【静岡音楽館AOIの「静岡の名手たち」】28回目の音楽家発掘プロジェクト。今年の聴きどころは? 電卓演奏「あたりめ」さんも出演!
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは、静岡音楽館AOI(静岡市葵区)が開館当時から実施する地域の音楽家の発掘、支援、育成企画「静岡の名手たち」。先生役は論説委員の橋爪充が務めます。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年9月11日放送)
クラシック中心、ジャズとも相性よし
(橋爪)静岡音楽館AOIって知ってますか? 静岡市の方ならだいたいご存じだと思いますが。
(山田)当然です。静岡市立城内小では合唱コンクールをAOIでやるんです。僕は指揮者をやりましたよ。
(橋爪)東部、西部、伊豆の方はちょっと縁遠いかもしれないので、まず概略を説明しますね。1995年5月に開館。JR静岡駅前の静岡中央郵便局建物内に位置しています。8、9階を客席 618席のホールにしています。芸術監督は作曲家・ピアニストの野平一郎さんです。この方はかなりビッグネーム。日本芸術院会員ですね。
(山田)東京音楽大学学長なんですね。
(橋爪)ホールの特徴は、まず、ステージ後方にパイプオルガンが鎮座していることですね。パイプ総本数2868本、手鍵盤3段、足鍵盤による規模の大きなオルガンです。よく言われるんですが、響きが素晴らしい。小学生の頃、指揮していて気づきませんでしたか?
(山田)そう思いました! 僕はピアニストの子が好きだったんで指揮者に立候補しただけだったんですけれどね…。
(橋爪)動機が不純ですね(笑)。わたしの言葉で言えば、残響が長いんだけれど音が明瞭。ステージ上で針を落としても客席最後列でその音が聴こえるとか。多くの人が言っていますが、室内楽、例えば弦楽四重奏とかピアノ三重奏の演奏会にぴったりではないでしょうか。
(山田)クラシックのコンサートが多いですよね。
(橋爪)そうですね。ただ、意外にジャンルの幅も広くて。1995年5月9日のオープン初日の演目が真言宗豊山派の声明(しょうみょう)ですからね。翌日の静岡新聞には「13人の僧侶が、読経したり蓮(はす)の花びらをまいて清めの儀式をするなどして、厳粛な古典音楽を披露した」と書いてあります。
(山田)西洋のイメージの会館ですが、「和」な感じですね。
(橋爪)私個人はクラシックのコンサートも行くんですが、ジャズピアノが印象に残っていますね。山中千尋さん、大西順子さん…。中でも昨年8月の桑原あいさんが来たんですが、素晴らしかった。手数の多い方なんですが、響くホールと意外に相性が良くて、音が残るので予測不能なハーモニーが生まれるんです。かっこよかったですね。
(山田)ジャズとも相性がいいんですね。
(橋爪)はい。そんなAOIが開館当初から実施しているのが「静岡の名手たち」。現在は、5月にオーディションを実施して、合格者は秋に開催するコンサートに出演する、ということになっています。
(山田)オーディションからやるんですね。
作曲家松谷卓さんは第1回合格者
(橋爪)通常のコンクールやコンテストのように、参加者の音楽的、技術的な優劣を競うのではなく、魅力的なコンサートをつくるためのオーディションである、という観点で人を選んでいます。年齢に制限はなく、プロアマ問わず応募できます。ただし、静岡県内に在住、在勤、といった、静岡と縁がある方に限るということになっています。
(山田)オーディションの基準が難しいかもしれない。
(橋爪)これまでの合格者は延べ316人! この中には後年、音楽家として広く知られるようになる方も含まれています。最も著名なのはたぶん、第1回で合格した藤枝市出身の松谷卓(まつたに・すぐる)さんですね。2002年スタートの「大改造!!劇的ビフォーアフター」の楽曲は誰しも耳にしたことがあるでしょう。アニメ原作の「のだめカンタービレ」など、映画音楽も多数手がけられています。
(山田)すごい方が第1回の合格者なんですね。
