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一路真輝、『モダン・ミリー』のコケティッシュな悪役が再演では変化「こういう状況に出合えたのは奇跡。たぎります!」

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一路真輝 撮影=高村直希

2022年に観客を笑いの渦に巻き込んだ『モダン・ミリー』が、7月10日(水)~28日(日)の東京・シアタークリエを皮切りに、大阪・新歌舞伎座、 愛知・Niterra 日本特殊陶業市民会館ビレッジホール、福岡・博多座、東京・凱旋公演 昭和女子大学人見記念講堂と8月25日(日)まで再演される。田舎からニューヨークへモダンガールに憧れてやって来たミリーが、様々な人々と出会い、大切なものに気づいていくハッピーなミュージカルだ。ミセス・ミアーズ役として2年前に続き出演する一路真輝は、このブロードウェイ版の舞台を以前観劇し、心から感動したという。再演ではミアーズ役のキャラクター性が少し変わり、台本や歌も一部変化。初演でコメディセンスを発揮していた一路が、再演でどんな舞台を見せてくれるのか。新たなハードルを感じつつも、楽しみにしているのが彼女の話から伝わってきた。

一路真輝

――『モダン・ミリー』の再演に出演が決まったときのお気持ちから教えてください。

大好きな作品だったので、とにかく嬉しかったです。2020年は開幕前に全公演中止となり、舞台上のセットだけを見て、みんなで悲しく帰った思い出があるので、その2年後に初日の幕が開いたときの喜びは大きかったですね。千穐楽には「やりきった感」があり、再演は想像もしていなかったですが、やっぱりすごく嬉しいです。

――この作品のどんなところがお好きですか?

まず曲が全部好きです。実は20年以上前に、ブロードウェイでこのミュージカルを観て、すごく衝撃を受けたんです。大きな劇場で、久しぶりに大型ミュージカルを観た! という感動がありました。音楽が素敵なのはもちろん、大勢で踊るタップ、物語の分かりやすさ、そして真ん中で歌い踊るサットン・フォスターさん(ミリー役)の素晴らしさ! 作品もキャストも完璧で、ものすごく印象に残りました。

――そのとき感じられた、ご自身が演じられるミセス・ミアーズ役の印象は?

英語で詳しくは分からなかったのですが、いかにも悪い人が出てきますよ、という異質な音楽で登場し、それがまたおもしろかったです。

一路真輝

――ミセス・ミアーズは長期滞在型ホテルの女主人ですが、謎の多い人物でもありますよね。再演ではこの役の設定が変わり、台本や歌も少し変更になると伺いました。

そうなんです。前回の「中国人のふりをしている元女優さん」という設定から売れなかった元女優が夢をあきらめられず、カムバックを狙っているという感じに​変わるそうです。もちろん悪役は悪役なんですよ! コケティッシュな愛敬のある悪役、という部分は変わらず、物語の筋も大幅な変更はないのですが、ドキドキしています。

――ポスター撮影には、どんなイメージで臨まれましたか?

映画『101匹わんちゃん』のクルエラをイメージしました。ミセス・ミアーズはディズニー映画に出てきそうな悪役なんですよ。演出の小林(香)さんに、「再演の今回は韓国ドラマに出てきそうな、本物の悪にしてみたらどうですか?」と相談したら、「一路さん、作品的にそのキャラは出てこない方がいいです」と言われて(笑)。「前回同様、どこか憎めない悪にしてほしい」と仰って、「そうですか!」と。

――こういうお役は、一路さんにとって珍しいですか?

はい。4年前にオファーをいただいたときから、大きな挑戦だなと思っていました。ブロードウェイでも、「なんだ、この人は!?」と思った役。そこにキャスティングしてくださったのだから、やっぱり期待にお応えしたい、自分の今までの殻を破りたい、という気持ちが強かったです。その思いで初演は取り組み、結構殻を破れたつもりだったのですが、想像もしていなかった新たな形での再演、というハードルがきてしまいました(苦笑)。

――メインキャストの方も半分ほどが変更となりますね。

続投の方も絶対パワーアップしてくるだろうし、新しいキャストの方とのお芝居も楽しみです。土居裕子さんとはコンサートでご一緒したことはあっても、お芝居をさせていただくのは初めてなのです。

一路真輝

――土居さんは世界的歌手のマジーを演じられます。2年前は保坂知寿さんが演じてらっしゃって、主演の朝夏まなとさんいわく、お稽古場から一路さんと保坂さんのお二人が大きな笑いをとっていたと。

お互いの個性をボーンと出しただけなんですけど、化学反応が起きたみたいです(笑)。お客様もすごく笑ってくださって、「私たちおもしろいんだ!?」と気づいたくらいです。土居さんは保坂さんとはまた違う雰囲気の方ですし、二人のシーンがどんな感じになるのか、とても楽しみです。

――また盛り上がりそうですね(笑)。ほかに好きなシーンやナンバーはありますか?

