「はるか昔の自分を知る」 井上咲楽が語る、特別展『古代DNA―日本人のきた道―』の見どころは?
特別展『古代DNA―日本人のきた道―』が2025年3月15日(土)から国立科学博物館で開催される。遺跡から発掘された古代の人々の骨に残るごく僅かなDNAを解読し、人類の足跡をたどる古代DNA研究。近年では技術の発展とともに飛躍的な進化を遂げ、ホモ・サピエンスの歩んできた道のりが従来想像されていたよりもはるかに複雑であることが分かってきた。本展では、日本各地の古人骨や考古資料、高精細の古人頭骨CG映像などによって、最新の研究で見えてきた日本人のきた道と、集団の歴史が語る未来へのメッセージを伝えるという。今回、本展の公式サポーター・音声ガイドナビゲーターを務めるのは、多方面で活躍中のタレント・井上咲楽。ナビゲーターの収録を終えた井上に、本展の見どころなどを聞いた。
最新の技術・研究で見えてきた「古代」のこと
ーー井上さんは今回の特別展の音声ガイドナビゲーターを務められますが、まずは収録を終えた感想をお聞かせください。
テレビのナレーションを読んだことはありますが、こうした展覧会のナビゲーターというお仕事は初めてなので、緊張しました!テレビに出ているときのような明るいテンションだとちょっと違うかなと思ったので、なるべく落ち着いて、みなさんが聞き取りやすいようにゆっくりめに読みました。
自己採点するなら96点です(笑)。残りの4点は、遺跡の名前や「ゲノム」「DNA」といった科学用語のイントネーションが難しく、何回かつっかえてしまったから。私はNHKの『サイエンスZERO』という科学教育番組でMCを務めていますが、その番組内でも、毎回科学用語は噛みそうになったり、実際に噛んだりしてしまうので……。ドキドキしながら収録しました。
ーーぜひ今回の特別展の魅力を教えてください。
「古代」のことや「DNA」のことは、皆さんもきっと学校で習ってきたと思うんです。私は今25歳なので、高校時代は7〜8年前ぐらいなんですが、自分が教科書で習ってきたことが圧倒的に古く感じるぐらいに、今の科学や考古学は進んでいて、驚きましたね。私が学生時代に、父や母が私の勉強している内容を見て「昔はこんなだったのに、今は違うんだね〜」なんてよく話していましたけど、その感覚がちょっと分かったかもしれません(笑)。
例えば、次世代シークエンサってご存知ですか?DNAやRNAなどの塩基配列を解読する装置なんですけど、『サイエンスZERO』の中でもちょくちょく話題に出てきて、なんとなく凄さは分かっていたんです。池の水をとって、その水に混じっている糞などのDNAを次世代シークエンサで解析することで、その池にどんな魚がいるかが分かる……。そんな時代になったというのは知っていたんですけど、まさか考古学でも次世代シークエンサが使われるとは!今回の特別展で知りました。
この数年でいろいろな技術がどんどん進化したからこそ、分かることがぐっと増えたそうなんです。年配の方はもちろん、義務教育を終えたばかりの方でも、きっと新しい発見があるでしょうし、楽しむことができると思いますよ。
ーー井上さんが特に興味を惹かれた展示はありましたか?
イヌやネコに関する展示が面白そうで、実際の展示を早く見てみたいと思いました。私も実家でネコを飼っているんですけど、イヌやネコって、昔からこんなに人と近い存在だったんだなと。そのことにロマンを感じるというか、結びつきを感じるというか、動物の中でもイヌやネコはやはり特別なんだなと思いましたね。特に、イエネコのものと思われる足跡が残された須恵器が可愛らしいなと思いました。
ーーこの特別展の魅力を一言で表すとしたら?
