Z世代の特徴は「チル&ミー」?価値観の傾向7タイプも。
物心ついたときからインターネットやスマホが身近にあったZ世代。新感覚を持つ彼らは、どんなことを心地いいと感じ、どんなことをいやだと感じるんだろう?上の世代にしてみれば「仲良くなりたい、だけどちょっと気後れする」そんな存在でもある気がします。そこで、Z世代特有の発想や感性について、長年、若者研究をされていて、「さとり世代」や「マイルドヤンキー」といった言葉の生みの親でもある原田曜平さんに聞いてみました。もっと彼らに近づいていいんだ、と原田さん。しかも、いまは世界的に「Z世代の世紀」。理解を深めておくと、さまざまな場面でちょっと役に立つかも?しれませんよ。全5回でおとどけします。第2回目は、Z世代の特徴について。
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Z世代には、どんな特徴があるのでしょうか。
原田
Z世代の説明の前に、日本全体の話をしますね。いまの日本人の世代はざっくりわけると3つのグループになると思っています。
第1グループは、戦争を知っている方々。戦後、何もないところから復興を成しとげてきた世代です。第2グループは、団塊世代からバブル景気を知っている50代まで。日本が戦後に経済成長していった時期の人たちです。第3グループは、団塊ジュニア以降からZ世代まで。
第1グループと第2グループは、日本が右肩上がりの元気な時代を中心に生きてきた人たちですが、第3グループは日本の低成長時代を中心に生きてきた人たちです。
ちなみに第3グループの団塊ジュニアには、有名人ではSMAPとか、嵐とか、浜崎あゆみさん、安室奈美恵さんなど。団塊世代の親の子どもたちなので、人口が多く、競争も激しかった。芸能界でもけっこうエネルギッシュな方が多い印象です。
ただしこの世代の普通の人は「ロスジェネ(ロストジェネレーション/失われた世代)」なんて言われて、就職氷河期だったので辛い就活時期を送った人が多い。この世代もいまトップバッターは50歳ぐらいになってきて、そこからいまのZ世代ぐらいまでが第3のグループです。
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Z世代はバブルや好景気を知らないことで、将来に希望が持ちにくかったりするのでしょうか。
原田
いやいや、その反対です。第3のグループに属しながら、Z世代の大半はハッピーなんです。
たとえば就職状況は、コロナ禍でさえ状況が非常によかった。日本は50年も少子化を続けてしまったので、実際の若者の数よりも、学校の募集人数や企業の求人者数のほうが多くなっているんです。だから学校にも入りやすいし、就職もしやすい。そしていまの日本では「若者である」というだけで希少価値が高い。
ゆとり世代のころから若者の希少価値が高くなっている傾向はありましたが、当時はまだ人気バイトだと面接で落ちたり、就職活動でうまくいかなかったりすることもよくあったんですね。
でもZ世代は違います。学校も塾も企業も、若者に来てほしくて仕方ない。大学入試でも就職活動でも、若者にとっては売り手市場。戦後、地方から都会に集団就職した若者たちを「金の卵」と言いましたが、いまの若者は「ダイヤモンドの卵」です。
もちろん人気の大手企業に就職しようとすれば、狭き門であることは変わりありません。でも、会社の知名度や規模にこだわらなければ、それなりに希望の職に就くことはできる。転職ができるから、イヤだなと思ったら会社を辞めても大丈夫。若者にとって、いまの日本はパラダイスです。
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氷河期世代としてはうらやましい感じもありますね。
原田
少子化の恩恵がはっきり出てきたのは、Z世代からですね。また、私はZ世代の特徴を「チル&ミー」と表現しています。
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「チル&ミー」。
原田
「チル」は元々アメリカのラッパーのスラングのchillout(チルアウト)の略で、「チルってる」「チルしてます」なんて使われて、日本語として定着しつつあります。わかりやすく言うならば、マイペースでまったりしていること。あんまり昭和の根性論みたいな、「徹夜でガツガツがんばります」という感じとは対極にあり、リラックスして過ごすっていう。
象徴的な例が栄養ドリンクですね。昭和の時代は、茶色の瓶の栄養ドリンクを飲んで「みんなでがんばるぞ!」でした。平成の途中からは、海外発のスタイリッシュなエナジードリンクが流行ってきましたが、いずれにしても「飲んでがんばろう」だったわけです。
それが、令和のいま売れているのはリラクゼーションドリンク。「飲んでがんばろう」から「飲んでリラックスしよう」に変わってきているんですね。
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Z世代の子たちのスタンスは肩に力が入っていないというか。
原田
もちろんZ世代もいろんなタイプがいるのですが、「チル」という感覚は上の世代と大きく違うところだと思っています。
プライベートだけでなく、学校や会社でもリラックスしていてマイペース。「成果を出すためにがんばらなければ!」といった感覚は薄めかもしれません。
そしてZ世代の特徴のもうひとつは「ミー」です。ミーは「me」、つまり「わたし」ですね。上の世代と比べて自己承認欲求が高い。
