかというと、馬に乗っている戦闘をイメージしているんですね。騎士道精神の振る舞いで、馬を傷つけるのは神聖な行為ではないので、あくまでも人対人で戦いなさいということで、騎馬戦闘が競技化されたものになります。

JK:サーブルはできます?

宇山:全然できません(笑)日本の育成スタイルは昔からずっと、まずはフルーレ種目でオリンピックに出場してメダルを獲るんだとやってたんですけれども、それで成功して、 北京2008で太田雄貴さんがメダルを獲得して、じゃあ次はエペとサーブルだよねということで、同じように強化体制を広げていったんですね。その中でフルーレとエペ、フルーレとサーブルをやる選手はいるんですけれども、エペとサーブルをやる人はほぼいないですね。

出水:全身と上半身の組み合わせはないんですね? なんでですか?

宇山:サーブルだけ機構が違いまして・・・エペとフルーレに関しては剣の先端にスイッチがついてます。これで体を突くことで反応しているんですけれども、サーブルに関してはスイッチがなくて、剣すべてがセンサー。剣の中程や根元を相手に触れるだけでランプがつくので、剣の使い方自体も大きく違うんですね。

JK:そうですか! その剣はどう繋がっているんですか? ランプがつくっていうのは?

宇山:剣の根元にコンセントのプラグみたいなのがついてまして、フェンシングの試合でもコードみたいなのが見えると思うんですけれども、ここから後ろにダーッと電気信号を送って、電気審判機の方に信号を送ってるんです。

JK:電気仕掛けなんですね! だからちょっと突くだけでピッと反応するわけですね。

宇山:それをリアルタイムに判定して、それをもとに人間の主審が判定していくという。

出水:それこそ電気信号がなかった昔は、人の目で判定してたんですか?

宇山:おっしゃる通り。もしフェンシングの装いで改良の余地があったらぜひ教えてほしいと思うんですけれども、ユニフォームが白じゃないですか。なぜ白かというと、もともと剣の先に赤いインクとかチョークをつけて戦ってたんです。剣道と同じように3人ぐらい副審と主審がいて、赤い線がユニフォームに走ったら旗を挙げて判定をしていた。その名残が今に続いているという。

JK:なるほど! 手が長いとすごい得ですよね。

宇山:物理的な長さはどうしてもあるので・・・ただ今は背の高い欧米の選手に対して、潜り込んで戦うような技術がどんどん入っていて、それでとくにエペで日本選手が活躍しているような要因があります。

出水:金メダルを手繰り寄せた一番大きな要因はどんなところだったと思いますか?

宇山:やはり私たちだけじゃなくて、随分前からフェンシングを日本でやられている方々が世界を目指して、オリンピックでメダルを獲得するんだとずっと試行錯誤を繰り返してくれた賜物かなと思ってます。大きく2つあるんですけれども、海外の技術を習得するために現地からコーチを呼んでくる。招聘したおかげで随分強くなったんじゃないかということが1つ言われています。もう1つはスポーツ庁が主体となっている「ハイパフォーマンスサポート事業」。今まではフェンシングを知っている人たちでチームを組んで、根性だとか日本のフェンシングはこうだとか頑張ってたんですけれども、それに科学的な知見、いわゆるコンディショニングをサポートする専門家だったり、うまく・強く・速く動かすためのフィジカル専門のトレーナーとか、いろんな専門家がいろんな知識を持ってアスリートの競技力を向上していこうという取り組みがなされてから、フェンシングだけじゃなく日本のマイナースポーツがかなり強くなりました。

出水:宇山選手もご自身が気づいてない客観的なデータを提供されたり、やり方を教わって向上したっていうことは?

宇山:データアナリストがフェンシングの試合映像を撮って、自分や相手がどういう行動をしたのかをどんどんピックアップして癖とか傾向を探るということをやっていただいて、自分の最近のプレー状況はどうか、得意技はどれくらい使えてるか、次に対戦する選手のデータとか、もしくは自分の苦手な選手が失敗した時のデータを持ってきて、どうやったらこの失敗を同じように再現できるんだろう、みたいな対策をやっていました。

JK:こういうのって何歳ぐらいからやれるんですか?

宇山:体験自体は3~4歳とか全然できます。最長の長さはルールで決まってるんですけれども、短い剣はOKなんです。どうしても長い剣って重たいじゃないですか。なので最初は短い剣で練習したり。細いんですけど、金属なので800gから1kgぐらい。

出水:子どもって喧嘩みたいになるから怖いじゃないですか?

宇山:派生としては貴族のスポーツなので、安全対策のためにはスポーツマンシップやルールを守っていただかないと。なので今メインで体験いただいているのは小学校ぐらいからです。中学年ぐらいからしっかりルールを守ってくれるので、それまでは遊びみたいな形で。プラスチックの体験用ツールもありますし、僕が推進しているのが柔らかいスポンジみたいな剣。マスクをかぶらなくても、ゴーグルだけして痛くない。それを体験授業とかイベントに積極的に使わせていただいてます。

(TBSラジオ『コシノジュンコ MASACA』より抜粋)

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