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【泉房穂×てぃ先生①】「子どもは荷物じゃないし保育園はコインロッカーじゃない」

KIDSNA

【泉房穂×てぃ先生①】「子どもは荷物じゃないし保育園はコインロッカーじゃない」

「異次元の少子化対策」が本格的なスタートを切る2024年。「支援策が的外れ」といった不満も聞かれる中、これからの日本の子育てはどうなる?現役保育士・てぃ先生、兵庫県明石市の前市長・泉房穂さん、そしてKIDSNAアンバサダーに、日本社会で子どもを育てることについて語っていただいた。全3回中1回目は、国の支援策がズレている理由。

現場の声が反映されていない子育て支援策

加藤:最初のテーマは「子どもと社会」です。

子どもを支援するためのさまざまな政策が2023年に発表されました。例を挙げると、児童手当の拡充(2024年10月分適用予定)、出産費用の保険適用(2026年実施予定)、こども誰でも通園制度(2026年度より本格実施予定)などがあり、さらに東京都の高校無償化(2024年度より実施予定)、第三子の大学無償化(2025年度より実施予定)も発表されています。※2023年12月上旬取材時の情報

こういった動きを好意的に受け取る方がいる一方で、手放しには喜べないといった意見もありますが、お二人はどのようにお考えでしょうか。

:結論から言えば、方向性は合っていると思います。ただ、これで十分かと言うとまだまだですよね。

日本の社会は、昔も今も、子どもにやさしいとは言えません。わかりやすく言うと、子どもにどのくらいお金を使っているか、ということです。日本は子どもに使うお金が諸外国と比べて半分程度。昔だけじゃなく、今もですよ。

それが「お金を使って子どもを応援しましょう」とようやく変わり始めたところなので、まだまだこれからかなと思います。

:あと、お金の他に大切なのは人。子どもの応援団となる人をどうやったらもっと支援できるか、というのも大きなテーマですね。

てぃ先生:僕は泉さんとは少し違って、やや反対派です。というのも、子育てしている人たちや現場の保育士たちの声が支援策に反映されている気がしないから。

表向きには、お父さんやお母さん、保育士さんにヒアリングをした上で考えた政策って言ってるけど、「それ、誰に聞いたん!?」「そんなこと言ってるママパパ、ほんとにいる?」って気持ちになるんです。

:あれ本当は誰にも聞いてないですよ! 国会議員をしていた時も、明石市長をしていた時にも思いましたが、国の中枢で物事を決めてる方々は現場の声を聞いていません。

子どもの政策をどうすべきかという答えは、子どもの顔に書いてある。あるいは親御さんが知っている。それなのにそういう方々の声を聞かずに政策を決めるから、かなりズレる。そこは同感ですね。

加藤:現場の声が反映されていないから政策がズレる、という点ではお二人とも同じ考えだと。

:現場の声を聞くという話ですと、明石市長だった頃のことで、市長として皆さんの話を全部直接聞きたいけど、実際には限界ありますやん。それで、子育て真っ只中の親御さんたちがスマホで市長に意見できる仕組みを作りました。※泉前市長が考案した意見箱を発展させた形で、2023年5月には丸谷聡子新市長が「市長へのおてがみ・まるちゃんポスト」を設置。

:そうすると、例えばおむつ定期便(見守り支援員が赤ちゃんと保護者のもとへ、紙おむつなどの赤ちゃん用品を毎月無料で届け、子育ての悩みの相談も受け付ける明石市の取り組み)でもらえるおむつを選べるようにしてほしい、といった具体的な声が届きました。

家に来てくれる見守り支援員も、誰でもいいわけじゃなくて毎回同じ人に来てほしい、とか。そういった生の声を吸い上げることで、政策が意味あるものになっていくと思います。

てぃ先生:今の話に関連して、実体験で恐ろしい話があるんですけど……。

加藤:どんなお話ですか?

てぃ先生:保育業界で、いわゆる有力者と言われるような方と対談する機会があったんです。厚労省に業界の現状を伝えるポジションにいらっしゃる方です。その時に、保育士のお給料が低いことや職員の配置基準が現在の実情に合っていない話をしたら、その方は「僕の周りには『給料が低い』と言ってる保育士はいないけどな」なんて言うんです。驚いたけど、納得が行きました。現場とかけ離れた価値観を持ってる人が厚労省に保育業界の現状を伝える立場にあって、だから国の政策がズレるんだなって。

:おっしゃる通りですね。フランス革命の時のマリーアントワネットの話と同じですよ。「パンがない」と嘆く農民に「パンがなければ、ケーキを食べればいいじゃない」と答えたっていうね。あれは、ほんまなんですよ。国会議員と話していると、「実際に子育てしたことあんのかな?」って方がたくさんおられる。そういう方たちだけで考えて政策を作っていたら、それはまあズレますよね。

大学無償化で「もう一人産もう」とは思えない

てぃ先生:こないだ発表された大学無償化の件も、僕は「ん?」と思って。(2023年12月11日発表の「こども未来戦略」案で打ち出された、3人以上の子どもを育ていくつかの条件を満たした家庭に対し大学を無償とする施策)

:セコイですよね~! 大学無償化も児童手当も! 

てぃ先生:「大学無償だから、3人目を産もうか」って、そんな動機にはならないじゃないですか!

加藤:まなかさん、ご意見ありそうですがいかがでしょう?

