アンバサダー・石田ゆり子が想いを語る『モネ 睡蓮のとき』記者発表会レポート 名画に五感でひたるひとときを
印象派の画家、クロード・モネ。関連の展覧会はこれまでも頻繁に開催されており、多くの人がどこかしらでその作品に触れたことがあるのではないだろうか。モネが印象派の画家で、明るい色彩で絵を描くこと、その代表作が《睡蓮》であることは、美術ファンならずとも広く認知されていることと思う。
この秋、新たなモネの展覧会が開催される。タイトルは『モネ 睡蓮のとき』。開催地となる東京会場は、上野の国立西洋美術館(会期:2024年10月5日(土)〜2025年2月11日(火・祝))。その後、京都、豊田へと巡回を予定している。
6月12日には記者発表会がおこなわれ、会場には展覧会主催者や、アンバサダーをつとめる俳優・石田ゆり子が登場。この展覧会の見どころや、開催に向けた想いを語った。
本物に囲まれる、没入型展覧会
記者発表会冒頭では、まず主催者代表挨拶として日本テレビ放送網株式会社 取締役執行役員の澤 桂一氏が登壇した。
「今回のテーマはずばり“睡蓮”ということで、《睡蓮》だけでも20作以上が展示されます。2mを超える大画面の《睡蓮》に四方を囲まれる特別な展示があると聞き、大変楽しみにしています。私自身も一昨年にマルモッタン・モネ美術館を訪問する機会があり、没入型の体験をすることができました。最近は「没入型」というと、デジタルやイマーシブというのが流行りですが、やはり本物に囲まれるというのはひと味も二味も違うものだな、という経験をしてまいりました」
「そして、アンバサダーには石田ゆり子さんにご就任いただきました。本当にモネがよく似合う方で、ご本人もパリの街やモネに造詣が深いとお伺いしています。また今回のテーマ“睡蓮”は英語で「ウォーターリリー」(lily=ユリ)。石田ゆり子さんは本当にぴったりだと思っています。
この展覧会は、東京から京都、豊田と巡回してまいります。印象派150年を飾るのにふさわしい展覧会だと確信していますので、ぜひとも多くの方にご来場いただきたいと思います」
西美史上3度目のモネ展、知られざる「晩年」の魅力にフォーカス
続いて、国立西洋美術館学芸課長の渡辺晋輔氏が、開催館代表挨拶としてマイクを引き継いだ。展覧会の魅力を存分に伝えるコメントだったため、そのまま紹介する。
「この展覧会は、国立西洋美術館にとっては非常に特別な展覧会になります。なぜかと言いますと、このモネという画家が当館にとって特別な画家だからです。当館には毎年数十万人の方が訪れて常設展示をご覧になるのですが、その多くの方の目当てが、まさにこのモネなんですね。モネの展示室は常設展会場のまさしくハイライトとなっています。
また、国立西洋美術館のコレクションの礎となった「松方コレクション」、松方幸次郎にとっても、モネは特別な画家でした。松方はモネのアトリエにわざわざ足を運んで、そして自ら交渉してモネから直接作品を購入しています。画商から購入したものも合わせると、彼は合計30点以上のモネ作品を購入します。それぐらい彼にとってモネは重要な画家だったんです。つまり「松方コレクション」の中心にあるのがモネであって、そして現在の国立西洋美術館の中心にあるのもモネ、というわけなんです。
ただ、これほど重要な画家ですけれども、国立西洋美術館はこれまでの65年の歴史において、モネの展覧会は実は2回しか開催していません。最初が1982年に日テレさんと一緒に開催したモネ展です。モネの初期から晩年に至るまで70点を展示しました。2回目が2013年。ポーラ美術館さんと一緒にやったんですけれども、そこではいろんな画家を織りまぜて100点ほどの作品を展示しましたが、モネの作品は30数点にとどまったんですね。……で、今回はどんな展覧会かというと、モネの晩年の作品を65点、東京会場では展示いたします。この「晩年の作品」というのが特筆すべきところで、まさに、松方幸次郎がモネと出会って交流した時期が晩年だったんですね。ですから65点ものモネ作品を展示する、そして、晩年に絞ったテーマのもとに作品を展示する、この2点によって、今回の展覧会は当館にとっても非常に重要な機会になると言えると思います」
「この重要な展覧会を企画するにあたりまして、当館も非常に力を入れてまいりました。担当研究員を11ヶ月パリに滞在させまして、そちらでマルモッタン(・モネ美術館)のキュレーターとやり取りをしつつ、企画を練り上げてきました。必ず満足のいく、素晴らしい内容になるんじゃないかと思っています。