その背景にあるのが、コミュニケーションツールの変化。Z世代は最初に手にしたコミュニケーションツールがスマートフォンですから。
スマホは動画を見るのはもちろん、自分で動画を作ることもできるし、SNSサービスで知らない人との人間関係を築きやすくなりました。これは、ポケベルやガラケーの時代との大きな違い。ガラケーは基本的に知っている人たちと連絡する手段だったわけで、同調圧力だったり閉塞感があったりしたわけです。
でもいまは、学校では目立たなかったとしても、SNSではバンバン交流していたりする。TikTokでおもしろいことを発信したらフォロワーが一気に増えて、スターになれるわけです。スマホを使いこなせればこなせるほどスターになれたり、いいねを押してもらえたりする。だから全体的な傾向として、発信意欲が強く、自己承認欲求が高い。
昔の暴走族ならリーゼント、ボンタンとかわかりやすい格好で自己承認欲求を社会に示していたわけです。いまは過激な自己承認欲求を直接出す人は少なく上品になっているんで、大人は気づきにくいんですけど、掘り下げると自己承認欲求は強いと思います。
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まったりマイペースに過ごしたいけれど、一方で自分を認めてもらいたい気持ちも強い。
原田
とはいえ全員が当てはまるわけではありません。「チル&ミー」は、Z世代を理解するとっかかりとしての、わかりやすいひとつの手がかりではありますね。
また、マーケティングで使われる「クラスター分析」という数学的な分析手法を用いるともっと細かくわかれます。
全国のZ世代の子たちにスマホの使い方や恋愛感情とかいろいろなことを聞いて、似た価値観を持っている人たちを統計学的に分析してみたら、7タイプにわけられました。
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ひとくちにZ世代といっても、いろいろな若者がいるはずですもんね。
原田
そうなんですよ。人はみんなひとりひとり違うものですし、この7タイプというのも、世代の傾向として聞いていただきたいんですけど。
クラスター1は「無気力・無感動・無購買男子」。この子たちの特徴としては、SNSをやってはいるけど、熱心に見てない。自分を見てという「ミー」が薄いタイプです。あんまり気力もなくて、感度も弱く、物も買わない。どちらかというと「チル」が強めのタイプです。
クラスター2は「ミーハーインスタ女子」。この子たちはすごくSNSをやっていて、「ミー」が強いタイプ。アグレッシブで行動力があるので「チル」は少なめです。
クラスター3は「意識高い系多趣味男子」。このタイプはバブル時代の男の子像みたいな感じで、野心があって社長になりたいといった上昇志向がある。新しいものやブランドにも興味が強い。どちらかというとクラシカルなタイプですね。
クラスター4は「ズボラな発信系男子」。SNSの発信には熱心だけど、他の人の様子や世の中の動きには関心が薄い。SNSで過激な行動をして炎上してしまうのは、このタイプの「ミー」が肥大化した例なのかなと。
クラスター5が「推し活節約女子」。全時間、全金額を投じるほどの重い推し活ではなく、推しのYouTubeを見て、グッズを買って、イベントにもたまにいくというライトな推し活のタイプ。推し活の優先順位は高いので、会社を休んでコンサートに行くことを選んだりもします。
クラスター6が「安さ節約重視の個人主義」。家にこもってアニメとゲームをずっと見ているみたいな子たちです。彼らも「チル」が強めですね。お金を使わないように、という意識も強いです。
クラスター7が、「自分を持った真面目男子」。たぶんいろんな企業が欲しいと思うのがこのタイプ。真面目で、SNSも使っているけれど、人に左右されないで、自分の価値観を持っている。ニュースもちゃんとチェックしながら自分で物事を考えるみたいな。
どのタイプがいいとか悪いとか、そういうことではなく、そういう価値観の傾向があった、ということです。
ちなみに、男子とか女子とかついていますが、どのクラスターも男女ともにいます。比較的男の子が多い場合には「○○男子」といった名称にしています。クラスターによってボリュームは違うのですが、一定量、ある程度いる人たちを7つにわけてとりあげています。
いまのZ世代の子たち全員がどこかにフィットするかはわからないですけど、しいて言えばどれかに分類される人が多いんじゃないかと思いますね。
(出典:ほぼ日刊イトイ新聞「Z世代って、どんな世代?(2)Z世代の特徴は「チル&ミー」)
原田曜平(はらだ・ようへい)
1977年東京都出身。芝浦工業大学教授。大学卒業後、博報堂入社。博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーとなる。2018年に退職し、マーケティングアナリストとして活動。2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」、2021年「Z世代」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。
主な著書に『寡欲都市TOKYO─若者の地方移住と新しい地方創生 』(角川新書)『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)『アフターコロナのニュービジネス大全』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。