まなか:今6歳と2歳の子どもを育てています。子どもはたくさんいたほうがいいなと思っているので、もう一人生むか検討しているところです。だけど、第3子の大学無償化と言われても、かなり遠い未来のことで……。3人目が生まれて大学に進学するまでに、制度が変わっている可能性もありますし。

まなか:20年近くも先のことより、今の不安が大きい。もう一人生んだら仕事を続けられるか、とか、3人を育てるお金が足りるか、とか。

:それはそうですよね。たとえばハンガリーだと、妻の年齢が18歳から40歳までの夫婦は無利子でローンを借りられますし、子どもを3人生んだらローン残高のすべてが返済免除。さらに、4人産んだら生涯所得税を払わなくてよくなります。

そう考えると、3人目の大学無償化の話は20年近くも先のことで、しかもピンポイント。条件もきついですやん。もっと気持ちよくやったらいいと思いますけどね。

加藤:こういう話が出ると、国の財政を気にする方がいますが。

:いつも言ってるけど、お金なんかありますよ! みんながないと思い込んでるだけで、ないわけないですやん。私らこんなに働いて、ちゃんと負担しとんのに!

加藤:この対談の前に集めた読者アンケートにも、「高校・大学に限らず、すべての教育を無償化してほしい」という意見がありました。

:そうそう、他の国はもうやってますよ! 日本くらいですよ、こんなに冷たいのは。フランスなんかは、3人産んだら老後の年金増やすとか、遊園地の入場料を家族全員無料にするとか、色々やってます。

私が明石市長になった12年前には、日本の事情としては3人目じゃなくて2人目の施策が必要やと思って、2人目以降の保育料を完全無償化しました。さらに今では1人生むことも不安、もっと言えば結婚を躊躇する方も多い。だからせめて3人目くらいは条件つけずに気持ちよくやったら? と思いますけどね。

加藤:本当にそうですね。

:あとね、児童手当で、一番上の子が18歳になったら3人目が変身して2人目、ってなるかいなそんなもん! (※今回の制度では、「3人目以降」を「児童手当を受給中(高校卒業まで)の子どもの中で3人目以降」と定義していて、第1子が高校を卒業した場合、第3子は2番目の子どもとする)

てぃ先生:悪い冗談かと思いました……。

:また明石市の話ですが、2022年の秋に児童手当を18歳まで支給することにして、所得制限も撤廃しました。全国で初めての施策です。こんなもんお金の問題だから、準備すればすぐできるんです。

あと、明石市独自の特徴として、支給対象が子ども自身。16~18歳の子どもは、自分の名前で明石市に申請をして、市は子ども名義の口座に振り込む。子どもからすると、初めて自分で口座を作る機会ですよね。

:児童手当は子どもを応援するお金で、市から君への応援のお金だよってメッセージを込めています。もし親と子どもが対立した場合、親に歯向かってもいい。子どもの意思を尊重する。それが明石市の哲学で、かなりこだわったところです。

たったの2時間じゃ子どもは懐かない

てぃ先生:「こども誰でも通園制度」(親の就労状況にかかわらず、子どもを保育所などに預けることができる制度で、2026年度の本格実施予定に向け一部地域でテスト稼働中)に関しても、いいですか?

加藤:はい、もちろん!

てぃ先生:制度自体はいいと思うんです。働いていなくても、病気じゃなくても、数時間だけでもお子さんと離れる自由な時間を持つことはリフレッシュになります。結果的にいい子育てにも繋がるはずだし、いわゆる虐待も減るはず。なのでぜひやった方がいいとは思いますが、実施の前にまず保育園側の体制整備を始めてほしい。

制度が始まる前の、今の時点でも園はてんやわんやで、これ以上混乱を起こしたくないというのが正直な感想なんです。

:そうですよね。今後は保育園が親御さんの相談支援拠点としても機能すればいいと思うけど、そのためにはまず体制を整えないと。保育士に対する待遇改善とか、専門性のある方を適正に配置するとか、全部セットにしてやらないといけないですよね。単に言葉だけで「誰でも通園」と言っても、実際にはぜんぜん「誰でも」ではないし。

加藤:なぜ国はそういう実態を見てくれないのでしょうか。

:選挙対策に、キーワードとしての強さを優先するからですよね。あと保育業界には、待機児童対策で一気に園の数を増やした結果、将来自分たちの経営が不安定になるという不安があります。その不安に対しての「こういう制度を作るから、子どもが減ってもちゃんと経営できますよ」というメッセージでしょう。

つまり、選挙対策と業界対策の色合いが強いと思います。それを批判しているわけではなくて、もし本当にそうだとしても構わないからちゃんと制度を作ろうよ、というのが私のスタンスかな。

てぃ先生:保護者の方にも聞きたいです。現状検討されている「こども誰でも通園制度」で、子どもを預けられるのは月10時間。週だと2時間ちょっとですよね。それってどうですか?

えりこ:予約をして子どもを預けられるのはうれしいけど、やっぱり時間が足りないというのが率直な意見です。私が住んでいる区にはベビーシッター利用支援事業があって、年間144時間まで一時預かりの金額を補助してもらえます。でも利用したいママさんが集中するから、なかなか予約が取れない。制度自体はよくても、十分に利用できないのが現状です。

てぃ先生:予約がそもそも取れない問題もありますよね。さらに現場側から一つ言わせてもらうと、月10時間で、週1回だとすると1回2時間くらい。そんなちょっとの時間だと、子どもは泣いてるだけで終わりますから。

加藤:2時間じゃ懐かないですよね。

:そこも大事なポイントですよね。待機児童対策の時に思ったんですけど、子どもは荷物じゃないし、保育園はコインロッカーじゃないんですよ。ただ預けりゃいいわけじゃなく、ちゃんとした環境が必要です。

あとはリスクもありますやん。お子さんそれぞれの事情もあるわけだから。だからそういう情報はしっかり把握できないと、思わぬ大きな出来事が起こった時に子どもがかわいそうですから。そこのところは丁寧さがいると思いますね。

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