実は、モネの晩年の作品というのは、例えば1870年代80年代の作品と比べると、以前はちょっと評価が低いものでした。ただその後、価値の逆転のようなことが起こりまして、現在では晩年の作品の価値がものすごく上がっています。オークションの落札記録を見ても、モネの晩年の作品というのは一番高値がついているんですね。今回の展覧会によって、皆様にはモネの新しい魅力に気づいていただけるのではないかと思います。ぜひ皆さん、ご期待ください」
水と反映の風景に惹かれて
続いて、担当研究員の山枡あおい氏(国立西洋美術館)による展示構成、見どころ解説が行われた。その一部を紹介しよう。
「第1章 セーヌ河から睡蓮の池へ」では、のちの《睡蓮》につながる1890年代の連作が紹介される。晩年の制作に焦点を当てた展覧会だけあって、第1章の時点ですでにモネは50代である。《ジヴェルニー近くのセーヌ河支流、日の出》では画面の半分を川面に映った鏡像が占めており、河岸の風景というより「水面を描く」ことに大きな関心が向けられているのがわかる。
今回は《睡蓮》だけで20点以上が一堂に会する貴重な機会。中でも1897年の《睡蓮、夕暮れの効果》は、モネが睡蓮を描いた中でも最初期のものとされる作品なので注目だ。
幻のプロジェクトたち
本展で見られる花は睡蓮だけではない。「第2章 水と花々の装飾」は、モネの描くほかの花、アガパンサスや藤のモチーフに注目するセクションだ。アガパンサスという花はあまり馴染みがなかったが、調べてみたら長い茎の先にブルーの小さい花が咲く、彼岸花に似た形の花だった。
この花もモネにとって重要なモチーフだったようで、当初の計画では睡蓮の「大装飾画」に、アガパンサスを主題にした巨大な作品も含まれるはずだったという。しかしその作品は後にモネ自身がアガパンサスを消してしまったうえ、分割されてバラバラに所蔵されているため、当時の様子を知ることはできない。本展ではその“幻の”アガパンサス作品の習作が展示されるという。
幻となった作品には、藤の花も。「大装飾画」の初期構想では、睡蓮の壁画の上に藤の花のフリーズ(帯状の装飾)が付けられる予定だったという。本展では、残された習作のうち最大サイズのものが来日する。
イマーシブな《睡蓮》体験
「大装飾画」とは、睡蓮の池を描いた巨大なパネルで楕円形の部屋の壁面を覆うという、晩年のモネが情熱を傾けた一大プロジェクトである。「第3章 大装飾画への道」では、その壁画の制作過程において生み出された、ビッグサイズの睡蓮たちが並べて展示される。例えば、上の《睡蓮》の大きさは200cm×180cm。会場では大画面に囲まれることで、没入感のある鑑賞体験を楽しむことができそうだ。
また、東京会場での注目は《睡蓮、柳の反映》だ。この作品はモネが生前、唯一手放すことを認めた睡蓮の装飾パネルであり、購入したのは国立西洋美術館の礎を築いた松方幸次郎である。およそ100年前に購入して以来、この作品が同じ「柳の反映」のモチーフを描いた関連作品と並べて展示されるのはこれが初めての機会になるという。
巨匠、最晩年の衝動
「第4章 交響する色彩」では、1918年終わり頃から「大装飾画」と並行して制作された、モネ最晩年の小型の連作たちが展示される。国立西洋美術館の渡辺氏が語っていた“モネの新しい魅力”とは、まさにこの部分を指すのだろう。白内障による視力の低下もあって、画面は抽象画のようになり、ハッとするような強い色彩と筆の跡が見られる。実際に作品の前に立ったとき、どう感じるだろうか。会場で向き合うのが非常に楽しみな作品たちである。
本展では世界最大級のモネコレクションを誇るマルモッタン・モネ美術館から、約50点もの名品が来日する。そしてそのうち7点は日本初公開作品だ。さらに、日本国内所蔵の作品も加えて、大画面の没入感ある《睡蓮》、そしてこれまであまりスポットを当てられてこなかった、最晩年の抽象表現に近づいたモネ作品を紹介するという。まだ知らないモネの世界が待っていると思うと、秋の開幕が待ちきれなくなりそうだ。
アンバサダーの石田ゆり子が登場
解説に引き続き、会場には展覧会アンバサダーの俳優・石田ゆり子が登場。MCからの質問に答える形で、モネや本展への想いを語った。
ーー石田さんとモネとの出会いについて教えてください。
私は正確に言いますと19歳のときに初めてパリに行ったんです。そのときに番組の撮影でオランジュリー美術館に行くことがありまして、そこでふと見た空間がモネの《睡蓮》の間だったんですね。そのときはモネのための撮影ではなかったので、思いがけずその空間を見ることができて。 絵画というものに、そんなに心を奪われる経験をそれまでしたことがなくて。なんでしょう……もう、その空間にいるだけで本当に幸せな気持ちで。それが私とモネの出会いでした。私にとってモネはとても特別な存在なんです。
ーー今回の展覧会はどのようなものになると感じていらっしゃいますか?
