スカジャンのデザインと文化、再発見! 購入前にチェックすべきスカジャンの基本知識教えます
春の軽やかな装いにぴったりなのが、1枚で存在感を放つスカジャン。戦後の日本、駐留米兵が持ち帰った“記念品”に始まり、今では世界的なファッションアイテムとして知られる存在だ。 そこでスカジャン研究
の第一人者であるテーラー東洋企画統括・松山達朗さんに、スカジャンの基本知識とディテールを解説してもらった。
テーラー東洋企画統括・ スカジャン研究家 松山達朗さん|1990年代に世界初のスカジャン専門書を出版したスカジャン研究の第一人者であり、現在はスカジャンの老舗であるテーラー東洋の企画統括を務める
スカジャンの基本
オリエンタルな刺繍に彩られたスカジャン。その基本構造はベースボールジャケットがデザインソース。米兵に馴染みのあったフライトジャケットと同様に、フロントがファスナー仕様となっているのも興味深いディテールだ。
リバーシブル仕様
スカジャンはリバーシブル仕様である。当時もスーベニアとして、1着で2つのデザインが楽しめる仕様に、米兵は心を踊らせたはずだ。
このスカジャンは1950年代初期の作品。A面に龍、B面に鷲をあしらい、シックなブラックと鮮やかなオレンジのサ テン生地が対照的な組み合わせ。袖の3本ラインなどもスペシャルなディテールだ。
横振り刺繍(背面)
横振り刺繍は、定位置で左右に動くミシンの針の幅を調整しつつ、生地を“振って”動かしながら柄を描いていく特殊な技法。立体感が強調された龍の毛並みに注目したい。
横振り刺繍(胸)
胸元の小さなスペースに、細かな運針によって鮮やかな龍の刺繍を再現。横振り刺繍ならではの、陰影や立体感が強調される表情となっている。
リブニット
スカジャンの襟、袖口、裾はリブの仕様。リバーシブルとなるよう、リブニットは2つの配色で編み立て、中央で折ってボディに縫い付けられている。
ファスナー
フロントに使われるファスナー。引き手が両面に付くバタフライ式となっており、1950年代中期以前には、差し込み口の金具を手作業で曲げて作られたものも存在する。
サテン生地と別珍生地
戦後当時、入手困難なシルクを模して高級感のあるサテン生地を採用したスカジャン。1950年代に入ると物資統制が解かれ、新たに別珍生地が使われるようになった。スーベニアアイテムの価値を高めるため上質な生地感が好まれた。
キルティングステッチ(中綿あり)
1940〜50年代当時は「落ち綿」と呼ばれる低品質の中綿が使われており、その綿を生地に固定させるためキルティングステッチが施された。現代の復刻品では中綿の品質が向上されている。
袖の装飾のバリエーション
スカジャンの装飾の中でポイントとなる袖のデザイン。旧いものでは3本ラインのデザインや、1本ラインに2色の三つ編みのロープパイピングなどがある。後の年代になると身頃と共生地を使ったパイピングへと変化していく。
3 本ライン
1 本ライン+三つ編みロープパイピング
1 本ライン+ 共生地パイピング
1本ラインの生地に細く共生地を挟み込んでパイピングをデザインしている。細かな部分まで装飾されるのがスカジャンの魅力だ。
ブロック体と筆記体
日本の土産物として作られたスカジャンには、背面にJAPANのローマ字がデザインされる。ブロック体や筆記体の違いで年代の差異は余り無いが、比較的筆記体の方が多く使われていた。
袖に刺繍が入った別珍モデル
1950年代中期から登場した別珍のスカジャン。別珍生地のスカジャンや一部のサテン生地のスカジャンの袖には刺繍が入り、和柄の多くは龍で装飾されている。レアなアラスカ柄の袖には犬ぞりの刺繍が施されているのもポイント。
王道の配色・珍しい配色
サテン生地のスカジャンは基本的には2色の生地を使用している。スペシャルオーダーなど特別に仕立てられたスカジャンには、肩の配色を変えた3色のスカジャンも存在する。
スカジャン3大モチーフとは?
「鷲・虎・龍」がスカジャンを象徴する3大モチーフ。どれも米兵に好まれたオリエンタルな描写が魅力。ここではテーラー東洋が所蔵する貴重なヴィンテージと復刻版を交えて柄のバリエーションを解説していく。
鷲
虎
龍
3大モチーフのバリエーション
鷲(単色)
数ある鷲の刺繍の中でも、群を抜いて美しいのが、ホワイト(シルバー)を基調とした単色の刺繍で作られたデザインだ。針足だけで鷲の繊細な羽並みを再現。日本の刺繍職人の技が光るデザインだ。
タイガーヘッド
タイガーヘッドと呼ばれる虎の頭部を大きく刺繍したデザイン。面積が広い分、毛並みや眼光まで緻密に刺繍されているのが特徴だ。特にキバなどリアルに描く刺繍技術に、当時の米兵は度肝を抜かれたはず。
ドラゴンヘッド
浮世絵でもお馴染みの、日本古来から伝わる龍。その伝説上の龍の頭部を大胆に刺繍した通称ドラゴンヘッド。真っ赤な口を開いた獰猛な表情や、風に靡くヒゲやタテガミなど、力強い表現が魅力である。
ジャパンマップは基地所在地と主要都市が描かれる
スーベニアアイテムとして人気を集めた通称ジャパンマップ。日本列島に主要な米軍基地や都市名を刺繍しており、各地の基地に駐留した兵士たちの記念となるデザインで人気を博した。また年代によってそのデザインは変化していく。
朝鮮戦争(1950〜1953年)中から戦後頃に作られたジャパンマップ柄。朝鮮半島に38度線が描かれていることから同年代の作品とわかる。
戦後まもない頃のジャパンマップ。当時はまだ日本人が英語に慣れていない時代のため、職人がローマ字の誤字に気付かず刺繍している。
スカジャンの激レア柄
スカジャンは日本の土産物として発展したスーベニアアイテム。日本の刺繍職人が誇る技で人気を博し、駐留する米兵が特別仕様のスーベニアジャケットを欲しがった。その中には、特別にオーダーされた物や、日本の伝統技術を落とし込んだ逸品が存在する。
蛇髑髏(スネークスカル)
ヴィンテージ市場では高額取引されている蛇髑髏柄。現存数が極めて少なく、非常に貴重な逸品。ドクロの描写や蛇の色使いが異なるバリエーションも存在する。
ハンドプリント(手捺染)
近代的な機械によるプリントではなく、一色ずつプリントの版を作り、それらを手作業で職人が刷り重ねるハンドプリント(手捺染)で描かれているのが特徴だ。
日本の美しい景観を落としこむランドスケープ
五重塔や富士山、桜、松、鳥居、舞妓といった日本らしさを感じさせるモチーフが特徴の通称ランドスケープ柄。レアな柄になると鹿などの動物柄や、牡丹など美しい日本の花、藁葺き屋根や水車など長閑な景観が刺繍されていた。
ミリタリー由来のスーベニアジャケット
ミリタリー由来のスーベニアジャケット。主に世界に駐留した兵士が転在した基地名や戦艦、部隊名など刺繍したツアージャケットや、ベトナム戦争など戦地の記念に作られたベトジャンがある。
胸にタイガーヘッドや福の文字、背面にはメッセージや地図をデザイン、スカジャンと異なり手刺し刺繍だ。
日本の横振り刺繍でデザインされたツアージャケット。これは沖縄のコザ市にあった刺繍テーラーが製作したもの。