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夢破れた無名バンド、なぜ数十年後に大ブレイクした?号泣必至の実話『ドリーミン・ワイルド』監督インタビュー

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夢破れた無名バンド、なぜ数十年後に大ブレイクした?号泣必至の実話『ドリーミン・ワイルド』監督インタビュー

ドニー&ジョー・エマーソンの奇跡

ドニー&ジョー・エマーソン」と聞いて、2012年に再発されたレコードをすぐに思い浮かべた人はかなりの音楽ツウだろう。しかし、1979年にデビューした当時の彼らをよく知る人は日本はもちろん、本国アメリカでもほとんどいないはずだ。

米ワシントン州の農場で生まれ育ったドニーとジョーのエマーソン兄弟が70年代後半に結成したこのバンドは、父親が敷地内にこしらえたスタジオで十数曲を録音。『ドリーミン・ワイルド』と名付けたアルバムを自主製作/リリースするも、彼らの音楽が世界に轟くことはなかった。

1月31日(金)より全国公開中の映画『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』は、そんなドニー&ジョー・エマーソンの半生を描いた音楽伝記映画だが、そんなわけでバンドの華々しい成功の軌跡や当時の活動を克明に描くものではない。夢破れた中年ミュージシャンが数十年を経ていきなり脚光を浴び、理想と現実のギャップにもがき苦しむ姿を突きつける等身大の人間ドラマである。

『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』© 2022 Fruitland, LLC. All rights reserved.

「再び“夢”と対峙する物語」をビル・ポーラッド監督が語る

楽曲の大半を手がけていた弟ドニー・エマーソンは時代が“自分たちの過去”を発見し、しかも世界中で絶賛されていることに驚くと同時に、大きなストレスを抱えていた。当時の自分が思い描いたミュージシャンとしての成功と、音楽にしがみつき続ける現在の自分、かつて両親に強いた大きな経済的負担……。クリエイターにとってのゴールは人それぞれだが、彼は“ごっつぁんです”と安易に喜ぶことはできなかった。

『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』© 2022 Fruitland, LLC. All rights reserved.

米シアトルに居を構える音楽レーベル<ライト・イン・ザ・アティック>は、歴史に埋もれた数々の名盤を“発掘”してきた。過去のレコードを発掘することは単なる再発(リイシュー)ではなく、音楽の歴史自体を蘇らせ、その可能性を改めて世界に問いかけることだ。そして本作『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』は、奇跡のレコード発掘にいたるまでの悲喜こもごもを、真正面から真摯に描いている。

『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』などで知られる監督のビル・ポーラッドに、本作の製作エピソードやエマーソン一家について話を聞いた。

ドニー・エマーソン、ビル・ポーラッド監督、ケイシー・アフレック
『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』© 2022 Fruitland, LLC. All rights reserved.

「作品に自分の感情が出てしまうのは必ずあること」

―監督がドニー&ジョー・エマーソンの存在を知ったのは、本作の企画が動き出してからでしょうか?

この企画は、友人でプロデューサーのジム・バークが、私に「監督をやるべきだ」と持ってきてくれた話なんです。実を言うと、それまでドニー&ジョー・エマーソンの楽曲は聴いたことがありませんでした。しかし、彼に薦められて最初に聴いた曲「Baby」は、少し儚いところもすごく好きで、グッと刺さりました。

『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』© 2022 Fruitland, LLC. All rights reserved.

―本作のストーリーは、劇中でも描かれるニューヨーク・タイムズの記事がベースになっているのでしょうか。 エマーソン一家から直接聞いた話を盛り込んだり、あるいは監督自身が創作を盛り込んだ部分はありますか?

