別名‘歩く肺炎’ 今年の患者数が急増している 『マイコプラズマ肺炎』とは?
「マイコプラズマ肺炎」は、ここ数年で、よく名前を聞く病気になってきましたよね。「マイコプラズマ肺炎」というものは、「マイコプラズマ」という細菌の一種が原因で起きる肺炎のことなんです。先月27日に国立感染症研究所から発表されたんですが、患者は7週連続で増加し、全国およそ500の医療機関に8月18日までの1週で1医療機関あたり1.30人でした。これは、統計が始まって過去最多だった2016年以来、8年ぶりに高い水準なんです。
マイコプラズマ肺炎は別名‘歩く肺炎’
例えば、肺炎を疑うような症状が出ていて、胸のレントゲンやCTなどを撮影した際に、肺が白くなっていて肺炎にはなっているのに、「咳以外の全身の症状はそれほど酷くない」という場合が多いんです。本人は肺炎であることに気づきにくいので、日常生活を普段通りに行うことが多く、出歩いてしまい、周囲の人に移しやすいことから「歩く肺炎」とも呼ばれているんです。
また、マイコプラズマという細菌は、肺にまで広がっていない場合でも、すなわち肺炎になっていない状態でも、気管支に留まり、炎症を起こしている場合も少なくありません。この場合も、しつこい咳が続くのですが、全身の症状は比較的軽症で済むことが多いので、医療機関を受診しなかったり、家で療養しなかったりなどの理由で、周囲に移してしまう可能性が高いために「歩く肺炎」につながる細菌と考えられています。
感染するとまずは、風邪の症状である、発熱、倦怠感、頭痛などから始まります。特徴的なのは、症状が出てから数日して、乾いた咳が生じることです。特に、咳は徐々にひどくなることも多く、数週間も続くこともあります。熱や倦怠感などは治っているのに、咳だけがどんどんひどくなるという症状が特徴的です。また、新型コロナや風邪でも同じような症状になることも多いので、マイコプラズマ肺炎だと診断に至るまで時間がかかってしまうこともあります。感染経路としては、インフルエンザや新型コロナと同じで、飛沫感染や接触感染です。ただし、新型コロナや風邪と異なり、潜伏期間が2~3週間ととても長いのが特徴です。なので、どこで感染の機会があったのかを特定できない場合が多いんです。
患者の80%近くは14歳以下の子供に多い!
「肺炎」と聞くと、年齢を重ねた人の方がかかりやすいというイメージがあるかもしれませんが、実は80%近くが14歳以下の子供に多いと報告されています。ただし、もちろん成人でもかかることがあるので注意が必要です。特に今年は感染者数がとても多いので、子供から大人への家庭内感染などが生じてしまう可能性が高く、大人への感染も危惧されています。
また、既に流行してしまっているんですが、特に注意してほしいのが、これからの季節!これまでの報告では、マイコプラズマ肺炎は1年を通して感染が確認できるんですが、特に秋や冬に増加する傾向があるので、さらに患者数が多くなることが懸念されています。9月になり、夏休みが終わって学校が始まりつつあるので、潜伏期間が2~3週間と長いということを考えると、今後、さらに注意が必要です。
医療機関に行ったほうがいタイミング
これは、子供でも大人でも言えることなのですが、「とにかく咳が長引いているな」感じたら、と医療機関を受診してください。特に、夜中に起きてしまうほどの咳、食べ物を吐いてしまうような咳があった場合には、早めの受診をお願いします。もし可能であれば、家にいるときにどんな咳をしていたのか、辛い咳が出た際に、スマホなどで動画を撮影しておいて、それを医師に見せると診断に役立つこともあります。医療機関では、レントゲンやCTなどで撮影し、鼻や喉の粘液にマイコプラズマが含まれているか迅速に確認できる‘診断キット’があるので、それを使って診断することになります。
治療薬は?
マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマに効果のある抗菌薬で治療できます。抗生物質というと、ペニシリン系、セフィム系がといったものがよく処方されますが、これはマイコプラズマには「効果がない」とされていますので、マクロライド系、ニューキノロン系などの抗菌薬が有効です。なので、病院での診断がとても大切になります。
流行している原因ははっきりとわかりませんが、できる対策は、マスク、換気、手洗い!
今年、流行している原因は、はっきりとはわかっていません。ただし、新型コロナの感染対策を徹底していた際には、マイコプラズマ肺炎の感染者数は少なかったことから、コロナ禍が落ち着いて、人と人が接する機会が増えたことや、猛暑もあってマスクをしない機会が増えたり、換気をしないことも影響しているのではないかと思います。海外でも、新型コロナが流行し感染対策が徹底化されていた時には、マイコプラズマ肺炎の発生がとても少なかったです。しかし最近は、世界の多くの地域で、マイコプラズマ肺炎の発生の増加が報告されています。
対策は新型コロナウィルスを思い出して
新型コロナと感染経路は同じなので、その対策を思い出して実践してください。
・マスクの着用
→特に体調が悪い時にはマスク着用を徹底しましょう
・適度な換気
→まだまだ暑い日もあるので難しいかもしれませんが、人が多い室内では適度に換気を行いましょう
・こまめな手洗いやアルコール消毒も有効です。
また、家族の中で感染者が出た場合には、できるだけ部屋を共有しないことが大切です。
難しい場合は、咳が出ている感染者がいる間は、家族全員でマスクをしたり、タオルの共有はさけましょう。
【森田豊(医療ジャーナリスト・医師)】
(TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』より抜粋)