【子どものうつ病】は小学生~思春期の20人にひとり イライラ・過食・過眠 …「うつ病」のサインを見逃すな! 専門医が解説
子どものうつ病の症状、子どものうつ病が見逃されやすい理由について。北海道大学病院子どものこころと発達センター特任教授・齊藤卓弥先生に聞く「子どものうつ病」(第1回/全3回)。
【写真を見る➡】コスパ抜群の知育おもちゃ「LaQ(ラキュー)」いいところ・よくないところ疲れやすい、眠れない、気分が落ち込む……など、心身に抑うつ状態をもたらすうつ病。大人の病気と思われがちですが、実は子どもにも多く、近年、アメリカでは子どものうつ病や自殺が大きな社会問題となっています。うつ病の回復には、早期発見・早期治療が不可欠だといわれているものの、子どもの場合、見逃されやすく、適切な対応がなされずに苦しんでいる子も多いのが現状です。
なぜ、子どものうつ病は見逃されやすいのでしょうか。子ども特有の症状や子どものうつ病が見落とされやすい理由、注意すべきサインについて、北海道大学病院子どものこころと発達センター特任教授・齊藤卓弥(さいとう・たくや)先生に伺います。
●齊藤 卓弥(さいとう・たくや)PROFILE
北海道大学病院子どものこころと発達センター特任教授、児童思春期精神医学専門医。アルバート・アインシュタイン医科大学(米)精神科助教授、日本医科大学精神医学教室准教授を経て、2014年より現職。
北海道大学病院子どものこころと発達センター特任教授・齊藤卓弥先生。児童精神科医療の充実をめざし、人材の養成にも注力しています。 写真:Zoom取材より
クラスにひとり以上の子どもがうつ病の可能性
2024年10月に政府が発表した「自殺対策白書」によると、2023年の小中高生の自殺は513人。過去最多だった前年(2022年)の514人と同水準で高止まりしています。
自殺の原因は家庭や学校の問題に加えて、健康問題が多く、健康問題の中にはうつ病が含まれています。大人同様、子どもの自殺にもうつ病は大きく関係しているのです。
子どものうつ病とは、どのような病気なのでしょうか。子どものうつ病の現状や子ども特有の症状、見逃しやすいとされる理由について、齊藤卓弥先生に伺います。
──現在、日本ではどれくらいの子どもがうつ病を患っているのでしょうか?
齊藤卓弥先生(以下、齊藤先生) 2020年に私と弘前大学が行った研究では、学童・思春期(小学4年生~18歳)の子ども8003人のうち、13.6%に「中等度のうつ症状」があり、このうち3.4%には「やや重度のうつ症状」、1.5%には「重度のうつ症状」が観察されました。
標準的な学校の1クラス(26~35人)にひとり以上、「やや重度から重度のうつ症状」の子どもがいることになります。12歳以上になると、うつ病の有病率は大人とほぼ同じです。
以前は、世界的に「子どもはうつ病にならない」と考えられていました。落ち込んだり悲しくなったりする“うつ状態”はあっても、まだ自我が確立されていない子どもは、うつ病にはならないと思われていたのです。
子どもも大人と同じようにうつ病になると言われ始めたのは、1970年から1980年にかけてのこと。そこから急速に研究が進み、アメリカでは年々うつ病の子どもが増えているとの報告があります。今、アメリカの精神科医療でもっとも重要視されている問題のひとつが子どものうつ病と自殺で、大きな社会問題になっています。
日本でも2023年にこども家庭庁が発足し、子どもの自殺予防に力を入れています。自殺とうつ病は密接に関係しているところがあり、子どものうつ病に対しても行政の関心が高まっていると感じています。
うつ症状で見逃しがちな「イライラ」「過食」「過眠」
──子どものうつ病は大人に比べて見逃されやすいと聞きますが、なぜでしょうか?
