イタリア・トリノの美しい町で生まれた、思春期から大人になるもっとも瑞々しい十代の女の子の青春ドラマ『美しい夏』
『美しい夏』の原作は、20世紀のイタリア文学の巨匠、作家であり詩人のチェーザレ・パヴェーゼ(1908~1950)が1940年に執筆し1949年に刊行された同名小説である。散文小説に対して贈られるイタリア文学界の最高の賞である〈ストレーガ賞〉を刊行直後に受賞している。
本作の美しい舞台となった、イタリア第4の都市トリノは、長靴型の国土のちょうど膝あたりといえる位置にある。すぐ西側にはアルプス山脈が控えた北緯45度。2006年、冬季〈トリノ・オリンピック〉が開催された都市であり札幌市の北緯43度と、ほぼ同じ緯度にある。羨ましいほどの豊かな森林が迫り、街角をリスが行き交うのどかな都市の1938年、第二次世界大戦の足音が迫っていた。しかし聴こえてくるムッソリーニの演説すらまだ似合わない美しい都会に出てきた兄妹、兄のセヴェリーノは大学を休学し学費稼ぎが言い訳の工員として働き、16歳の妹ジーニアは洋裁店で針仕事に精を出していた。
勤勉で器用なジーニアだったが、まだ16歳。兄に誘われてピクニックにお供すると彼の友人たちの中に、自由奔放なアメ―リアがいた。彼女はジーニアより3つ年上で画家のモデルをして身を立てていたが、ジーニアはその美しさに惹かれ憧れながら、画家のグィードに身体を許してしまう…。思春期の揺れ動く少女の切ない感情…、自立した女性への憧れと、その感情に戸惑う気持ちが交錯する青春という時代の揺らぎと戸惑いを経験しながらジーニアは、大人の階段を登り始める――
監督・脚本のラウラ・ルケッティ(LAURA LUCHETTI)は、1969年イタリア・ローマ生まれ。1997年、短編映画『In Great Shape(英題)』を初監督。2004、第76回アカデミー賞で高い評価を得た映画『コールド マウンテン』(03/アンソニー・ミンゲラ監督)についてのドキュメンタリー『メイキング・オブ「コールド マウンテン」』を共同監督・製作。またアニメーションが数々の国際映画祭で注目されるなど、現在イタリア映画界で注目されている女流映画監督。そのラウラ・ルケッティの『美しい夏』のポイントをインタビューから拾ってみる。
――原作者のバヴェーゼの作品のコンセプトに、「自然が私たちを救う」があり、対して「町/都会は害を与えるもの」と考える。そこで、一人を「自然」もう一人を「町/都市」を代表する人物として描こうと。ジーニア(イーレ・ヴィアネッロ)は田舎から出てきた女の子。対してアメーリアは町に潜む危険をはらんでいる。演じたディーヴァ・カッセルはまさに都会っ子。
――16、17歳というのは、異性との経験がどういうものか、人を好きになるとはどういうことか分かっていません。でもジーニアは、あの時代の大きな社会的プレッシャーの中で自分が本当に愛する人は誰なのか、闘って見つけていくのです。若い女の子が自分の変化に戸惑いつつ、誰かに愛されたい思いを抱きながら、人生を模索していく。その旅路を軸にしたわけです。青春って、まさに周囲や大人の世界と闘う時代。それを描きたかったのです。
『美しい夏』
2025年8月1日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
©2023 Kino Produzioni, 9.99 Films
©foto di Matteo Vieille】
配給:ミモザフィルムズ
キャッチコピー:あなたといる、私が好き