(橋爪)個人的に挙げたいのがピアニストの今田篤(いまだ・あつし)さん(掛川市出身)。13、15回で合格しています。この方は2016年に世界三大コンクールの一つ、エリザベート王妃国際音楽コンクールでファイナリストになり、2018年に浜松国際ピアノコンクール第4位です。
(山田)おお。
(橋爪)それからオルガニストの大木麻理(おおき・まり)さん(静岡市出身)。ミューザ川崎シンフォニーホールのオルガニストとして活躍中ですが、2021年からバッハが残したオルガン作品約250曲を、AOIで約10年かけて全曲演奏する、という壮大な企画にチャレンジしています。
(山田)まさにAOIのパイプオルガンで育ったような方なんですね。
(橋爪)そんな成り行きで選ばれた今年の合格者7人が9月14日、AOIに顔をそろえます。AOI学芸員の小林旬さんにお話をうかがったのですが、「今年の顔ぶれは相当面白い」と断言していました。みなさんそれぞれに魅力があるのですが、無理を言って3人、お薦めの演奏者を挙げてもらいました。
(山田)はい、聞かせてください。
見出し:10歳のピアニスト、京大院卒のサックス奏者
(橋爪)まずピアノの舩元絵子(ふなもと・えこ)さん。オーディションの時に、コンチェルト賞といって、コンテストを通じて富士山静岡交響楽団と共演する演奏者をAOIが選ぶんですが、それに選ばれています。
(山田)写真を見る限り、お若そうですね。
(橋爪)10歳、小学校4年生です!小林さんによると、「画一的な音楽教育にはまっていない、きらめきがある!」とのこと。とにかく、演奏がキラキラしているそうです。当日はグリンカの「ひばり」、モシュコフスキー「20の小練習曲第14番」などを弾きます。
(山田)若くてキラキラしている、と。
(橋爪)続いてサックスの藤井駿(ふじい・しゅん)さん。この方はオーディションでロダン賞に選ばれています。静岡県立美術館のロダン館で行われるコンサートへの推薦ということです。もちろん、演奏が認められての「合格」なのですが、この方は音楽じゃないところの経歴がすごい。
(山田)どんなところでしょうか。
(橋爪)京都大学工学部工業化学科、大学院工学研究科粒子工学専攻修了。ガチの技術者です。その一方で第18回大阪国際音楽コンクール大学・大学院生の部第3位で、京都大の総長賞が授与されています。
(山田)それは研究員として?
(橋爪)演奏者としてです。現在は静岡県内の某楽器メーカーで音響工学の知識を生かした仕事をしています。小林さんはオーディション時の印象を「型にはまらない、違った視点を持っていた」と話しています。当日の演目は吉松隆さん「ファジーバード・ソナタ」。これは浜松市出身のサックス奏者須川展也さんのために作られた曲だそうです。
(山田)静岡つながりですね。
(橋爪)そしてもう一人。ピアノの池谷卓哉(いけがや・たくや)さん。小林さんのコメントをまず紹介すると「審査員の審美眼に照らして、高い水準のピアニストであることは間違いない」。ただ、この方には別の顔があるんですよ。「あたりめ」さんという名前で活動するYouTuberなんですね。
電卓で曲を演奏するんです。
(山田)見たことがある!しかもチャンネル登録しています!電卓を四つぐらい並べて演奏するんですよね。
(橋爪)文字キーの音の高低を利用して、楽曲を弾いている。某アニメの主題曲とか、世界中でヒットしている日本の某ヒップホップグループの曲とか。相当音楽センスがないとできないですよ、これは。そんな池谷さんが「静岡の名手たち」のコンサートで弾くのがブラームスとドビュッシー。
(山田)落差がすごいですね。
(橋爪)奇想天外なパフォーマンスではなく、しっかりした技術に裏付けられたピアノ演奏が聴けると思います。ということで、9月14日は「静岡の名手たち」のコンサートへお出かけになってはいかがでしょう。開場午後5時半、開演午後6時です。入場料は全席自由1800円、22歳以下1000円です。
(山田)会場に未来のスターがいるかもしれませんね。今日の勉強はこれでおしまい!