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片岡愛之助が栗田貫一に聞く「ルパン、大変じゃないですか?」ーー歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』9月京都で再演

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片岡愛之助、栗田貫一 撮影=福岡諒祠

片岡愛之助主演により、2023年、モンキー・パンチ原作『ルパン三世』が戸部和久による脚本・演出により歌舞伎になった。そのタイトルは、新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』。豪華キャストによる歌舞伎版のルパン一味が、好評を博した。愛之助は同作をキッカケに、上映中の映画『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』にも出演。今年9月には、京都南座で再演される。1995年以来、ルパン三世の声を30年もつとめる栗田貫一と、歌舞伎の世界のルパンとなった愛之助が、歌舞伎版ルパンの思い出、ルパンへの思いを語った。


■花道で出会った、ふたりのルパン

——おふたりの初対面は、初演の時の新橋演舞場だったそうですね。

片岡愛之助(以下、愛之助):『流白浪燦星(以下、ルパン歌舞伎)』に、栗田さんがお越しくださったんです。その時に一度お会いしています。

栗田貫一(以下、栗田):あの日は妻と娘と家族3人で、新橋演舞場へ観にうかがいました。なのに、私だけ2人と離れた席へ案内されたんです。不思議に思いながらも、花道に一番近い良いお席で観させていただきました。そうしたら……。

愛之助:本番前に「今日は栗田さんがいらしている」と聞き、大変緊張しました。でもせっかくですから、次元(大介)役の市川笑三郎さんに、「今日は花道の奥まで行くからついてきて」とお願いしたんです。そして花道を歩き捨て台詞(アドリブ)を言いながら、栗田さんを見つけたところで、「こ~んなところに栗田貫一像があるじゃねえか。おい次元、手を合わせていこうぜ!」と(笑)。

栗田:拝まれました(笑)。客席の僕までピンスポで照らされて。

愛之助:お客さんも大変喜んでくださいましたよね。終演後には一緒に写真も撮らせていただき、本当にありがとうございました!

栗田:そんな初対面でした(笑)

栗田貫一

——栗田さんは、ルパン歌舞伎をどのようにご覧になりましたか?

栗田:観る前は、歌舞伎と『ルパン三世』をどう成立させるのか想像もつきませんでした。でもバーッと幕が開き、バーンと愛之助さんが登場。おお! ルパンだよ! と思ったら、さっそく見得を切って名乗られて。その台詞廻しは、アニメに寄せてくださっていたんですよね。次元は次元だし、(石川)五右衛門は五ェ門。でも峰不二子はどうするんだ? と思ったら「なるほど花魁さんかあ! 色っぽいね~」なんてワクワクして。そこへ銭形の登場です。(市川)中車さんの"とっつぁん"は、アニメのとっつぁんとはまるで違う。なのに、ちゃんと銭形なんですよね。中車さんが、力技で見せてくれました。面白かった!

愛之助:銭形、面白いですよね。毎日見ていても、銭形マーチで出てくるだけで毎度吹き出しそうになるんです。

栗田:お客さんは「歌舞伎であり、ルパンだった」と感じたと思います。僕はそう感じました。歌舞伎俳優の皆さんは、ものすごく歌舞伎をやっている。絶対に歌舞伎なんです。でも、「あの」ルパンたちなんですよね。

愛之助:うれしいです。出演者全員、それぞれの役が大好きで、僕たちがリスペクトするのは、先人たちにより作られた漫画、アニメ、映画の『ルパン三世』です。そちらに寄せるけれど、コスプレになってはいけない。歌舞伎に寄せ過ぎてもいけない。その間を行ったり来たり試行錯誤しました。今言ってくださった通り、やること自体は本当にまともな歌舞伎です。最近作られた新作歌舞伎の中でも、一番“歌舞伎っぽい”新作歌舞伎ではないかなと思います。

■声で身体で、ルパンを表現

片岡愛之助、栗田貫一

——栗田さんは、もともとはルパン三世のものまねをレパートリーの1つとされていました。愛之助さんは、子どもの頃からルパンが大好きだったそうですね。すでに国民的アニメの主人公だったルパンを、実際に演じて感じたことはありますか?

愛之助:TVアニメや映画で拝見し、太陽のような存在だと感じていたんです。実際に歌舞伎でやらせていただいて、ルパンを演じることはすごくパワーがいるんだ! と感じましたね。

栗田:作品の核となる存在ですからね。ルパンは、全員に向けてエネルギーを出さないといけない存在。だから、そのテンションやパワーを伝えられなくなった時には、僕はいつでも身を引こうと思っています。ルパンが元気じゃなくちゃ、つまらないですから。

愛之助:素朴な疑問ですが、それを維持されるのって大変ではないですか?

