実力派ミュージシャン勢揃い!渡辺貞夫、日野皓正、大野雄二らのジャパニーズ・フュージョン
日野皓正のハイクオリティなフュージョン作品
ジャパニーズ・フュージョンの膨大なカタログの中から、 “今こそ聴くべき楽曲” を集めたコンピレーション・アルバム『CROSSOVER CITY』シリーズ。このシリーズを紹介するコラム第4弾は、ビクターエンタテインメント編の『CROSSOVER CITY -Misty Morning-』だ。
ビクターはベテランのジャズミュージシャンによるフュージョン作品が揃っているという印象が強いかもしれない。その理由としては、日野皓正と渡辺貞夫という二大巨頭が所属していたからだ。
日野皓正は、言わずと知れた日本を代表するジャズ・トランペット奏者である。日本のジャズ黎明期を形作ったと言われる白木秀雄クインテットのメンバーを経て1967年にデビュー。1960年代末といえば、エレクトリック・マイルスの旋風が吹き荒れていた頃であり、彼もまたジャズとロックを合体させた “ジャズ・ロック” のアプローチで一世を風靡。そうかと思えばフリージャズをやったり、1990年代以降はヒップホップを取り入れたりと、時代のトレンドに敏感なミュージシャンでもある。そして、70年代末から80年代にかけてのクロスオーバー / フュージョンの時代には、ハイクオリティなフュージョン作品を多数生み出した。
その代表作が名盤の誉れ高いニューヨーク録音作『City Connection』(1979年)である。『CROSSOVER CITY -Misty Morning-』には、このアルバムからアーバン・コンテンポラリーな雰囲気の「センド・ミー・ユア・フィーリング」をセレクトしている。
フュージョンの先駆者、渡辺貞夫
渡辺貞夫もフュージョン期に活躍したベテラン・ジャズミュージシャンの代表的存在だ。1950年代より穐吉敏子のグループで活動し、1961年に初リーダー作を発表。当初は4ビートのオーセンティックなジャズのイメージだったが、渡米してゲイリー・マクファーランドに師事することで、ボサノヴァやアフリカ音楽などへのアプローチを行うようになった。まさにフュージョンの先駆者といっていいだろう。
本格的なフュージョン作といえば1977年発表の『My Dear Life』であり、その後も『California Shower』(1978年)、『Orange Express』(1981年)、『Rendezvous』(1984年)といったアルバムをヒットさせている。『CROSSOVER CITY -Misty Morning-』収録の「ダウン・イースト」は、ニューヨーク録音作『Morning Island』(1979年)からの1曲で、タイトなビートを基軸にしたアンサンブルがクールだ。スティーヴ・ガッド、デイヴ・グルーシン、エリック・ゲイルなどと共演したきめ細やかなサウンドが見事だ。
グルーヴィー&メロウな大野雄二率いるYou & Explosion Band
ジャズ畑からのフュージョンということでいえば、大野雄二率いるYou & Explosion Bandの「Southern Dream」も象徴的な楽曲といえるだろう。『ルパン三世』や『犬神家の一族』などのサウンドトラックでも知られる大野雄二も、もともとはピアノ・トリオ編成で4ビートのジャズを演奏していた。しかし、1970年代に入ってからジャズの演奏活動を一時休業し、作曲家、編曲家、映画音楽作家として再出発。You & Explosion Bandも最初は『ルパン三世』などのサントラを演奏するためのバンドに、便宜的に名付けられたという。彼の音楽はまさにグルーヴィー&メロウな作品ばかりで、最も今回のコンピレーション企画『CROSSOVER CITY』に似合うアーティストと言っても過言ではない。
実力派ミュージシャンが揃っているビクター編
先述のジャズメンたちほどのベテランではなくとも、当時の実力派ミュージシャンが揃っているのもビクター編の特徴だ。渡辺貞夫に師事したトロンボーン奏者の福村博、キングレコードのELECTRIC BIRDで傑作を多数残した益田幹夫の移籍作、ユーミンから松田聖子まで様々なセッションに参加すると同時にPARACHUTE(パラシュート)のメンバーとしても知られる松原正樹、渡辺貞夫や鈴木勲らのグループで活躍したギタリストの秋山一将、ジャズ畑ではないがロックギタリストとしての立場からフュージョンへアプローチした鈴木茂、サザンオールスターズを始め数多のセッションでそのハーモニカのプレイを聴くことができる八木のぶおなど、ありとあらゆるプレイヤーが揃っている。
親しみやすいキャラクターで大衆的な人気を得たMALTA
一方、当時のフュージョン・ブームに乗って登場したフレッシュなアーティストもラインナップされている。MALTAはテレビやラジオでのタレント的な活動で知っているという方も多いことだろう。チャールス・ミンガスやライオネル・ハンプトンなどとの共演歴がある腕利きサックス奏者でありながら、1983年のソロ・デビュー以来、親しみやすいキャラクターで大衆的な人気を得たミュージシャンだ。彼の作品はいずれもスムースなフュージョンサウンドが特徴で、セレクトした「モーニング・フライト」もストリングスを交え、とにかく心地良さに重点が置かれている。とはいえ、野力奏一、松原正樹、岡沢章、渡嘉敷祐一といった豪華メンバーに支えられているため、サウンドを構築する個々のプレイにも注目したい。
ユニークなところでは、“和製シャカタク” といわれたKANGAROOも『CROSSOVER CITY -Misty Morning-』における目玉のアーティストだ。ヤマハのオーディションからデビューのきっかけをつかんだグループで、キーボード奏者がエレクトーン出身というのも特徴的。実はエレクトーンという楽器はフュージョンと親和性が高く、本シリーズでも柏木玲子や野田ユカといったエレクトーン奏者の作品を収録している。KANGAROOの「AQUA BLUE」はオールディーズ風のギターの音色と女声コーラスのアンサンブルが心地良く、極上のリゾートサウンドを聴くことができる逸品だ。
響野夏子はさらに異色の存在と言っていいだろう。女優やモデルとしても知られ、センセーショナルなデビューを果たしたピアニストである。サウンドのアプローチもフュージョンとしては珍しく、プログラミングされたトラックに乗せて、バリバリとピアノを弾く様子が清々しい。シティポップというよりもエレポップ的なサウンドの面白さもさることながら、情熱的なピアノの音色がエレクトリックなサウンドにぶつかる様子をじっくりと味わっていただきたい。
ジャパニーズ・フュージョンの奥深さを
書き洩らしたところでは、スペクトラムのキーボード奏者である奥慶一、米国で活躍したトランペット奏者のタイガー大越、カシオペアの活動休止中にソロを作成して話題になった野呂一生なども、良質なフュージョン作品を残しているので要チェックだ。硬軟いずれのフュージョンも取り揃えたビクター編の『CROSSOVER CITY -Misty Morning-』で、ジャパニーズ・フュージョンの奥深さを感じ取っていただきたいと願っている。