近づくタイムリミット…でも息子の視力をあきらめたくない!評判の病院にセカンドオピニオンを求めてみると
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
視力矯正を始めたいけれど、視力検査ができない……!
こんにちは。漫画家の星きのこです。
現在9歳になるダウン症の男の子、きいちゃんを育児中です。
さて、以前のコラムで、セカンドオピニオン問題について書かせていただきました。
きいちゃんが2歳の頃、遠視矯正のために眼鏡をつくろうとしたけれど、きいちゃんは全く視力検査ができず、医師から「検査ができるようになってから眼鏡をつくりましょう(つまり検査ができなければ永遠に眼鏡はつくれない……)」とあきらめてと言うかのような宣告を受けました。
その病院は、地域で一番大きな子ども病院だったため、そこで匙を投げられたということは、ほかのどこの病院でも無理という可能性が高いということ……。
そして、視力矯正が望めるのは8歳まで……!!!(※)
このまま、このまま何もせずに受け入れるしかないの~~~!?と悩みました。
※視力の発達は6~8歳で完了します。この期間に目の病気や異常、けがなどによって「物をくっきりと見る」ことが妨げられると、視力の発達は十分に進まないため、3歳児健診での視覚検査で、弱視や屈折異常等を早期発見し、早期治療につなげる必要があると言われています。
しかしその後ふと、私が所属している親の会で、すごくいい眼科の病院があると噂されていた病院を思い出しました。
でも、その病院は隣の県で、家から遠い……。しかも紹介状も何もない……。その病院で診てもらったって同じ結果かもしれないし、そもそも診てもらうことなんてできない可能性も高い……とぐるぐるとネガティブな考えばかり頭に浮かびました。
でも、そうしている間に1日1日と時間は過ぎていきます。それは視力矯正の機会を1日1日失っているということ……。
わずかな可能性でもあれば、わが子にとって少しでもベストな選択をしていきたい……!!と、思うのが親心。
そこで、思い切ってその評判の病院に電話をしてみることにしました。
親の会で噂の遠方にあるいい病院……。思い切って電話してみたら?
すると、新規の患者は予約は取れないが、朝イチで行って並んだら診てもらえるとのこと。
もちろん私はきいちゃんを連れて、早朝、隣の県まで行き、まだ病院が開いてない時間から並びました。少しでも可能性があるなら、あきらめたくない……!
その病院は個人病院で決して大きな病院ではなく、待合室も小さく患者さんでギュウギュウな状態。あまりにも混んでいるので、診察で呼ばれる時間帯までは、病院外で時間を潰してきてくださいとのことでした(幸い、近くに公園があるので、そこできいちゃんと遊んで時間を潰しました)。
病院に戻り、ようやくきいちゃんの名前を呼ばれました。
診察室に行くと、慣れた感じの看護師さんがクマさんやクルマなど子どもが好きなカードで目の検査を始めてくれました。これなら子どもも反応してくれます。
全ての検査が子ども視点で工夫されたものであり、看護師さんの促しもとても上手で、きいちゃん、なんと検査をクリア!!
無事に眼鏡をつくることができました!
しかも先生が、その当時きいちゃんが通う保育園にお手紙まで書いてくださったのです。その内容は、「きいちゃんが眼鏡をかけるのを嫌がったり、放り投げたりするかもしれませんが、視力を改善するために眼鏡は必須なので、保育園のほうでも大変だと思いますが、頑張って眼鏡をつけさせてあげてください」というものでした。
先生!!!素晴らしすぎますって……!!!
そりゃあ、県外までいい噂が広まりますわ……!!!!!
視力検査をクリア!保育園の先生へお手紙まで書いてくれたすばらしすぎる病院!通ってい る人たちは?
待合室に戻ると、最初は自分たちのことで必死で気がつかなかったのですが、きいちゃん以外の子どもたちも何かしらの障害があるようでした。車椅子のお子さんもいました。
あとから分かったのですが、全国各地からこの病院の先生に診ていただきたくて来る患者さんが後が絶えないそうです。
隣の県くらいで遠いと思っていた私がバカだった……。
そして悩んでいる親子は私たちだけではなく、ここにいる患者さんは皆、ほかの病院では診てもらえなかった、もしくは診ることすら困難な患者さんなのだと思いました……。
気になったら遠慮せず、躊躇せず、セカンドオピニオン!
今はセカンドオピニオンを推奨している病院も多いですし、その辺を躊躇する必要は全くないと個人的には思っています。
とくに私の周りの病気や障害がある子どもの保護者は、積極的に県をまたぎ、色んな病院で診てもらっていますし、結果、良くなった、病気の原因が分かったという話もよく聞きます。
親にとったら、可愛いわが子のためには藁にもすがる気持ちですよね。
治してもらえるなら、どんなとこにも連れていってあげたいと思うのが親心だと思うのです。
ちなみに私自身の話ですが、咳が止まらず、咳喘息かと思い近所の呼吸器科に行ったら、問診のみでそんなの咳喘息なわけがないと医師に言われたのですが、その後1年経過してもよくならなかったので3駅先の評判のいい呼吸器科に行ったところ、徹底的に検査をしていただいた結果、咳喘息を通り越して、喘息(こちらのほうが咳喘息よりも重い)になってしまったのを発見してもらったのでした……。
病院の設備や医師もその病院によって違いますし、やはりセカンドオピニオンは必要だと思うのです。
可愛い子どものためならなおさら。
私たち親ができることであれば、なんでもしてあげたいですね。
執筆/星きのこ
(監修:鈴木先生より)
私のクリニックでは約8%の患者さんが県外から通われています。神経発達症ともなると、きちんと診断や治療のできる病院は限られてしまいます。まして大人の神経発達症になればさらに診察できる精神科はほとんどないのが現状です。皆さん、ネットで調べて予約してきます。ダウン症であれば、本来経過を見ているこども病院の眼科がダウン症のお子さんにも慣れていて専門のはずなので、検査もできるはずなのですが……。しかし、それでも検査が困難なお子さんを受け入れてくれる病院があるだけでも親としては心強い味方になりえますね。私のクリニックでも、大学病院や神経発達症専門のクリニックから紹介されるケースも多く、可能な限り受け入れるようにしています。お子さんと相性が合えば検査や診察は可能なはずです。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。