世界遺産の古墳にお茶、刃物。そして居酒屋天国も! 大阪行くなら、昼も夜も「へぇ~」なスポットいろいろ堺市へ
古墳時代には世界文化遺産・百舌鳥(もず)古墳群がつくられ、かの千利休の生まれ故郷であり、中世にはポルトガルから伝わった鉄砲を大量に供出して大儲けした貿易都市・堺。梅田、なんばのいずれからも列車で30分圏内と意外に近い! 来たる大阪・関西万博にあわせて立ち寄りたい、身近でおもしろい町へ。
堺では緑が見えたら古墳と思え
さかい、といえば世界遺産・百舌鳥古墳群。中世には千利休が活躍し、鉄砲を大量に供出して大儲けした貿易都市。そして少し古いが料理の巨匠……。歴史のお勉強をはじめとしたさまざまな場面で「堺」の名を見聞きしてきた。だが関東出身の私は、堺が大阪にあることはなんとなくわかっていたが、大阪府のどのあたりに位置しているのかまでは知らなかった……。
私事だが、2024年の春から大阪に住んでいる。通天閣の真西にある町で暮らしている。暮らし始めてほどなく、堺は私の生活拠点からものすごく近いことを知った。住んでいる部屋から最寄り駅まで5分、南海電車に乗って15分足らず、20分で行けてしまう町。私が生まれ育った東京・池袋の感覚でいえば、ちょっと王子や赤羽まで行ってきます的な距離の町。
そんな、実は身近な町・堺へ行ってきた。
360度のパノラマで古墳を発見!
当日、集合したのは、南海高野線堺東駅の駅前にある『堺市役所内展望ロビー』。360度の大パノラマが自慢だ。同行の熟練ガイドさんいわく「堺では緑が見えたら古墳と思え」。確かに、眼下の町にはあちらこちらに大小の「森」が点在。堺市内には5世紀を中心に築造された古墳が44基も現存しているとのこと。
ただし近辺の高台に上っても、歴史の教科書でなじんできた前方後円墳のあの“鍵穴”を拝むことはできない。目にできるのはあくまで「森」。これは大阪の「あるある」だそうだ。
どうしても肉眼で全景を見たい方は、関西国際空港から羽田空港に向かう飛行機利用をおすすめする。私も帰省の際、機上から教科書で見た記憶どおりのあの形状を見たときは静かに感動した。
「堺市役所展望ロビー」
☎072-228-7493
9:00~21:00、無休。無料
大阪府堺市堺区南瓦町3-1
南海電鉄高野線堺東駅から徒歩5分
世界遺産、百舌鳥古墳群を知る
クフのピラミッドや秦始皇帝陵とともに、世界三大墳墓のひとつに数えられる仁徳天皇陵の拝所横には『百舌鳥古墳群ビジターセンター』がある。センター内のシアターでは古墳群を中心に、市内を上空から撮影した8Kの高画質パノラマ映像を視聴可能。包み込まれるような臨場感ある映像、これはこれで迫力がすごく、一見の価値ありだ。
『百舌鳥古墳群ビジターセンター』
☎072-245-6682
9:00~18:00、無休。無料
大阪府堺市堺区百舌鳥夕雲町2-160
JR阪和線百舌鳥駅から徒歩6分
四季折々の美を眺める日本庭園
さらに間近で古墳を見たい方は、周辺の住宅街や仁徳天皇陵南西に隣接する大仙公園の散策をおすすめする。円墳や方墳などさまざまな形状の中小古墳が、こんなところにもあるのか!ってところ、そして手が届きそうなところに点在している。
ちなみに、大仙公園内西側に広がる築山林泉回遊式の日本庭園にもぜひ。私が訪れた際は紅葉が見頃だったが、園内では梅・桃・桜など四季折々の景色を楽しめるそう。この日も借景を求めて結婚式の前撮りをしに来たカップル複数組とすれ違った。お幸せに!
