大分トリニータ 10位からの逆襲 強化戦略の全貌 【大分県】
前半戦ラスト1試合を残し、大分トリニータは10位。守備の安定を武器に粘り強く戦い抜いた前半戦を、吉岡宗重スポーツダイレクター(SD)の言葉から振り返る。
「いい守備から、いい攻撃へ」。片野坂知宏監督が掲げた今季のコンセプトは、リーグ前半戦を通じて確実に形になりつつある。16位に終わった昨季の反省を踏まえ、チームはまず守備の整備に着手。自陣で守備ブロックを基盤とする戦い方で失点を減らし、引き分けが多いながらも負けないチームへと変貌を遂げた。順位は10位。プレーオフ圏内には届いていないものの、十分に射程圏内にいる。
守備の安定に貢献したのは、既存戦力の意識改革に加え、新戦力のフィットだ。有馬幸太郎、天笠泰輝、榊原彗悟らが短期間で戦術に順応し、戦力として機能したことは大きな収穫となった。有馬はチームトップの5得点を挙げており攻撃の中心に。ただし、ボールを収めた後の展開や精度には課題も残る。吉岡SDは「より高い基準を求めていきたい」と語り、成長の余地に期待を寄せる。
一方で、明確な課題として浮かび上がったのが「攻撃の構築」である。起点が定まらず、前線での時間の創出が不十分な場面が目立つ。野村直輝のように「時間をつくれる選手」の存在は貴重だが、野村だけに依存するわけにはいかない。ボールがない局面での動き、いわゆる「無駄走り」の質と量がゴールへ直結するポイントとなる。選手とスタッフが一体となり、ゴールに直結する動きを定着させることが後半戦のテーマだ。
守備強化で、負けないチームへと変貌を遂げた
また、交代選手のパフォーマンス向上もチーム力の底上げに不可欠である。試合終盤に勝負を決める駒となるべく、戦術理解とコンディションの両面で準備を徹底する必要がある。吉岡SDは「選手任せにせず、クラブとして支える」と明言。選手個々の自律と同時に、フィジカルコーチやトレーナーなどチーム全体の連動性も問われている。
夏の補強に向けても動きは加速している。キム・ヒョンウの移籍による戦力ダウンを補うべく、攻撃的なポジションを中心に、新たな戦力の獲得を模索中だ。クラブが掲げる「守備の上に攻撃を重ねるサッカー」を完成形に近づけるためには、あと一歩の上積みが不可欠である。
さらに重要なのは、リード時のゲーム運びの質を高めることだ。ラインが下がりすぎて押し込まれる展開が続くと、失点のリスクが高まる。チームとして「攻撃的に試合を締めくくる」意識を持つことで、守備の安定だけでなく、主導権を握り続ける強さも身に付く。後半戦は、そうした戦い方の成熟も大きなテーマとなる。
前半戦を支えた堅守に、後半戦は攻撃面の上積みができるか。プレーオフ圏内浮上のカギを握るのは、選手層の充実と戦術の深化、そして目に見えない「勝ち切る力」である。
夏の補強に向けて動く吉岡宗重SD
(柚野真也)