多分、日本の皆さんはモネが好きだと思うんですね。それだけ私たちにとって馴染みがあるモネの展覧会の中でも、晩年のモネに焦点を当てて、しかも初めて来日する作品がいくつかあるということで、私もとっても楽しみなんです。きっとたくさんの方に来ていただけるのではないかと思います。
ーー 石田さんは、絵画を見る際のこだわりやスタイルのようなものはありますか?
あまり知識を先に入れずに、感覚だけで見たいと思います。モネに関しても、いろんな予備知識がないといけない……って思う方がいらっしゃるかもしれないけど、もともと芸術ってそういうものではないと思うし、それぞれの見方があると思います。 一人一人の心への受け入れ方は千差万別だと思いますので。とにかくまっさらな気持ちで、ただただ浸っていただければな、と思っています。
ーー まさに「私のモネ」を見つける、みたいな感覚なんでしょうか。
はい、そうです!
「lily」名義で音楽活動も行なっている石田は、本展のテーマソング「私のモネ」を7月10日に配信リリースする。質疑応答の中で音楽活動について尋ねられると、大いに照れつつ言葉を繋いだ。
ーー本展テーマソングの作詞・歌唱もされたそうですね。いかがでしたか?
はい(照)。私、本当にひっそりと歌をやってるんですよ。ほとんどの人は知らないだろうし、知られないままでいたかったんです。姿を出したくなかったというか、誰なんだろう?っていう程度でいいと思ってたんですね。今回このようなお話をいただいて、大好きなモネですし、こんなチャンスも生きてる間に1回ぐらいしかない、と思ったのでお受けいたしました。
と、ここで会場のスクリーンに、楽曲プロデュースを担当したアーティスト・大橋トリオからのメッセージが映し出され、突然のサプライズに驚いた様子を見せる石田。
ーー 作詞やレコーディングで、何か思い深いことはありますか。
私がlilyという名義で細々と歌手活動するときは、全て大橋トリオさんが曲を作って私が詩を書いているんですね。今回はとにかく、クロード・モネという偉大な画家に対して失礼があってはいけないと思って。たくさん文献を読みましたし 、映像も見て、何とかこの素晴らしいモネの世界を詩に落とし込もうとしました。先に曲があったので、そこに言葉を当てはめていくっていうのは、思ったよりも難しかったですね。皆さんに楽しんでいただけると嬉しいです。
コンセプトは、「五感でひたるモネ」
本展では「五感でひたるモネ」をコンセプトに、様々な分野とのコラボレーショングッズが展開される。見て、聴いて、食べて、香りで、触れて、と驚くほどのモネづくしである。豊富なラインナップの中に誰しもきっと心くすぐられるアイテムがあるはずなので、展覧会と併せてこれらのグッズにも注目だ。
『モネ 睡蓮のとき』は上野の国立西洋美術館にて2024年10月5日(土)〜2025年2月11日(火・祝)に開催。その後、京都、豊田へと巡回予定。巨匠モネの新たな魅力、晩年の制作の核心に迫る意欲的な展覧会を、見逃すわけにはいかない。前売券はイープラスほかで販売中。
文=小杉美香 写真=小杉美香、SPICE編集部、オフィシャル提供