宮下遊 seeeeecun&かいりきベアとの共演も、約2年振りの単独公演・KT Zepp Yokohama公演をレポート
宮下遊ワンマンライブ2024-白紙-
2024.6.29 KT Zepp Yokohama
6月29日(土)、宮下遊が『宮下遊ワンマンライブ2024-白紙-』をKT Zepp Yokohamaにて行なった。ゲストにseeeeecun、かいりきベアという盟友を招いて開催されたこのライブは、宮下にとって約2年振りの単独公演。ピアノの儚げな旋律が響き渡るフロアで、オーディエンスはその瞬間を静かに待っている。
暗転。不気味で、陰があって、それでいて美しさも感じられるSEが流れ始める。青い照明が灯る薄暗いステージに、この日のサポートメンバーであるマロン菩薩(Gt)、松ヶ谷一樹(Ba)、杉崎尚道(Dr)に続いて、宮下が姿を現した。SEが鳴り止み、しばしの沈黙。そして、宮下がこの日の1曲目である「セクト」を歌い始めた瞬間、大きな歓声が上がった。ダウナーでありながらもグルーヴィーなサウンドに身を委ねながら、低音と高音を巧みに切り替えつつ、大量の言葉達を次々に吐き出していく宮下。囁くように歌っていたその声は、バンドメンバー達の演奏と呼応するように、徐々に熱が高まっていく。そして、「みんな盛り上がっていこう!」とフロアに向かって叫び、「グレイン」「踊ろうや」とアッパー寄りの楽曲を畳み掛け、ときに客席の声を求めるように、自身の歌声を放っていった。曲を終えると、「いやー、最初から飛ばしたね! これでライブ終わりか?ってぐらい飛ばした」と、曲の雰囲気とは打って変わって、快活な声で客席に話しかける。
この日のセットリストは、ダークファンタジー色の強いアレンジでディープな世界へ誘なう「夜の積み木部屋」や、原曲ではハードなシンセ音がゴシックでデカダンな香りを強烈なものにさせていたが、ライブで体感するとギターサウンドが前に出ていて、かなりヘヴィな手触りになっていた宮下の自作曲「メリッサ」など、昨年12月に発表した5thアルバム『白雨の下』の収録曲を中心にしつつ、そこに過去の楽曲を組み込んでいくというもの。イントロのオルゴールが流れた瞬間に大歓声が上がったのは、「愛して愛して愛して」。サビの前半では狂気的に咆哮すると、後半では圧巻のファルセットを響かせた。
ここで1人目のゲスト・かいりきベアが登場。宮下とは、2ndアルバム『青に歩く』に収録されている「テレストテレス」を書き下ろしてからの付き合いとのこと。また、昨年12月に東京国際フォーラム ホールAで開催されたイベント『Trio Colors Odyssey』で共演していて、話している雰囲気からも相思相愛ぶりがとてもよく伝わってくる。
和やかに談笑していた2人は、「病み垢ステロイド」「エンドゲエム」と、立て続けに2曲披露。宮下がネガティヴながらも異常なまでに語感のいい言葉達を連射すれば、それまで穏やかなトーンで話していたかいりきベアは、アグレッシヴかつ華麗なステージパフォーマンスで魅せる。曲を終えると、「かいりきさんのこの豹変振りを見るたびに“カッケー!”としか言えなくなる」と話す宮下に、「いやいや、生で聴ける遊さんの歌も、めちゃくちゃくるものがありますね」と返すかいりきベア。すると宮下は「この褒め合い、いいですね。自己肯定感(が高まる)!」と笑みを浮かべていた。そして、かいりきベアが「燃え尽きる準備できてますか!?」と焚き付けて、「バグ」へ。宮下は、シンガロングが巻き起こるフロアに向けて、楽しそうに何度もマイクを向けていた。
かいりきベアがギターを高く掲げてステージを後にすると、「ここで一旦クールダウンして、ゆったり楽しんでもらいたいと思います。そういう曲も僕っぽいと思ってますので」と宮下。ウィスパーボイスを活かした導入で一気に深淵へ引きずり込んでいった「紫刻」、アンニュイな空気をまとったダンスナンバー「ブラックローズ」、さらには和の趣きと哀愁に溢れた「御涙頂戴」と、彼の繊細な歌声を存分に堪能できる楽曲でフロアを魅了していた。
オーディエンスをどっぷりと浸らせたところで、2人目のゲストであるseeeeecunが登場。ステージに姿を現した彼は「(会場が)デカくね?」と宮下に話しかける。彼らはユニット・Doctrine Doctrineとして活動していることもあり、リラックスしながら息の合ったトークを繰り広げると、ギターを背負ったseeeeecunが「3曲ぶっ通しでやります!と宣言。歓声をあげるフロアに向けて、「じゃあ、みんなで一緒に“狂おうぜ”!」と、コラボはseeeeecunが宮下に提供した「狂おうぜ」からスタートした。seeeeecunとしては、「この曲のデータを納品した日から、いつかライブに呼んでもらえるんじゃないかなと思って、ちょこちょこ練習していた」そうで、ときに吠えるように歌う宮下の声に、ギターをかき鳴らしながら声を寄り添わせていく。
その熱を高めるように2人が繰り出したのは、Doctrine Doctrineの「ヌギレヌ」。躍動感みなぎるバンドサウンドとキャッチーなメロディでフロアを弾ませると、その勢いのまま突入した「ローファイ・タイムズ」では、2人が変わるがわるメインボーカルを担当。強烈な熱を生み出し続けていた。
seeeeecunを送り出すと、その熱狂を膨らませるように、ライブは「ヲズワルド」から後半戦へ。宮下は、退廃的なサウンドの中で激しく動き回る歌唱難易度激ムズのメロディをサラリと歌い、曲の後半では壮絶なロングトーンのシャウトを轟かせてフロアを驚愕させると、全編通して強烈なメランコリーが立ち込める「-[REJOICE]-」を、柔らかくも美麗な声で歌い上げた。そして、本編ラストナンバーとなる「デウスエクスマキナ」へ。前述の「メリッサ」同様、サイバーパンクテイストなこの曲も、ライブで体感すると凄まじい重量感。照明が凄まじく明滅する中、宮下は鬼気迫る声で絶唱し、ステージを後にした。
アンコールの声に応えて、再びステージに戻ってきた宮下は「Ithna」を届けると、バンドメンバー達とライブが終わってしまうことを名残惜しそうに話し、「こういう機会に恵まれていることが幸せだなと感じているので、これからも頑張っていきたいと思います」と、オーディエンスに感謝を伝えていた。そして、「降伏論」を力強く歌い上げて、久々の単独公演を締め括った。
コロナ禍明け初の単独公演だったことや、さらには盟友達との共演も手伝って、終始楽しそうにしていた宮下。ライブ本数が決して多くないアーティストなのもあって、彼とオーディエンスにとって、ライブという空間はかなり貴重なものだと思う。事実、現時点では次のステージがいつになるのかは、まだ分からない。しかし、その日もそこまで遠くないのではないだろうかと思えるほど、笑みを浮かべながらフロアをまっすぐに見つめる彼の姿が、とても心に残った。最後に「またライブでお会いしましょう!」と叫んだ宮下。再び彼がステージで歌う日を楽しみに待っていたい。
文=山口哲夫
撮影=中原幸