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『古代中国の杖刑』お尻ペンペンはどれくらい痛かったのか?

草の実堂

画像 : 杖刑を受ける宮女 イメージ 草の実堂作成

杖刑とは何か?

杖刑(じょうけい)は、古代中国で広く行われた刑罰の一つで、罪人を杖(つえ)で打つことで苦痛を与えることを目的としていた。

特に、お尻を打つ「臀杖」が一般的で、その痛みと屈辱によって罪人を懲らしめる効果があった。

画像 : 杖刑 臀杖 イメージ  CC BY-NC-SA 2.0

杖刑の起源は古く、周代(紀元前1046年~紀元前256年)にはすでに存在していたとされている。

その後、秦や漢の時代を通じて刑罰制度として確立され、唐代(618年~907年)にはさらに細かな規定が整えられた。

杖刑は、単に身体的な苦痛を与えるだけでなく、罪人に屈辱を感じさせることで、社会的な秩序を維持する役割も果たしていた。特に、官僚や役人に対する懲罰としても用いられ、権力者に対する抑止力として機能した。

杖刑の道具と行刑方法

杖刑に使われる「杖」は単なる棒ではなく、厳格な規格が定められていた。

唐代の法律書『唐律疏議』によれば、長さ3尺5寸(約1メートル)、太さは根本が6ミリ、先端が4.5ミリと定められていた。
重罪者に対しては、より硬い木材(ナツメやクワなど)で作られた杖が使用され、皮膚を破り筋肉に深い損傷を与えるように設計されていた。

唐代の杖刑は、罪の重さに応じて10回から100回までの範囲で打つ回数が決められていたが、宋代以降になると、「一頓杖」という形式が普及し、特に軽罪や官僚に対する刑罰として40回から60回の範囲で執行されるようになった。

熟練の行刑人は、罪人の年齢や体格を見極め、痛みを最大化するために打つ角度や強さを調整したという。

このように杖刑は単なる暴力ではなく、法律で細かく規定された「制度」だった。

刑具の材質や打撃回数が条文で定められ、行刑後には担当官吏が皮膚の損傷度を検査する仕組みも存在した。

杖刑の痛みはどれほどだったのか?

杖刑の痛みを理解するには、身体的な損傷と心理的な苦痛の両面から検討する必要がある。

今回は、唐代の記録や現代の知見を組み合わせて、その程度を具体的に推測する。

画像 : 杖刑を受ける宮女 イメージ 草の実堂作成

1. 身体的な痛み

唐代の医学書『外台秘要』には、杖刑による外傷とその治療法が記録されている。

この書によると、杖刑後に以下のような症状が現れるとされる。

表皮の損傷:30回程度の打撃で皮膚が裂け、出血を伴う。

筋肉の損傷:50回以上の打撃で臀部の筋肉が損傷し、座ることが困難になる。

骨への影響:100回近くの打撃で大腿骨にひびが入る場合もあり、歩行が難しくなる。

現代の力学的分析によれば、竹や木の杖による1回の打撃は約80ニュートンの衝撃力を持つとされる。

これは、8kgの重りを一瞬で受けるような衝撃に相当し、皮膚や筋肉に深刻なダメージを与えるのに十分な力である。

一方、痛みの感じ方は個人差が大きく、特に50回以上の打撃が加わると、臀部の組織が損傷し、耐えがたい痛みが生じると推測される。

2. 心理的な苦痛

前述したように杖刑は肉体的な苦痛だけでなく、心理的な苦痛も伴った。

杖刑を受ける者は、公開の場で下半身を露出させられ、多くの人々に見られる。その羞恥心は肉体の痛み以上に耐え難い。
特に女性にとっては屈辱的で、杖刑を受けることで、その女性の名誉は完全に失墜し、社会的な死を宣告されたも同然だった。

また、行刑人が打撃の強さや回数を調整できるため、受刑者は「次の一撃がどれほどの苦痛をもたらすか」という恐怖と不安にさらされた。

この心理的ストレスは、現代で言うPTSD(心的外傷後ストレス障害)を引き起こす可能性は十分にあっただろう。

3. 痛みの持続期間

あくまで現代の知見による推測だが、回復期間は以下のように考えられる。

軽傷(30回以下):約1週間で回復。
中傷(50回程度):1ヶ月以上の療養が必要。
重傷(100回以上):生死に関わる重篤な状態に至る場合もある。

杖刑の社会的背景と役割

画像 : 賄賂イメージ 草の実堂作成

杖刑は、古代中国社会において単なる刑罰にとどまらず、秩序維持や権力構造を支える重要な手段でもあった。

まず、杖刑は官僚統制の一環として用いられた。汚職や怠慢といった不正行為を犯した役人に対し、公開の場で執行されることが多く、権力の乱用を抑制する効果があった。

さらに、杖刑の適用は社会的階層によって異なった。

貴族や高級官僚は、賄賂によって刑罰が軽減されたり、罰金で済むことも多かったが、庶民には厳しい刑が科されることが一般的であった。

杖刑が映し出す古代中国の「法に守られた残酷」

杖刑の真の恐ろしさは、痛みそのものではなく「法律で正当化された暴力の体系化」にあるだろう。

刑具の寸法から打撃回数まで細かく定められたように、これは国家が「合法的な痛み」を設計したことを意味する。現代の感覚で言えば、まるで「痛みのマニュアル化」である。

注目すべきは、この制度が権力の二重性を巧妙に利用していた点だ。

例えば、官僚への杖刑は「法の平等」をアピールする一方、皇帝が刑を減免すれば「慈悲深い支配者」というイメージを演出できた。痛みは、民衆への脅しとしても、権力者の温情を示す道具としても使われたのだ。

さらに重要なのは「死の責任回避」という機能である。

100回の打撃で死に至らしめても、それは「過失死」であって「死刑」ではない。しかし法文上は「体刑」に分類されるため、支配者は道義的責任を問われずに済んだのだ。

この「死の責任回避の仕組み」も、千年にわたり杖刑を持続させた一因であろう。

現代から見れば非人道的な刑罰だが、その本質は暴力の制度化である。

痛みを計測し、執行をルール化し、死を不可視化する。古代中国の権力者は法と暴力を巧みに利用し、社会秩序を維持していたのである。

参考 : 『史記』『漢書』『唐律疏議』他
文 / 草の実堂編集部

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