プロデューサー陣と振り返る『シンカリオン』プロジェクトの“進化”の歴史──鈴木寿広さん(ジェイアール東日本企画)×横山拓也さん(タカラトミー)×根岸智也さん(小学館集英社プロダクション)1万字インタビュー【シリーズ10周年記念】
2015年3月16日にプロジェクトが発表された『新幹線変形ロボ シンカリオン(以下、シンカリオン)』。子どもから大人まで愛されるプロジェクトとなった本作は、プラレールなどの玩具から始まり、音楽やTVアニメなど幅広い展開を見せています。
2025年には10周年を迎えたことを記念して「シンカリオン10周年プロジェクト」がスタートし、新たな玩具展開やイベントなど様々な施策で盛り上がっています。
そんな10周年を記念して、『シンカリオン』プロジェクトの立ち上げから携わっているジェイアール東日本企画 鈴木寿広さん、タカラトミー 横山拓也さん、小学館集英社プロダクション 根岸智也さんによるスペシャル鼎談が実現
10年前から遡って『シンカリオン』プロジェクトが“進化”していく過程を伺いました。
▲左から小学館集英社プロダクション 根岸智也さん、ジェイアール東日本企画 鈴木寿広さん、タカラトミー 横山拓也さん
【写真】『シンカリオン』の“進化”の歴史に迫る! プロデューサーSP鼎談
出発‼ 『シンカリオン』プロジェクト
──10周年を迎えた節目ということで、今回のインタビューでは『シンカリオン』のプロジェクトがどのように“進化”してきたのかを伺えたらと思います。以前に別のインタビューで「新幹線がロボットに変形する」というプロジェクト自体が、当時は前例がほぼ無かったと話されていました。こういった企画の実現が難しかった背景を教えていただけますか?
ジェイアール東日本企画 鈴木寿広さん(以下、鈴木):昔は「新幹線はそのままの姿で商品化してほしい」という時代でしたので、新幹線の車両を変形させてロボットにするといったことはあまり認められていなかったんです。ですから『シンカリオン』の企画は、おそらく新幹線をアレンジすることが初めて許諾された企画になっていると思います。
──過去には『超特急ヒカリアン』のような作品もありましたが、それは「新幹線の擬人化」みたいな方向であれば良いという基準だったのでしょうか?
タカラトミー 横山拓也さん(以下、横山):昔は「鉄道は公共のもの」という認識が強くて、現在のように正式許諾を取って作品を作るという時代ではなかったんですね。そういう意味で『シンカリオン』は初めての関係するJR各社さん公認の企画なわけです。
──テレ東系列で放送されていた『のりスタ』という番組内で「新幹線が走る映像を流すコーナー」が子どもたちに好評だったことから、『シンカリオン』プロジェクト以前には「Project E5」という企画が立ち上がっています。子ども向け番組が起点でありながら、デザインとしては実写映画版『トランスフォーマー』を思わせるような大人向けのものになっています。このようなデザインに至った経緯を教えてください。
▲東京おもちゃショー2014で発表された「Project E5」
小学館集英社プロダクション 根岸智也さん(以下、根岸):実はアニメのシンカリオンの変形は嘘をついている部分があって、デフォルメされたプラレールでは変形できていても、実際の車両の体積だけではあの機体の形状にならないんです。
この「Project E5」の「E5 はやぶさ」は当時のデザイナーが、できるだけ「本来の車両を活かして変形させてみよう」という、リアリティを追求する思考をもって設計している様に感じますね。
──パーツごとに分解して組みなおすと「E5系はやぶさ」の車両になるんですか⁉
根岸:勿論、完全に車両そのままとはいきませんが、リアルなデザインを目指し、車両のパーツを細かに切り分けてデザイン検討しているのを、見た記憶があります。
横山:あと、この頃は特にターゲットを決めていなかったのもあるよね。
鈴木:特にターゲットを決めずにデザイン重視で進めていたプロジェクトだったので、結果としてあのデザインになったんです。
──余談になりますが、このデザインのインパクトが強かったのか、一時期「マクロスシリーズの河森正治監督が『シンカリオン』に関わっている」という噂を聞いた記憶があります。別の仕事で河森監督にお会いする機会があったのですが、監督ご自身も何度か尋ねられたことがあるとのことでした。
鈴木:たしかに最初の頃に噂がありましたね(笑)。ただ、この「Project E5」を発表した時に、デザイナーは誰なのかとTwitter(現X)でかなり話題になっていた思い出があります。
──この「Project E5」が「東京おもちゃショー2014」で発表されて、ここからタカラトミーさんも入って今に至る『シンカリオン』のプロジェクトがスタートするんですね。
