下馬評の低さ、過密日程、EASL敗退…“西地区王者”に返り咲いた琉球ゴールデンキングスが辿った「正しいステップ」
プロバスケットボールBリーグの琉球ゴールデンキングスは4月19日、沖縄サントリーアリーナで長崎ヴェルカに90ー80で勝利し、2シーズンぶりの西地区優勝を決めた。最大20点をリードしながら、最終盤で4点差まで詰め寄られたが、ヴィック・ローの「4点プレー」や伊藤達哉の値千金のスティールなどで逃げ切った。 この結果を受け、レギュラーシーズン終了後にリーグの上位8チームがトーナメント形式で年間王者を争う「チャンピオンシップ(CS)」において、初戦の準々決勝をホームで開催する権利を獲得した。準々決勝は5月9日、10日、12日に2戦先勝方式で行われる。対戦相手は未定。 昨シーズンは最終盤で名古屋ダイヤモンドドルフィンズに勝敗数で並ばれ、直接対決は4戦全敗だったため、西地区2位でレギュラーシーズンを終えた。西地区連覇が6でストップしたこともあり、今回の王者返り咲きはチームにとって意義深いタイトルになったはずだ。 今シーズンを振り返ると、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。オフに今村佳太やアレン・ダーラム、牧隼利など多くの主力が退団し、例年に比べるとそこまで下馬評が高かった訳ではない。 海外試合もある東アジアスーパーリーグ(EASL)や天皇杯全日本選手権にも並行して出場し、他チームに比べて過密な試合スケジュールでもあった。Bリーグ全体のレベル向上に比例して地区優勝の価値も年々高まっており、チームにとって自信を深める出来事になっただろう。
CSで「8大会連続出場」はキングスと千葉Jのみ
西地区制覇は通算7度目となるが、それ以前に、キングスはある偉業を継続している。 2016年の創設から今季で9シーズン目を迎えたBリーグ。新型コロナウイルスの感染拡大により、シーズンが途中で終了した2019-20シーズンを除き、CSの開催は今回で8回目となる。これら全8回への出場を継続しているのは、キングスと千葉ジェッツ(千葉J、東地区)の2チームのみだ。 この間にキングスのヘッドコーチ(HC)を務めたのは伊佐勉氏、佐々宜央氏(現アソシエイトヘッドコーチ)、藤田弘輝氏、現HCである桶谷大氏の4人。当然、選手も毎年入れ替わっており、9シーズン所属しているのは岸本隆一のみである。 それでも強さを維持できる要因は何か。CS進出を決めた4月9日の滋賀レイクス戦後、旧bjリーグでもキングスを4シーズン率いた桶谷HCに見解を聞いた。 「シーズンを通して、チームとして成長しようというカルチャーが根付いているからだと思います。誰が入ってきても、その根底が変わらずに受け継がれています。今シーズンは、キングスがCSに出られないと予想したメディアさんも多かったですが、チームとして勝ちも負けも味わいながら成長していく土壌があることは、間違いなく僕たちの強さだと思います」
「チャレンジできる環境」で若手が成長
桶谷HCの言葉にあったように、多くの主力が退団して迎えた今シーズンの下馬評は3年連続でファイナルに進出した昨季までと比べると確かに低かった。 実際のところでは、キングスのCS進出を予想するメディアこそ多かったが、優勝候補にはNBA帰りの渡邊雄太が加入した千葉Jのほか、強豪の宇都宮ブレックスやアルバルク東京を優勝候補に挙げる見方が大半を占めた印象だ。 開幕当初の契約人数が11人という異例の少なさだったことに加え、主力定着を目指す荒川颯や植松義也、ルーキーイヤーの脇真大、新たに加入した若手のケヴェ・アルマらが名を連ねたため、戦力を測るのが難しい側面も影響しただろう。「育成年」と見る向きも多かった。 その中でも、桶谷HCはチームのカルチャーであり、自身のコーチング哲学でもある「選手を成長させながら、チームとして成長していく」という姿勢を貫いてきた。昨年10月にB3横浜エクセレンスから期限付き移籍で加入した平良彰吾も含め、若手が経験を積みながら自身の役割を少しずつ明確にしていった。
指揮官は自身の選手起用について言及
4月19日の長崎戦後、指揮官は自身の選手起用について言及した。 「僕はどの選手が失敗しようが、前半はある程度のプレータイムを与えて、特に若い選手にとってチャレンジをすることが怖くないという環境にしたいと思っています。経験をして、失敗もしながら成長できるように仕向けていく。その中で、最終盤にはお互いが信頼できるチームを作り上げたいと考えています」 さらに今季は、自身の盟友である佐々氏がアソシエイトヘッドコーチとしてキングスに復帰し、主に若手の育成を担ったことでコーチ陣の厚みも増した。 レギュラーシーズンの最終盤にきて、急激に存在感を増している荒川は「それ(チャレンジできる環境)がキングスのカルチャーだし、選手一人ひとりに役割を与えることで、それぞれが成長していける環境があると思います。僕自身も気持ち良くチャレンジできています」と語る。 脇や平良の成長も、こういった環境が影響がしていることは間違いないだろう。
二人のキャプテンが語るチームの歩み
厳しいスケジュールを乗り越えて西地区を制覇したことも特筆に値する。前半戦では伊藤や平良、岸本らが負傷離脱する時期もあったが、地区首位を堅持し続けた。 3月7〜9日にあったEASLのプレーオフ「ファイナル4」で痛恨の2連敗を喫し、一時はチーム状態が悪化したものの、3月15日の天皇杯決勝でアルバルク東京を下して初優勝を飾ったことで強さが増した。 キャプテンの一人を務める小野寺祥太は、ここまでの歩みをこう振り返る。 「西地区優勝は率直にうれしいです。シーズンが始まる時は選手もだいぶ変わって、どうなるか不安な部分もありました。シーズン中盤もうまくいかない時がありましたが、後半戦に差し掛かっていくうちにディフェンスの強度など細かい部分をチームとして表現できるようになりました。天皇杯を優勝したことで、チームとしての流れができたように思います」 もう一人のキャプテンであるヴィック・ローも、“天国と地獄”を味わったEASLファイナル4と天皇杯決勝を含めて「多くの重要な試合に恵まれた」と話す。それを糧に、互いへの信頼が深まり、チーム全員がステップアップできた感触があるという。 「意義のある試合を多く戦ってきたので、その経験が自分たちの助けになっています。今日の試合(4月19日の長崎戦)も20点リードから追い上げられ、昨シーズンならナーバスになって負けていたかもしれません。でも重要な場面でみんなが連係し、試合に勝てました。チームは毎日、毎試合ごとに良くなっている。必要な時に正しいステップを踏んでいるということだと思います」
琉球ゴールデンキングスに最大の試練が訪れた
平良が負傷離脱しているものの、チームはほぼ万全な状態でCSに向かっていく…かに見えたが、ここにきて最大の試練が訪れた。 4月21日、チームの絶対的支柱である岸本が「左第5中足骨骨折」と診断され、近日中に手術を受けることが発表された。全治期間は8〜12週のため、CS出場は絶望的な状況と見られる。平均で11.1得点3.5アシストを記録し、際立った勝負強さと豊富な経験を備えた“ミスターキングス”が戦線を離脱した影響は計り知れない。 レギュラーシーズンは残り5試合。それを消化すれば、すぐにCSの幕が開く。今こそ、長いシーズンで積み重ねてきた個々の成長と互いへの信頼を「団結の力」に変え、チーム全員で勝利を重ねていきたい。