「アパレルと同じものはつくらない」飲食店向け制服の老舗が守り続ける、業務用品メーカーとしての視点
70年以上の長きにわたり、調理用の白衣やコックコート、エプロンなどのサービス業向けの制服を製造・販売し、業界では知る人ぞ知るユニフォームメーカーのセブンユニフォーム。老舗として定番商品を提供し続けている一方で、労働環境や社会問題にも目を向けた製品開発なども積極的に行っています。「服」ではなく「道具」をつくるという、ユニフォームメーカーとしての視点を大切にしています。
セブンユニフォームは1952年、「株式会社白洋社」として東京・日本橋の蛎殻町で創業しました。
調理服のコックコートなど白衣既製服の製造にはじまり、1964年開催の東京五輪でのコンパニオンユニフォームや1970年開催の大阪万博のユニフォームを手がけるなど、現在に至るまで一貫してサービス業向けの業務用ユニフォームを提供しています。
製品のラインナップは多岐に渡り、厨房で着用するコックコートなどの白衣からタキシード、エプロンにスカーフまで、レストランやホテルといったサービス業で使用するアイテムの数々がそろいます。
守るべきところは守る責任
その特性上、作業時の擦れや度重なる洗濯にも耐え、数年程度は買い替えの必要がない耐久性が求められてきた業務用ユニフォーム。
しかし、同社の企画部部長の森本さんは、働く環境や時代の変化に合わせ、業務用製品に求められるポイントもこの10年ほどで徐々に変化していると話します。
「実際に現場で着用する人が求めているのは、単に耐久性の高いユニフォームとは限りません。企業も働く従業員の声を大切にするようになり、長持ちする耐久性をベースに、着心地の良さやモチベーションアップにつながるような製品が人気です。ユニフォームは社会を反映するツールの一つなんです」
こうした社会の流れを受け、セブンユニフォームが2021年から販売を開始した製品が、通気性が良く薄手で軽量な「涼感コックコートシリーズ」です。
伝統的なコックコートは、綿100%の「カツラギ」と呼ばれる目が詰まった厚手生地が使われます。コンロやオーブンなど、火を扱う厨房内で使用するため、火傷などを防ぐ目的で耐火・耐熱性が求められているからです。
その反面、厚手の生地かつ見返しの重なりなどもあるため重く、通気性も高いとは言えないため、熱気がこもる厨房内で着用する人からは「暑さが不快」という声があがっていたといいます。
こうした現場の声を受け開発が進められた涼感コックコートには、ポリエステル70%・綿30%の新開発素材のライトツイルを使用し、従来のものより薄手で軽く、通気性も向上。さらに耐久性も損わずにつくることに成功しました。
その一方で、一般的な夏服のように袖を短くするだけといったデザイン変更は行わず、伝統的な長袖のスタイルを継承しています。先進的なアプローチを試みながらも伝統を重んじる背景には、業務用ユニフォームを提供し続けてきた老舗としての矜持がありました。
「白衣のコックコートは、着用したまま国賓をもてなすことも認められているユニフォームです。着用する人の意見を尊重しすぎて品位まで失ってしまわないよう、守るべきところは守っていく。それが老舗としての責任であり務めだと思っています」
すべては働く人のために
こうした真摯な姿勢は、ストック型のユニフォームメーカーという会社のビジネスモデルのあり方にも表れています。
取引先のなかには何十年も同じ製品を発注してくる企業もあるといい、セブンユニフォーム側でも可能なかぎり同じ製品を提供し続けています。なかには、40年以上つくり続けているというロングセラー製品も。
あらゆる種類の製品は、栃木県鹿沼市にある広大なロジスティックセンターにストックして管理され、サイズやカラーなども常に在庫がある状態をキープしています。そのため、必要なときに必要な製品がすぐに届くのです。
その根底にあるのは、「働く人たちを支えたい」という純粋な思いです。
「もちろん、ものによっては需要の少ない製品もあります。それでも、どの製品も常に提供できるようにし続けているのは、私たちが売っているのは『服』ではなく『道具』だと捉えているからです」
製品は、合羽橋や新宿など都内の直営店で手にとって見ることができ、試着も可能。また、自社のウェブサイトでも購入ができます。さらに1点から購入できるため、小規模の店舗や個人にとっても使い勝手のよい販売方法であることも特徴です。
アパレルメーカーと同じものはつくらない
常に働く人のことを考えているというセブンユニフォームの行動指針が反映されているのは、製品の機能性や販売方法の利便性だけにとどまりません。
2021年に登場した「リサイクルコットンデニムシリーズ」は、糸の製造過程で発生した落ち綿を原料とした、リサイクル原料使用率100%の環境配慮型ユニフォーム。
誕生の背景にあったのは、納品する企業側から環境に配慮した製品を望む声が増えていたことに加え、特に外資系企業はサステナブルな経営に取り組む本国の方針により、環境配慮型ユニフォームの導入を急いでいたことでした。こうした状況をふまえ、「自分たちにできることから始めよう」と模索した結果生まれた製品だったといいます。
落ち綿は短い繊維クズのためそのままで使用することは難しく、これまでは大量に廃棄されていたものだったといいます。そんな落ち綿を再紡績し繊維に加工することができる技術をもつ、スイスに本社があるUster社の設備を取引先企業が所有していることを知り、すぐさま取り組みを依頼しました。
こうして、落ち綿を再紡績した生地は加工されてデニム生地に。エプロンやパンツなどの製品に仕立てることができ、サステナブルなリサイクルコットンデニムシリーズが誕生しました。
製品は、硬さとハリがある厚手の13ozと、しなやかでライトな質感の薄手の6.5ozの2種類のデニム生地をラインナップしています。
インディゴ染めのため色落ちや経年変化も楽しめますが、単なるデニム製品をユニフォームメーカーがつくることに意味はないと森本さんは強調します。
「単に綿100%のデニム製品であれば、アパレルメーカーさんがとても素敵なものをつくっています。環境に配慮したユニフォームを求めている企業に向け、落ち綿でつくるからこそ意味がある。あくまで業務用製品を提供するメーカーとしての視点を大切にしているんです」
自信を与える道具でありたい
1992年には、ファッションブランド「ZUCCa」創始者のデザイナー、小野塚秋良さんとともにユニフォームブランドの「HAKUÏ(ハクイ)」を設立するなど、デザイン面などでもさまざまな挑戦を続けてきたセブンユニフォーム。
その根底にあるのは、現場で働く人を思い、モチベーションアップにつながるユニフォームを提供し続けていきたいという強い思いです。
「セブンユニフォームのユニフォームは着心地がいいし、上質な素材やデザインで気分も上がる。働く人がそんなふうに感じながら自信をもって仕事ができれば、より良いサービスを提供することにもつながると思うんです。ユニフォームはあくまでひとつの道具にすぎませんが、そんなポジティブな影響を与えることができる存在であってほしいですね」