横山:いや、実は「Project E5」より前から三社で動いていたんです。
鈴木:「東京おもちゃショー2014」の時には既に三社で動いていましたよね。
横山:2013年の秋頃にジェイアール東日本企画さんからタカラトミーに「こんな企画はどうですか?」と「Project E5」のPVを見せていただいたんです。
「新幹線」と「変形ロボット」という組み合わせは非常に強いテーマですし、タカラトミーが『トランスフォーマー』シリーズなどで培ってきた変形技術と「プラレール」というブランドが組み合わせれば、必ず良いものができるはずだと思いましたね。
そこで、ジェイアール東日本企画さん、小学館集英社プロダクションさん、弊社(タカラトミー)の三社で子どもたちに向けて作ろうと動き出したのが『シンカリオン』プロジェクトでした。2013年末頃だったと思います。
──かなり昔から水面下では動いていたんですね。
横山:そもそも別々に企画が動いていたから「Project E5」と『シンカリオン』でデザインの方向性が全く異なっているんです。
決定‼ 『シンカリオン』という名前とデザイン
──『シンカリオン』プロジェクトが立ち上がりましたが、今でこそ「シンカリオン」と普通に呼んでいますが、どうやってタイトルが決まったか覚えていますか?
横山:最初は単純に「新幹線変形ロボ」としか呼んでいなかったと思います。
根岸:いよいよタイトルを決めなきゃいけないという時に、タカラトミーさんの会議室で持ち寄った案をホワイトボードにたくさん書き出しましたよね。それをみんなで検討したけど、一発で『シンカリオン』には決まらなかったかもしれないなぁ。
鈴木:色々な案が出ていたと思いますよ。結果的には「新幹線」や「進化する」という意味合いからの「シン」と、あとは『ヱヴァンゲリオン』じゃないですけど「●●リオン」みたいな音を組み合わせて。
──『シンカリオン』の「リオン」はそんなところから発想がきているんですね。
鈴木:ただ『シンカリオン』というタイトルだけだと何が変形するロボットか分かりにくいので「新幹線変形ロボ」という冠も付けましょう、と話し合った記憶があります。
──逆にボツになった案はどんなものがありましたか?
鈴木:案としては頭に「シンカ」が入っているものが、最初から多かったかもしれないです。
──「シンカリオン」のロボットデザインも新幹線からの変形がイメージしやすくなり、子どもたちから人気が出そうなデザインになりましたが、現在のデザインに決まるまでにどんなデザインパターンが検討されていましたか?
横山:当時、何種類かのデザインに絞って、タカラトミーの「プラレールショップ」などに来店されたお子さんたちにアンケート調査を行ったりしたんですよ。
根岸:あとは弊社が運営する幼児教室でも、子どもたちに「この中でどれが一番良いと思う?」と直接意見を聞いたりもしました。
横山:そうした調査の中で一番支持を集めたのが、現在のデザインに近いものだったんです。胸のところに新幹線の象徴的な顔があるデザインが子どもたちから支持されたので、その方向性でデザインを進めていきましたね。
また、プラレールでの玩具化が前提で、立体的に変形できないといけないので、まずタカラトミーが玩具のデザインを作成して、それをもとにCGデザインを制作していただきました。
▲初期の玩具デザイン
▲初期のCGデザイン
鈴木:今のデザインに至るまでに本当に色々なパターンがありましたよね。もっとミニキャラっぽいデザイン案もあったし。
決定‼ 新規IPの打ち出し方
──『シンカリオン』という新規IPを広げていくにあたって、三社間でどのような方針で進めていましたか?
鈴木:まずは三社それぞれができることを持ち寄って展開していく、という方針でした。タカラトミーさんは、玩具周りはもちろん、その流通先と調整して告知の場所を作ったり、小学館集英社プロダクションさんの番組を使ったり。ジェイアール東日本企画は交通媒体を活用した展開を行うといったものです。当時は潤沢な予算があったわけではありませんから。
横山:最初に決めた重要な方針の一つが「いきなりTVアニメ化はしない」ということでした。最初からアニメありきで立ち上げると、すごく大きな計画や予算が必要になってしまうので、計画通りにいかなかった時にIPを継続できない可能性が出てきてしまうんです。ただ、『シンカリオン』は新幹線というものすごく強いモチーフがあるので、アニメが無くても育てていける確信みたいなものはありましたね。
鈴木:2015年頃って、いきなり大きくプロジェクトを立ち上げて展開するアニメ企画が多かったんです。何とは言わないですけど(笑)。あえてそれらとは逆のアプローチをやろうとしました。
──プロジェクト発表後、子どもたちからはどんな反応がありましたか?