栗田:大変ですよ。 五ェ門だったら、95歳くらいまでやれると思うけど(笑)。

愛之助:五ェ門は、口数が非常に少ないですからね(笑)。

——映画『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』(監督:小池健)では、愛之助さんが不死身の敵・ムオム役で出演。栗田さんのルパン三世と共演します。

愛之助:栗田さんが最初に収録をされたとうかがいました。

栗田:アニメの時も毎回、僕からなんです。まだ映像もない段階で、タイムロールだけが動く無音のスタジオの中、1人ぼっちで録音します。他の出演陣は、本格ベテラン声優ばかり。次元大介に大塚明夫、石川五ェ門に浪川大輔、峰不二子に沢城みゆき、そして銭形警部に山寺宏一ですよ? だれか助けにきてくれよ、と思います(笑)。それでも、いつものメンバーが相手なら、「僕がこう言えば、こんな感じで喋るだろう」と芝居の温度感を想像できるようになってきました。愛之助さんとは、今回が初めて。しかも最強の敵です。僕は、愛之助さんがどんな姿形をしているのかも分からないまま相対し、戦い、やられました(笑)。

片岡愛之助

愛之助:僕も自分がどんな状況か分からないまま、大好きなルパンを、こんなにボコボコにするなんて……と心を痛めながら頑張りました! 収録の時、スタジオに鉛筆で描かれたようなラフが「いま出来上がりました!」と届き、「あ、今こんな感じなのか」と確認したり。僕らは普段、体を使い表現をします。でも皆さんは台本を見て、声だけで役になり、その上で喜怒哀楽も乗せる。本当にすごい仕事だと思います。

——声だけで演じるにあたり、大切にされていることはありますか?

栗田:声の芝居って、「どの言葉を立てるか」がメインだと思うんです。何を一番伝えたいのか。たとえば「俺お前のことを……愛してんだよ」と、「俺……お前のことを愛してんだよ」では、伝わるものが違いますよね。ただ僕の原点は、ものまね。初めの頃は、お手本となる元がないものを、自分で演じることに抵抗がありました。(初代ルパン声優の)山田康雄さんに一度読んでいただければ、そっくりにやる自信はあるんです。『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)なんて、全部やらせていただきたいくらい。でも、山田さんがいらっしゃらない以上は、想像でやるしかありません。山田さんの代理でルパンをやり、30年経ちましたが、今でも「山田さんがいてくれれば」「山田さんのお手本があれば」と思います。ただ、山田さんが今でもお元気で、ルパンをやってくださるなら、僕は要らないんです。僕は、山田さんのものまねさえすれば生活できていたんですよね(笑)。

■9月は京都南座に見参!

片岡愛之助、栗田貫一

——9月は、ルパン歌舞伎が京都南座で再演されます。さらにブラッシュアップされた舞台となりそうです。

愛之助:ご期待ください!

栗田:そういえば前回は、水をかぶったりしていましたね。

愛之助:本水(ほんみず。本物の水を使う古典的な演出)の立廻りですね。もちろん、ございます! 今回は9月の京都なので心配ないのですが、前回は12月の東京。寒くて死にそうでした。息もできなくなるんです。かといって、ぬるま湯では風邪をひき、お湯だと立廻りでのぼせてしまう。水を使うしかないのですが、毎回修行僧の気持ちでした(笑)。

栗田:本当にすごいよ。あれを1ヶ月間、昼夜でやるんだから。僕らは、実際に水をかぶることはないからね。

——では、ルパン歌舞伎の第二弾の可能性は?

愛之助:やりたいですね! 第二弾、もちろんやりたいと思っています!

——TVアニメの初回放送から50年以上が経った今も人気は衰えず、歌舞伎にもなりました。あらためて、ルパンの魅力についてお聞かせください。

愛之助:惹かれるのは、ルパンの生きざまです。太陽のような存在。とはいえ盗賊なので褒められるものではありませんが、やっぱりすごく素敵なんですよね。おしゃれですし人を傷つけることもしません。

栗田:悪い奴以外は傷つけない。安いものは盗まない。デカいものしか盗らない。そういう魅力のあるルパンを、色々な脚本家、監督の方々が、様々に物語にしてくださった。だから50年経っても人気が衰えないのだと思います。

愛之助:僕、アニメに登場するアクションや飛び道具とかも好きなんです。

栗田:モンキー(・パンチ)さんは『007』シリーズと『スパイ大作戦』(1966-73年)を意識して創られたと聞きました。ちょっと未来を感じるアイテムとか出てきますよね。峰不二子は、モンキーさんの地元の同級生がモデルだそうです。

愛之助:ちなみに、うちの妻はモンキーさんに「ルパン三世と藤原紀香版峰不二子」のイラストを、描いていただいたことがあるんです。今も大事にしています。

栗田:そうだ、愛之助さんの家には「(ルパンの声で)の~りかちゃ~ん♪」がいるんだ。

愛之助:この声……! ありがとうございます! ルパンの魅力は、やはり栗田貫一さんに尽きるのではないでしょうか。

新たなキャストも迎え、期待が高まる京都南座公演。2025年9月2日(火)から26日(金)まで。

取材・文=塚田史香 撮影=福岡諒祠

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