映画化にあたっては、ニューヨークタイムズの記事からもインスピレーションを受けています。記者とは関係性を築いてよく話をしていたので、その視点や洞察力も取り入れています。ただ、どちらかというと脚本執筆中や撮影の間にドニーをはじめ本人たちと親しくなれて、彼らの物語を本人から直接聞くことができました。それは撮影していて凄くワクワクしたところでもありましたね。

監督や脚本家をしていると、作品に自分の感情が出てしまうのは必ずあることだと思います。ただ今回の場合は、エマーソン一家とドニーとジョーの兄弟をリアルな形で描くことに責任を感じていたので、「自分自身の創造や経験を取り入れるのは今ではない」という気持ちが大きく、意識的に控えようとしていました。

『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』© 2022 Fruitland, LLC. All rights reserved.

「ケイシー・アフレックは“内なる葛藤”を表現できる」

―<ライト・イン・ザ・アティック>はドキュメンタリー映画化(※『シュガーマン奇跡に愛された男』[2012年])もされた、シクスト・ロドリゲスのレコードなどもリイシューしています。本作の製作にあたって、同レーベルのマット・サリバンとはどんな話をしましたか?

実は、彼には作品が完成してから初めて会えたんです。映画を作る時は色々調べてから撮影をはじめるので、彼がどんなルックスなのかは知っていたし、マット・サリバン役もクリス・メッシーナがとても素敵な表現をしてくれていたから、問題はありませんでした(笑)。

マット・サリバンはニューヨーク・タイムズの記事に大きく貢献していたので、脚本段階で彼の視点を入れることはとても大切なことだと思っていました。だから、この作品では大きな存在として描いています。

―ドニー役のケイシー・アフレックは過去にミュージシャンを演じたこともありますが、彼を主演に起用した理由は?

ケイシー・アフレックという役者は、内なる葛藤というものをセリフにせずとも表現できると思っていたからです。多くの役者たちがとらえることのできない、ちょっとした異質なニュアンスみたいなものをドニー本人は持っていましたが、ケイシーなら表現できると思っていたので、出演を決めてくれた時はすごく嬉しかったです。

『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』© 2022 Fruitland, LLC. All rights reserved.

―ドニーの妻ナンシーを演じたズーイー・デシャネルはミュージシャンとしても有名です。たとえば演奏シーンなどでは彼女から出たアイデアもありましたか?

ズーイー・デシャネルは素晴らしいミュージシャンだったので、ナンシーと協力しながらレコーディングをしていました。現場ではズーイーの意見も取り入れながら、バッキングボーカルとして携わってもらい、作品にとって最も良いかたちで歌声が使われています。

『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』© 2022 Fruitland, LLC. All rights reserved.

「親兄弟との関係性は独特の葛藤を生むものだと、よく分かっている」

―ドニーは夢に敗れたこと、ふたたび夢を掴み損ねるかもしれない恐怖、そして家族に金銭的な負担を強いた過去への後悔など、様々な苦悩を抱えています。そういった彼の心理には共感しましたか?

映画は自分が感じているものを表現しているものなので、当然、登場人物たちにも共感しています。私にも父と兄が2人いるので、兄弟や父と息子の関係性というのは独特の葛藤を生むものだということはよく理解しています。また、ケイシーにもベン・アフレックという兄がいるので、これまで葛藤することもあったと思います。私やケイシー、ドニー本人たちの経験を重ねて作っていくような作品でもありました。

『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』© 2022 Fruitland, LLC. All rights reserved.

―『ラブ&マーシー』は歴史的なアーティストの真の姿を描いていますが、本作は私たちの近所でも起こっていたかもしれない夢と挫折、ささやかな希望を描いています。どちらもオーソドックスな伝記映画というよりも、複雑に揺れ動く人間の心そのものがテーマになっていると感じましたが、この2作に明確な共通点はありますか?

共通しているテーマとは良い質問ですね(笑)。一言で言えば“アイデンティティ”でしょうか。自分のアイデンティティを見つける葛藤、アイデンティティの核の部分は何か、というテーマを含んでいます。

『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』©2022 Fruitland, LLC. All rights reserved.

―それでは最後に、日本の観客へメッセージをお願いします。

日本で公開されるということだけでもワクワクしています。ぜひ劇場で観てください!

『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』は2025年1月31日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開中

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