齊藤先生 子どものうつ病の症状は、大人とは違った表れ方をする場合があります。例えば、大人のうつ病は悲しい、ゆううつ、無気力といった「抑うつ気分」が代表的な症状ですが、子どもはイライラしたり反抗的に怒ったり「易怒(いど)的な気分」として表れることがあります。
また、食欲障害は、大人だとだいたいが「食欲不振」ですが、子ども、特に思春期の子は食欲が過剰になる「過食」になるケースも。睡眠障害も大人は「不眠」になりがちなのに対して、子どもは十分に寝ていても過度な眠気が生じる「過眠」をきたすことも多いです。
親からすれば、わが子が反抗的な態度をとり、よく食べて、ゴロゴロ寝てばかりいたとしても、まさかうつ病だとは思わないですよね? 反抗期や思春期特有の行動だと思われる親御さんもいるでしょう。一般的なうつ病のイメージと異なる症状が表れる点は、子どものうつ病が見逃されやすい理由のひとつだと思います。
年齢とともに症状が変化する
──大人のうつ病に比べて、症状に気づきにくいのですね。
齊藤先生 子どものうつ病は、年齢とともに増える症状、減る症状、Uカーブを描く症状があるのも特徴です。
例えば「絶望感」「妄想」は、学童期(6~12歳ごろ)では多くありませんが、思春期・青年期になると増えます。反対に「抑うつ的な表情」「お腹が痛い、吐き気がするなど身体的な訴え」「幻聴」「癇癪(かんしゃく)」は、だんだんと減っていきます。
Uカーブを描く症状とは、学童期は少なく、徐々に増えて思春期・青年期にピークを迎え、成人になるとまた減ってくるもの。「食欲障害」「睡眠障害」、重度のうつ病だと「自殺念慮」が挙げられます。
自殺念慮による自殺行動は思春期・青年期に多く見られる症状のひとつで、リストカットやオーバードーズ(薬の過剰摂取)など、さまざまな形で自分自身を傷つけます。必ずしもそれらがすぐに自殺に結びつくわけではありませんが、「死にたい」と考え、比較的容易に行動に移す危険性も高いです。
自傷行為は、以前だと周囲の注意を引くために行うものと思われていましたが、現在では自殺行動と自傷行為は別物ではなく、自傷行為からエスカレートして自殺行動につながる子も多いと考えられています。自殺念慮は思春期がピークで、成人になると徐々に落ち着きます。
年齢によって症状が変わる病気だと理解していないと、「治ったのではないか」「うつ病かと思ったけれど勘違いかもしれない」など、親御さんは対応に悩まれるかもしれません。
特に小学生低学年など小さいお子さんの場合、自分の感情を伝える能力が十分に育っていないため、苦しい気持ちを体の不調として訴える場合がほとんどで、わが子がうつ病だと気づくのはより難しいもの。下記のようなサインを頭に入れておきましょう。
子どもに見られるうつ病のサイン
■うつ病のこころのサイン
ゆううつ、悲しい
無気力、無関心
意欲、集中力、決断力が低下する
焦燥感、自責感が強くなる
悲観的になる
柔軟な考え方ができなくなる
将来に希望がもてなくなる
■うつ病のカラダのサイン
眠れない、もしくは寝すぎる
食欲が低下する、もしくは食べすぎる
だるい、疲れやすい、元気が出ない
頭痛、頭重、めまい、吐き気など
引用:子どものSOSサイン「うつ病とは?」/厚生労働省
また、次(#2)でお話ししますが、うつ病と不安症や発達障害などの精神疾患を併発している子どもが多いことも見逃されやすい理由に挙げられます。
アメリカのある調査でうつ病の発症年齢を調べたところ、12歳以降で急増することがわかっています。うつ病は、よくなったり悪くなったりと寛解・再燃を繰り返す病気なので、有病率でいうと中高年が高いのですが、初回に発症するうつ病の頻度は思春期(12歳以上)になると急激に高くなり、大人と同じ程度の思春期の子どもがうつ病になるといわれているのです。
中高年のうつ病を減らすためにも、うつ病のサインが見られたらしっかりと治療し、対応することが大事だと思います。
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第2回は、うつ病になりやすい子どもの特徴、うつ病の治療について伺います。
取材・文/星野早百合
引用:子どものSOSサイン「うつ病とは?」/厚生労働省