日本初のサンタクロース『三太九郎』 〜義理人情を重んじる北国生まれの男だった
キラキラしたイルミネーションやカラフルなツリーのディスプレーなど、街中が華やかに彩られるクリスマスシーズン。
12月になると、日本の商業施設では、赤と白の衣装をまとったサンタクロースの姿を目にするのが恒例となっています。
サンタクロース発祥の由来は諸説ありますが、実は日本にも「生粋の日本生まれのサンタクロース」がいました。
和製サンタクロースは、実は北国の老爺(おやじ)。
受けた恩義は忘れない、義理堅い男「三太九郎(さんたくろう)」だったそうです。
そもそもサンタクロースの由来とは?
世界中でお馴染みの、赤い衣装に白髪・白髭姿のサンタクロースですが、その由来となった伝説の人物がいます。
︎3世紀後半〜4世紀前半に活躍したキリスト教の主教(司教)・神学者で、聖人として崇敬されているミラのニコラオス。
貧しくて娘を売春させなければならなくなった家にお金を投げ入れて救った、船から落ちた水夫を救い甦らせた、冤罪を蒙る者や侮辱を受けている者の弁護に尽力した……など、さまざまな逸話があります。
︎ミラのニコラオスに基づいたオランダの神話的存在、シンタクラース(シント=ニコラース)。
各家庭の子どもたちが、今年1年間よい子だったか悪い子だったかが記録されている「シンタクラースの書」という大きな赤い本を持ち、よい子には聖ニコラスの日に贈り物をプレゼントをくれます。
けれども、悪い子は、ズワルトピートという顔を黒く塗ったピエロ風のお供(オーストリアではクランプスという魔物)に連れ去られてしまうという逸話があります。
見た目も名前も異なる世界のサンタクロース像
一口にサンタクロースといっても、国によってその姿は異なるようです。
日本でもポピュラーな、赤いガウンに白髪・白髭姿の恰幅のいいサンタクロース像は、1931年、コカ・コーラ社とアメリカ人画家が作り上げたものです。
ドイツのサンタクロースは前述した「聖ニコラウス」をモデルにしたもので、聖職者らしく十字架を描いた大きく長い帽子・赤く長いガウン・手には「シンタクラースの書」を持っています。
ロシアやウクライナなど東欧のサンタクロースは、青いガウンと帽子を身に付けている「ジェド・マロース(吹雪のおじいさん)」がポピュラーです。
寒さが厳しい気候だからか「スネグーラチカ」と呼ばれる雪娘(孫娘とも)を連れているそうです。
さらに、イギリスでは、緑の衣装に白いヒゲの「ファザークリスマス」(太陽の復活や春の訪れを祝い、夏至の祝祭に人々に贈り物を届けるという妖精という説も)も有名で、サンタクロースと同じ存在とされることもあるとか。
また、イタリアでは、クリスマス終盤の時期には「ホウキにまたがる魔女のおばあさん・ベファーナ」がサンタクロースの役目を果たします。
クリスマス機関の終わりである1月6日「エピファニア(公現際)※」の前夜、魔女がぶら下げられた靴下の中に、いい子にはプレゼントを悪い子には黒い木炭を詰めていくそうです。
※エピファニア(公現際):キリスト教では東方三博士が幼子イエスの元へ礼拝にやってきたといわれている日。
衣装や名称などは国によって異なりますが、何となく共通するものがありますね。
そして、日本発祥のサンタクロースは、また一風異なる「義理堅い北国の老爺」でした。
義理堅い北国の男・日本のサンタクロース
古くから仏教文化の日本では、クリスマスの習慣はありませんでした。
しかしながら、日本で初めてクリスマスが行われたのは1552(天文21)年12月9日のこと。
山口県で宣教師たちが日本人信徒を招き、キリストの降誕祭のミサを行ったことが最初ではないかといわれています。
その後、江戸時代にはキリスト教は弾圧されていたためにクリスマスは行なわれませんでした。(長崎の出島に出入りする外国人の間ではお祝いをしていたとか)
一般的にクリスマスを行うようになったのは、明治時代の1900年頃。
1904年、銀座の明治屋がクリスマスツリーを飾ったことがきっかけとなり、一般家庭にもクリスマスがイベントとして広まっていきました。
そして、日本で初めてサンタクロースが登場する小説(教材)も登場しています。現在も銀座に本社のある、キリスト教系書店・出版社「教文館」から出されました。
日本初のサンタクロース「さんたくろう」
日本で、サンタクロースが主人公になった小説「さんたくろう」が出版されたのは明治33年(1900年)。
著者は、進藤信義(かえで)です。
「さんたくろう」に登場する和製サンタクロースは、頭巾のような布の帽子・丈の長い上着・長いブーツ・白いヒゲ・斜めがけにしたショルダーバッグという扮装で、手には小さなツリーを持っています。
お供しているのは、トナカイではなく小さなロバで、いろいろなおもちゃが入ったかごを背中にしょって、ひたすら歩いている感じが可愛いです。
「さんたくろう」のあらすじ
「さんたくろう」のあらすじをご紹介しましょう。
北国の山家に、小林峰一という、大きな瞳の賢そうな8歳の子どもがいました。
ある寒い雪の夜、愛犬の斑(ぶち)犬が帽子をくわえて帰ってきました。
「ひょっとして、どこかに遭難している人がいるかも」と思った峰一の父親と少年は、雪の中を探索に出かけます。
そして雪の中で倒れていた男性を発見し救出。その男性は、峰一家の献身的な看病と祈りのおかげで命を取り留めました。
一家の親切に感動した男性は「お礼をさせてほしい」というのですが、父親は「神様のおかげなので、お礼はいりません」と断ります。
そして父親から「全知全能の唯一の神様」の話を聞き、感銘を受けた男性は、自らも神の道に入ることを決心したのでした。
翌年の春、父親は病に倒れ一時は重篤な状態になってしまいます。けれども、信仰心のあつい少年と母親が必死に神様に祈りを捧げたおかげで、奇跡的に回復しました。
しかし、半年も父親が働けなかったおかげで、一家は貧乏のどん底に陥り、峰一にクリスマスの贈り物を祝うお金も無くなってしまったのです。
そして、一家が意気消沈していた寒いクリスマスの夜。
以前、命を救った男性がたくさんの贈り物を持って、密かに訪れたのです。
贈り物と共に置いてあった手紙には、「神様の教えを守り人の命を助けて感心です。この贈り物をあげます。北國の老爺(ほくこくのおやぢ)三太九郎」と書いてあったのです。
クリスマスの夜に起こったファンタジックなストーリー展開ではなく、信仰心のあつい一家に恩義を返した「義理人情に厚い北国の男」として「三太九郎(さんたくろう)」が描かれているところが、いかにも日本らしいお話です。
この「さんたくろう」のお話は、国会図書館デジタルコレクションで全文を読むことができるので、興味のある人は読んでみてはいかがでしょうか。
参考:『さんたくろう』(国立国会図書館デジタルコレクション)『赤い衣装のサンタクロースのルーツ』
文 / 桃配伝子 校正 / 草の実堂編集部