【7/9(火)~8/4(日)開催】2024年語らい座 大原本邸 特別展 〜 学生児島虎次郎の出世作、代表作の制作過程や苦悩を知る書簡の数々
倉敷美観地区のなかの一角、癒しの空間でもあり国指定重要文化財の建物でもある「語らい座 大原本邸(旧大原家住宅)」。
観光にもおすすめのスポットですが、期間限定で特別展が今年(2024年)も開催されます。
皇居三の丸尚蔵館で所蔵されている洋画家 児島虎次郎(こじま とらじろう)の出世作「なさけの庭」。
作品制作から宮内省(当時)買い上げになるまでのいきさつが書かれた、児島虎次郎から大原孫三郎(おおはら まごさぶろう)宛ての書簡の数々が展示されます。
また、虎次郎代表作「里の水車」「登校」の制作過程が書かれた書簡も展示されます。
特別展 大原家に残る書簡の数々〜学生児島虎次郎からの書簡〜の概要
大原本邸には歴史的な資料が数多く眠っているそうですが、そのなかでも書簡の数は数万点に上るそうです。その膨大な書簡のなかから、奨学生 児島虎次郎が援助者 大原孫三郎に宛てた書簡が展示されます。
出世作「なさけの庭」や代表作「里の水車」「登校」の制作過程を知ることができる特別展です。
展示場は、大原本邸で大原孫三郎の資料が展示されている中倉(二)、ブックカフェに併設されている内中倉の2か所となります。
中倉(二)展示:出世作「なさけの庭」の制作過程の書簡
大原本邸の中倉(二)で展示されるのは、出世作「なさけの庭」の制作を決めることから宮内省お買い上げまでの大原孫三郎へ書簡です。
明治時代の書簡となると、読み解くことは一般的には難易度が高いでしょう。
それでもどのような内容かを知っておけば、資料を観るだけでも楽しいと思えるものです。
では、今回の特別展で書簡に書かれている「なさけの庭」とはいったいどのようなものなのか。少しだけ触れておきましょう。
「なさけの庭」は現在、皇居三の丸尚蔵館で所蔵されている絵画です。
作者は児島虎次郎、題材は「岡山孤児院」です。
この作品は1907年(明治40年)3月東京府勧業博覧会で出展され、明治天皇お買い上げとなる作品となります。
そしてこのことがきっかけで、虎次郎はヨーロッパへ留学することになります。
もし虎次郎がヨーロッパに行かなければ、絵画を買い集めることもなかったので現在の「大原美術館」は存在しなかったかもしれません。
そう考えるとまさしく「出世作」といえます。
書簡には虎次郎の作品制作の苦悩、恩師である黒田清輝(くろだ せいき)の評価、厳しい自己評価などが書かれています。
内中倉展示:代表作「里の水車」「登校」の制作過程の書簡
内中倉で展示されるのは児島虎次郎の代表作 「里の水車」と「登校」の制作過程の書簡です。
いずれも大原孫三郎へ作品制作の思いや過程を書簡で送ったものです。代表作「里の水車」「登校」は岡山で鑑賞できます。
・里の水車:大原美術館 所属
・登校:高梁市成羽美術館 所蔵
「里の水車」は児島虎次郎の故郷でもある成羽川の流域で描かれたもの。水車小屋のなかで小さな子どもを抱く女性と横に座る若い女性が描かれています。
「登校」は小さい女性ふたりの風景ですが、児島虎次郎の卒業制作でもあり、美術学校で学んだ集大成の作品といわれています。
「弱き者のために」というテーマで描かれた作品ですが虎次郎は苦心のすえ、この作品を完成させたそうです。
取材に協力してくれた学芸員 水島 博(みずしま ひろし)さんは、児島虎次郎の代表作「登校」にも触れ、実はこの作品は「登校」ではなく「下校」だとか。
「下校」だったのに、なぜタイトルを「登校」としたのでしょうか。ますます興味がわきました。
児島虎次郎からの書簡をテーマにした理由
大原家には膨大な資料や文書が残っていますが、日々整理や調査をおこなっていて、「語らい座 大原本邸」にて定期的に公開しています。
今回(2024年)の特別展について水島さんに話を聞きました。
──数ある資料のなかから「学生児島虎次郎からの書簡」を選んだのはなぜですか?
水島(敬称略)──
今回で4回目の書簡展になりますが、児島虎次郎からの書簡は数も多く200を超えています。知っている人も多いので比較的取り上げやすいんです。
また現在大原美術館でも特別展を開催していて、入館して最初に観られる絵が児島虎次郎の「里の水車」なんです。せっかくなので、作品の制作に関する書簡もご覧いただきたいという思いでこのテーマにしました。
──今回の特別展の見どころを教えてください。
水島──
「里の水車」と「なさけの庭」2点は東京勧業博覧会で出展された作品で、児島虎次郎の代表作でもあり出世作です。
援助者の大原孫三郎へ、作品制作にあたって恩師 黒田清輝からの批評や児島虎次郎自身の厳しい自己評価などが書かれていますので、ぜひご覧いただきたいですね。
おわりに
大原美術館にある海外作品のほとんどは、児島虎次郎が買い付けたものです。
その非凡な才能は、学生 児島虎次郎が東京美術学校(現 東京芸術大学)在学中に制作活動をするなかで、恩師 黒田清輝からの助言や虎次郎自身の苦悩、援助者 大原孫三郎との関係から少しづつ生み出されていったものかもしれません。
水島さんの話では、「特別展とはいっても古文書が並ぶので難しく思う人も多いかもしれない」とのことでしたが、絵画や作品を観た後なら、興味深く観ることができるかもしれませんね。
また、パンフレットの裏面に解説もついているのでわかりやすいと思います。
水島さんの解説が聞けるセミナーが7月13日(土)にあるので、特別展とあわせてぜひ足を運んでみてください。