「母の遺骨を山に…」登る人ごとにストーリーがあるから、思い出を形に。山バッジに込めた信念
北海道生まれ北海道育ち。生粋の道産子であるHBCアナウンサー・堀内美里(ほりうち・みさと)が、趣味である「登山」と「山ごはん」を紹介する連載「堀内美里の言いたいことは山々ですが」。
自分の足で歩いた先にある絶景と、おいしいごはんは、もう最高!
文化部出身・運動神経ゼロの私でも楽しめる「コスパはなまる山」が盛りだくさんです!
今回は番外編。山を愛するある企業に、熱い思いを伺いました。
登山の記念に…「山バッジ」
日々、登山や山ごはんについて発信してきたこの連載…。
ある日、私たちにひとつの連絡が届きました。
「一緒に『山バッジ』を作りませんか」
連絡をしてくれたのは、埼玉にある金属バッジや校章、表彰メダルなどを製作する会社『ダイヤ工芸』。
「山バッジ」とは山小屋や麓の売店などで販売されている、山をモチーフにした小さなバッジのことです。
真鍮で作られた重厚なものから、最近は木で作られたやわらかい雰囲気のものまでさまざま!
登山やハイキングの記念として購入して、コレクションする人もいます。
3代目の社長、大森繁幸さん(38)は自身も登山が好きで、5年ほど前から本格的に「山バッジ」の製作だけでなく、卸まで行うようになりました。
各地の山小屋などで販売していますが、北海道での山バッジの制作はこれまでなかったため、私たちに連絡をくれたそうです。
お話を聞くと、「バッジを作っている会社」以上にさまざまな熱い思いと行動力があったんです。## 思い出を形にする企業
ダイヤ工芸は、社員が全部で6人の町工場。
社長の大森さんは自ら山へ登り山小屋に直接営業をかけることも少なくないといいます。
インターネットを通じたやりとりだけでなく、直接バッジをザックの中に入れて、山小屋を訪ねるのだそう。
北は東北から南は九州まで。全国の60箇所以上の山小屋で販売しているバッジは100種類を超えています。
ときには、有名な八ヶ岳連峰最高峰・標高2899メートルの「赤岳」にも…。
「直接行っちゃいますね。山小屋の人にも『こんなの初めて』と驚かれます」
バッジのデザインは実際に自分で登り、そこで見た景色、出会った人たちとの会話や思い出からインスピレーションを受けて決めることが多いそうです。
そんなダイヤ工芸が一番大事にしているコンセプトがあります。
「思い出を形にする」
そこに、自分の足で数々の山を登ってきた大森さんの強い思いが込められているんです。
「母の遺骨を山に…」先輩に連れられて富士登山
大森さんが登山をはじめたのは12年前。
初めて登ったのはなんと富士山でした。
しかしその年は、どしゃぶりで景色がまったく見られず…。
翌年、27歳のときに再チャレンジ!
1年越しに見られた山頂からの景色に「自分の小ささ」を実感しました。
「当時、30歳手前で仕事も好調だった。『自分ってできるかも?』と調子に乗っていたのですが、自然の雄大さを目の当たりにして、自分を振り返れた。そこから山の世界に魅了されていった」
そして大森さんを登山へと誘い、連れて行ってくれた先輩も、その日特別な思いで富士山の山頂にたどり着きました。
その先輩のお母さまが実はその少し前、山で亡くなったのだそうです。
「遺骨の一部をもって、富士山に登りたい」
山頂にお母さんを連れてくることができた…先輩のそんな思いを間近でみたとき、大森さんは『登る人それぞれに、違ったストーリーがある』と感じました。
思い出を持ち帰る『タイムカプセル』
山バッジは『タイムカプセル』のようなものだと語る大森さん。
「バッジを見るたびに、山で見た景色や登頂した達成感、一緒に登った仲間や家族の笑顔…様々な思い出が昨日のことのように蘇ってくればいいと思って作っています」
いつでも、あの瞬間を思い出せるー。
「思い出は宝物だから」と自然に言葉になるのは、自身も山に登って色んなかけがえのない経験をしたからなのでしょうね…。
私たちも、北海道の山を通じて、大自然の魅力・北海道の魅力をたくさん感じて「宝物」にしてほしい!と、その思いに共感しました。
そんなバッジには、こだわりがたくさん詰まっています!
環境への取り組みも
「山バッジ」というと、実はメジャーなのは真鍮で作られたもの。
だけど、ダイヤ工芸では、木製バッジ(キーホルダーも)にもこだわっています。
そこには環境問題への思いがありました。
「森林伐採=自然破壊と思われがちですが、実はそれはまったく違うんですよね」
日本にあるたくさんの自然。国土の約7割が森林で、そのうちの4割は人の手によって作られた「人工林」。
そして森には、「手入れ」が必要です。
間引いたり、整えたり…森を健康に保つために伐採が必要となります。
【植える→育てる→伐採する→木材に変える→植える】
好循環を回すことで健康的な森林が維持されていくことにつながります。
木製バッジは、そんな国産のヒバの間伐材を使って作られています。
「山々」でも、こうした思いに共感し、木製バッジを作っていただくことになりました!
さらに、登山を安全に楽しんでもらうために欠かせないグッズも作ることに。その制作過程からも、大切な思いが見えてきたので、そちらは後編の記事でお伝えします。
社長、フッ軽すぎます…!
日本の製造業と、人の思い出に残るモノづくりと…熱い思いをたくさんお話してくれた大森さん。
その取り組みは「作る」だけにとどまりません!
ダイヤ工芸ではこの春に、安全な登山の啓発をしようと登山講習会を開きました。
人気登山Youtuberのかほさんと一緒に、「安全に楽しく登る」ための装備や体力の使い方について発信。
「山で過ごした思い出が、かけがえのないものになってほしい」
すべてはその思いが胸にあるから。
町工場という枠組みを超えて、チャレンジを続けているんです。
ちなみに…北海道のおすすめの山を聞かれて、小樽市の「塩谷丸山」と答えたら、なんと先日実際に登ってきてくれました!(笑)
さすがのフットワークの軽さ…。社長すごい。
「北海道ってもっと激しい山を想像していたけど、お手軽でびっくり。コスパ最強の山ですね~。海も街並みも自然も全部見渡せるって首都圏ではなかなか難しいので、素晴らしいと思った」と絶賛してくれました。
「塩谷丸山」は私のホームマウンテンなので、褒められてとても嬉しいです。
山のごとく溢れるバイタリティ…。私も見習いたいと思います。
連載「堀内美里の言いたいことは山々ですが」
※北海道の山に登るときは、クマについても知っておきましょう。「クマに出会ったら」「出会わないためには」の基本の知恵は、HBCのサイト「クマここ」で、専門家監修のもとまとめています。
文:HBCアナウンサー・堀内美里(ほりうち・みさと)
北海道生まれ・北海道育ち。2021年入社。HBCテレビでは「グッチーな!」「ジンギス談」「吉田類 北海道ぶらり街めぐり」「大江裕の北海道湯るり旅」などを担当。登山歴4年。おいしくごはんを食べるために山に登っています。登山の魅力はインスタグラムでも発信中
編集:Sitakke編集部あい
※掲載の内容は取材時(2025年7月)の情報に基づきます。