「大仙公園 日本庭園」
☎072-247-3670
9:00~17:00、月休。200円
大阪府堺市堺区大仙中町(大仙公園内)
JR阪和線百舌鳥駅から徒歩5分
茶聖・千利休の故郷でお点前体験
信長、秀吉時代の茶会料理も楽しむ
古墳めぐりのあとは、茶をしばきに行こう。
千利休を生んだここ堺の、茶の愉しみ方は多彩だ。まずは本格的な茶の湯体験から。“チン電”こと阪堺(はんかい)電車が走る紀州街道沿いにある、千利休屋敷跡向かいの『さかい利晶の杜』へ。施設名の「利」は千利休、「晶」はこれまた生家(和菓子商)が近隣にあった与謝野晶子から。
館内にある茶室で裏千家の先生ご指導の下、お点前体験をする。教えてもらう作法の一つひとつは至極あたりまえのことばかりなのだが、いざやってみると自然な動きでできない。
しかし、茶せんを使ってみずから点てたお茶(先生に手伝ってもらったが……)は細かい泡がたって上々の出来。クリーミーでうまい! 茶室内を愛でてわびさびを感じた後、退席……できなかった、しばらく足がしびれて。先生は仰った「正座も一つの体験です」。
また隣接する『梅の花 さかい利晶の杜店』では、『南方録』という文献をもとに、千利休が茶会で振る舞った茶懐石を現在手に入る食材を使って再現した、オリジナル会席料理「利晶」を楽しめる。器は利休の弟子、古田織部が生み出した織部焼を使用。信長や秀吉もあの時代、こんな料理を味わっていたのか、と思いを馳せながらいただく。
『さかい利晶の杜』
☎072-260-4386
9:00~18:00、第3火(祝の場合は翌)休。展示観覧300円、立礼呈茶20分1服800円、茶室お点前体験45分1服1000円。
「利晶」は展示観覧券と立礼呈茶がセットで4980円。『梅の花 さかい利晶の杜店』(☎072-225-0506)へ要予約
大阪府堺市堺区宿院町西2-1-1
阪堺電車宿院駅から徒歩1分
料理&デザートで、お茶を堪能
茶をしばけるところをもう一軒紹介しよう。こちらも紀州街道沿いにある『茶寮 つぼ市製茶本舗 堺本館』だ。
堺には建物フェチ垂涎(すいぜん)の町屋が点在しているのだが、ここの建物もその一つで、元禄時代築の町家をリノベーションして老舗製茶メーカーがカフェを営業している。夏には「抹茶の無重力かき氷」なるものが大人気とのこと。
今回、われわれがいただいたのは、「一期一会セット」。茶粥とそこここにお茶を使った料理のお膳に、数種類から選べるお茶とデザートが付く。店員さんにこの料理はどこにお茶が使われているかを尋ねながら食べると楽しい。
『茶寮 つぼ市製茶本舗 堺本館』
☎072-227-7809
10:30~18:00(喫茶は11:00~17:00LO)、火休(祝の場合は営業)
大阪府堺市堺区九間町東1-1-2
阪堺電車神明町駅から徒歩1分
刃物の町の職人技と、居心地のよい堺の夜を楽しむ
刃物の町・堺が誇る技術力を見よ
堺は古墳を築造するための工具や、ポルトガルから伝来した煙草(たばこ)を刻む包丁、そして鉄砲の製造と、金属加工とともに繁栄の歴史を歩んできた町だ。料理包丁や自転車といった現代の堺が世界に誇る産業も、この系譜を引く。堺の包丁がもつその鋭い切れ味は、国内外の料理の巨匠から支持され、プロの料理人用の包丁としては約9割の国内シェアを占めているという。
今回は工場での製造工程見学などにとどまったが、職人の指導を受けながら柄付け・研ぎを体験し、完成した包丁を持ち帰れるプランもあるという。My包丁で料理をすれば、これまでとはひと味違うものに仕上がること請け合いだ。
『堺伝匠館』
☎072-227-1001
10:00~17:00、第3火(祝の場合は翌)休。無料
大阪府堺市堺区材木町西1-1-30。
阪堺電車妙国寺前駅から徒歩3分
サラリーマンにやさしい「ガシ飲み」で、夜まで満喫
堺東駅前のアーケード商店街周辺は、通称「ガシ飲み」といって、地元民に愛される居酒屋天国だ。梅田や難波、天王寺に比べて客が多すぎず、独り飲みでも店主と適度にコミュニケーションを取りながらカウンターでゆっくり飲める。
周囲の常連客の新喜劇ばりの会話もいいツマミになる。大阪市内で何度か体験したクレイジーなほど安価な店はないが、それでも安い。夜9時すぎにふらりと入った『虎屋』では、おでん4種に大ビン、麦のおでん出汁割で、1700円也。実に正しい値段である。サラリーマンにやさしい。
なぜ最後に飲み屋の話を始めたかというと……。大阪では2025年4月から万博が始まる。大阪市内のホテル宿泊料の高騰が続いており、さらに高くなるはずだ。会社の規定宿泊料では到底収まらなくなりそうだ。その点、堺のホテルは大阪市内に比べると数千円安いのではと感じる。冒頭記したように、堺は意外と近い。だから、キタやミナミで仕事飲みをした後の帰りもつらくない。さらに軽く最後の締めをすることができる。
『虎屋』
☎072-238-0553
9:30~21:00LO、月と第2・3火休
大阪府堺市堺区中瓦町2-3-5
南海高野線堺東駅から徒歩5分
今回の旅行で立ち寄ったのは、堺市内のひと握りのスポット。昼も夜も「へぇ~」な物件がほかにも多数ある。旅行でも出張でも、関西に来た際の立ち寄り先の一つとして選択肢に入れてみることをおすすめする。堺の観光戦略も「京都・奈良に加えた関西の3rd Destinationを目指す」と謙虚だ。この謙虚さが、町の居心地のよさにつながっている
取材・文・撮影=前川ツルコフ