ミリー役の朝夏さんがタイプライターを打ちながら、足でタップを踏むところは、お稽古場から釘付けになっていました。あと廣瀬(友祐)くん演じる社長のグレイドンが、早口言葉を話すシーンも。廣瀬くんがおもしろいのもあるのですが、そこで振り回される朝夏さんもおもしろいし、グレイドンとドロシーのデュエットダンスもおもしろくて、ずっと楽屋のモニターで見ていました。

――朝夏さんとは『オン・ユア・フィート!』で親子役を演じられ、2年前にも『モダン・ミリー』でご共演されて。

2年前の稽古場ではマスクを着けていましたが、まぁちゃん(朝夏)の目を見たら何を思っているのか分かりました。主役はすごく大変なんですよ。でもお稽古場でもそれを見せない。べつに元気なふりをしているのではなく、常に明るく元気であったかくて。カンパニーを引っ張っていくうえで、まぁちゃんは常に太陽のような存在だと感じます。あれだけ歌って踊って、きっと疲れるだろうに、私が失敗しそうになったり、ボケたりすると、ちゃんとつっこんでくれるんですよ。例えば、舞台に出るタイミングを私が間違いそうになると、キュっと引っ張ってくれて「まだですよ!」とか、そういうのは日常茶飯事です。

――そうなんですね(笑)。改めてこの作品の魅力はどこにあると思われますか?

ご覧になった方が、たくさん幸せになれるところですね。それは私たち出演者も同じで、とても楽しいんです。まぁちゃんも言ってましたが、歌もダンスも台詞の量も、大変な役なんだけど、終わった後「疲れたー」とはならず、「やったー! という気持ちになる」と。きっと身体の中から何かいいものが出てくるんでしょうね。私が演じるミアーズは、物語的にスカーッとはしないのですが(笑)、カーテンコールでは「楽しかった!」と思えるのです。ミアーズは、作品全体がハッピーで明るい中、ピリッとスパイスを与える存在だと思うので、そこは大切にしたいなと思っています。

――ミリーは自分の未来を切り開こうと、迷いながらも進んでいく役どころかと思うのですが、一路さんご自身、ミリーの生き方をどのように感じますか?

ミリーは玉の輿に乗りたいという夢があって、そこは今の時代とちょっと反していると思うのですが、昨日よりも今日が良くなってほしい、という思いは昔も今も、年代問わず同じだと思うんですね。実はミセス・ミアーズも、女優で売れないからホテルの経営をしているけれど、すきを狙って自分もカムバックしたいと思っている、勘違いしちゃっている女性。だから上へとステップアップしたいと思っている点では、ミリーと同じです。そういう心の奥底にあるものなど、キャラクターを通してどの世代のお客様にも届くといいな、と思います。

「ミセス・ミアーズっぽく」とお願いすると表情が一気に変化

――一路さんはこれまで多くの作品に出演されてきましたが、やはり「表現するのが好き」というお気持ちなどがあって、長年続けてこられたのでしょうか?

もちろん好きでないと続けてこられなかったと思います。私が常々感じるのは、こうやって表現する場を与えていただける感謝の気持ちです。今回のように再演でキャラクター性が変わったのは初めて。42年もこの仕事を続けてきて、ありとあらゆることをさせていただいたと思っていたのですが、まだ初めてのことがあるということに、「ありがとうございます」という気持ちです(笑)。こういう状況に出合えたのは奇跡。これをどう乗り越えるかで、また次に「あのとき、あれを乗り越えられた」という自信につながっていくのだと思います。

――そういう大きな挑戦のときは、たぎりますか?

はい! やっぱりそういうときの方が、たぎります! 2年前にミセス・ミアーズという役をいただいたとき、「頑張ろう!」と思いましたし、どんどんいろんなことを思いついて楽しかったです。「ここで三つ編みを振り回してみよう」「スッと立てるヒールではなく、平靴でやってみよう」とか。演出の小林さんとも相談しながら、アイディアが溢れてきて本当に楽しかったです。再演でも大きなハードルをいただいたので、頑張りたいと思います。

――最後に、今後のご活動で思い描いていることがあれば教えてください。

「こういう役をやりたい」ではなく、「こういう役をやってもらいたい」と思っていただけるような存在でありたいです。最初『モダン・ミリー』のオファーをいただいたとき、私の感覚では自分はマジー役の方かな、と思ったのです。でもミアーズ役にキャスティングしていただき、新たな扉が開きました。これからも自分の想像がつかない役にめぐり合いたいです。

一路真輝

取材・文=小野寺亜紀 撮影=高村直希

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