一言だと難しいですね……。そうだなぁ、はるか昔の自分を知ることができるような展示だと思います。私は古代の人たちって、今を生きる自分たちからするとすごく遠い存在だし、もはや全く別の生き物ぐらいに思っていたんですけど、この特別展を通じて、今に繋がっているんだということを再認識しました。
もちろん個としては違いますが、DNAがはるか昔から受け継がれてきたからこそ、今の自分がいる。そういう風に思うと、「意外と自分たちと近いな」と親近感や共通点を持って見られる気がします。
ーーちなみに、井上さんは学生時代、科目としての「理科」はお得意だったんですか?
小学生のときは顕微鏡に興味があって、誕生日プレゼントで顕微鏡を買ってもらって、家の庭の土を顕微鏡で見たりしていたんですけど、高校で化学を勉強するようになってからは苦手意識が芽生えて……。科目としては全然得意じゃなかったです。だから『サイエンスZERO』のMCのお話をいただいたときも驚きましたが、今回のナビゲーターのお話も驚きました。
でも、科学初心者という立場で番組に携わらせてもらう中で、いろいろな知識が結びついていくことが増えてきましたし、それが科学の面白いところだなと思うんです。「あ、これ、化学でやったな」とか「これサイエンスZEROで見たな」とか、それこそ「特別展で見たな」とか、そういう視点が1つ持てるだけで、日常の見え方が変わったり、知識が広がっていったりするんですよね。
ーー科学や理科に苦手意識があるお子さんが、少しでも勉強を楽しむためにはどうしたらいいのでしょう?
そうですね。「勉強しないと……」と思うのではなくて、例えば自分の興味のある分野から入ってみるのもいいと思うんです。そうすると、「あ、これが分かるためには、科学のこういう知識が必要なんだ」とか「こういう技術進歩のおかげで、自分の知りたいことが分かるんだ」とか思えるポイントがきっとあるはず。自分の興味の持っている分野と、科学を掛け合わせてみると、苦手意識もだんだんなくなっていくかもしれませんよ。
「誰か」と一緒に行き「自分」の時間を持てる面白さ
ーーところで、井上さんは普段、美術館や博物館には行かれますか?
はい、たまに行きます。お仕事以外でも、友達がInstagramのストーリーなどで「この展示が良かった〜」と投稿しているのを見て、面白そうだなと思って、プライベートで出かけたりもします。
栃木に住んでいる頃は、正直、美術館や博物館に行くという文化が自分の中になかったんですけど、東京に出てきてから「みんなこんなに美術館や博物館に行くんだ!」とびっくりしました(笑)。東京は美術館や博物館も多く、気軽にアクセスできるのがいいですよね。
ーー美術館や博物館を巡る時間は、井上さんにとってはどのような時間なのでしょう?
目の前には学びがいっぱい溢れているので、そこから新しい知識を吸収するわけですけど、それだけではなくて、「あ、自分はこういう風に思うんだ」とか「こんなことを感じているんだ」とか、どこか自分を知ったり、新たな自分に気づいたりすることも多いです。なんか不思議ですよね。
友達と一緒に美術館や博物館に入ったのに、それぞれが興味のある展示が違うから、出てくる時間がバラバラになったりして……。人と一緒にいるのに、みんなが「自分の時間」を持つ感じが面白い。巡った後に、ご飯を食べながら感想を話し合う時間も好きですし、購入したパンフレットをじっくり読み返すのも好きです。
ーー最後に展示を楽しみにされている方へメッセージをお願いします。
私は、なぜ自分がここにいるのかを知りたいと思うときがたまにあるんです。自分の長い長いルーツを知ると、自分が今生きていることって、その長い歴史の中のほんの一部分に過ぎないし、これからを繋いでいく1地点にもなっているんですよね。その事実を知っただけでも、私は気持ちが軽くなる気がします。「科学の勉強」などと構えずに、ぜひ気軽に見にきてください。
特別展『古代DNA―日本人のきた道―』は、2025年3月15日(土)から6月15日(日)まで、国立科学博物館にて開催。前売券はイープラスほかプレイガイドで販売中。
文=五月女菜穂、写真提供=東京新聞