四季折々楽しめる 峠越えのほんの一瞬に広がる絶景!山形新幹線「つばさ」で見晴らす福島盆地の車窓旅
text & photo:鉄道ホビダス編集部
ただ車窓を眺めていただけなのに、ふと現れるまるで展望台から見晴らしているような景色に息をのむ──そんな“見晴らしのいい列車”を紹介する本連載、「全国絶景見晴らしの旅」。第四弾となる今回は、奥羽本線の庭坂~板谷間に広がる、まさに“絶景”と呼ぶにふさわしい風景をご案内します。
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■庭坂駅を通過し、山登りの高揚感が湧く
▲丸の内のビル群を背に出発を待つE8系つばさ。1時間後には自然の中を300km/hで駆け抜けている。
東京から新幹線で1時間半と少し。山形新幹線の「つばさ」は、福島駅でそこまで旅路をともにした「やまびこ」を切り離すと、東北新幹線の線路から左に分岐して、西へ向かいながら福島の街へと下っていきます。奥羽本線の線路と少しして並ぶと、住宅街の間をまっすぐに山並みの方へ向かい、笹木野駅を通過します。車窓に畑も映り始めると、東北自動車道をくぐり、今度は庭坂の街を横目に庭坂駅を通過。列車は少しずつ右へとカーブしていきます。切通しを過ぎ、進行方向右側に田んぼが見えてくると、列車は一気に右カーブを駆け上り、今回の見どころへと差し掛かります。
■福島盆地を見晴らしながら、いざ峠越え!
さて、列車は福島盆地を右にぐんぐんと坂を登っていきます。この先は日本の鉄道路線の中でも屈指の難所、板谷峠です。かつては赤岩駅、板谷駅、峠駅、大沢駅と4駅連続でのスイッチバックを余儀なくされたほど急峻なこの峠は、30パーミル以上の急坂が20km以上も続きます。そんな峠を越えるため、福島盆地を抜け出すにも一気に坂を駆け上がらなければならないのです。
しかし、鉄道を運行する側にとっては今なお難所なこの場所も、列車に揺られる旅客にとっては車窓ポイントとなってくれます。どんどんと福島盆地から浮くように坂を登る列車の窓に映るのは、山々に抱かれるように広がる福島市の景色です。手前には東北らしい田んぼが広がり、その向こうには福島の街並みが広がります。県下第三の人口を誇る福島市の景色は、夜景も美しいです。
▲坂の中ほどから福島盆地を見晴らす。
ただ玉に瑕なのは、この区間では坂を登りきる前に木々が立ち並び始め、松川の渓谷に沿って本格的な峠越えに入る直前の福島盆地を眺めることが難しいというところ。しかし、木々の間から顔をのぞかせる一瞬の絶景は、目を見張る価値があるでしょう(その他の車窓写真はぜひギャラリーからご覧ください)。むしろ簡単に見ることができないからこそ、刹那に映る光景がより引き立って美しく見えるのかもしれません。
ちなみに筆者のお気に入りは、夜遅い上りのつばさから見る福島の夜景です。複線であるため、上りの方がより景色に近いのと、真っ暗な板谷峠を越えた後に木々の間を縫って窓に映る街の光が、それまでの暗い車窓に対比されてとても美しく見えるからです。
▲夜の福島盆地。写真はだいぶブレているが、疾走感と夜のきらめきが感じられる。この景色はぜひ乗車して体験してみてほしい。
さて、「全国絶景見晴らしの旅」、第4回は奥羽本線 庭坂〜板谷間の車窓をお届けしました。この区間は景色を楽しめる時間こそ短いものの、山形新幹線に乗るときには見逃せないビュースポットです。夏の青々とした車窓も、冬の雪化粧をした景色も、どちらも楽しめるこの区間。あなたのお気に入りはどちらか、ぜひ確かめに行ってはどうでしょうか。
ほんのわずかな時間にしか見られないからこそ、心に焼きつく車窓の風景。旅の途中、ふと顔を上げて、その瞬間に出会えたら──それだけで、この峠越えの意味が少し変わって見えてくるかもしれません。次に「つばさ」に乗るときは、ぜひ、その瞬間を逃さず見晴らしてみてください。