横山:玩具に関して言えば、非常に好調な売れ行きでした。あと、タカラトミーの公式YouTubeチャンネルは子どもたちが視聴者の中心なんですが、中でも『シンカリオン』の関連動画がすごく高い再生数だったので、ターゲット層にきちんと届いているという手応えを感じていました。
根岸:当時、弊社のYouTubeチャンネルにも動画をアップしていましたが、アクセスデータからターゲットとしている子どもたちの親層が見てくれているのはわかりましたね。
それと小学館グループ内での反応も大きくて「シンカリオンの情報を掲載したい」といった声が編集部から届き始めていました。広く子どもたちに受け入れられている企画でなければ、雑誌というページ数が限られた媒体の特性上なかなか載せたいとはならないと思うので、そういった声が届くことにも反響の大きさを感じていたように思います。
鈴木:イベントでの反応も大きかったですね。2015年3月の北陸新幹線開業に合わせて『新幹線変形ロボ シンカリオン』としてプロジェクトを発表したんです。当然、こちらも新幹線に関係した話題なので、新聞に取り上げられるじゃないですか。新聞によっては北陸新幹線のことよりも大きく扱われることもありました。
世の中の話題に乗っかる形で発表しましたが、逆にその話題を凌駕するような場面があったのも一種の反響かもしれません。
究明‼ なぜシンカリオンは土偶と戦ったのか?
──そういった内外の反響に繋がった施策の一つにプロモーション用アニメ(以下、PV)があるかと思います。このPVが制作された段階で『シンカリオン』の設定は、どの程度まで固まっていましたか?
鈴木:主要キャラクター3人や必殺技の設定とか、あのPVが作れる必要最低限くらいですね。
根岸:もうどこにあるかもわかりませんが「こんなストーリーです」という資料を書いた記憶があるので、逆に言えばそれくらいしか設定はなかったと思います。将来こんな話をやりたいから、裏側ではこういった設定があると思って、映像として齟齬がないように作ってください、というための資料でした。
実は先にPVで土偶モチーフの敵を作ってしまったので、後付けで「彼らは何者で、なぜあの姿なのか?」といった理由を考えないといけなかったんです。その設定の隙間を埋めようとしていた覚えがあるな。
──そもそも、どうして敵のモチーフを「土偶」にしたんですか?
横山:自分の記憶だと「新幹線は日本の技術の最高峰」という点から「日本」がキーワードにあって、そこから連想して「土偶」が敵になったと思います。でも、これは後付けの理由だったのかもしれないな……。
根岸:当時はデザイナーのセンスに頼る部分も多かったので、デザイナー側から提案されたものを了承した流れもあったと思いますね。厳密なストーリーや設定からプロジェクトが始まっていなかったので、それで後から理由付けや設定を繋ぎ合わせていく作業があったような気もします。
鈴木:敵の設定として「日本全国どこにでも出現する」という条件もあったと思いますよ。
根岸:当時は「数多く登場させられる」とか「汎用性の高さ」みたいなことが求められていたのかもしれません。武器で切るなら一体で良いけど、グランクロスを撃ったら複数の敵が連続して爆発してほしいから、そういう意味で複数存在していいようなタイプの敵が必要でした。
でも、なぜ土偶なのかは思い出せない(笑)。この謎を解明するには、当時のデザイン担当者や初期の映像作りに関わったメンバーとかも必要ですね。
横山:個人的には敵として「埴輪」は絶対に嫌だったんです。自分の中で埴輪は良い奴というイメージがあったので、それで土偶なら敵でも良いかなと。
根岸:モチーフになっている遮光器土偶って宇宙人を模していると言われることもあるので、敵キャラクターっぽいイメージが上手く合わさったのかもしれないですね。
熱唱‼ 「チェンジ!シンカリオン」をやまちゃんが歌った理由
──この時期に印象的なこととして、山寺宏一さんが歌う「チェンジ!シンカリオン」という楽曲は外せません。どういった経緯で山寺さんが歌うことになったのでしょうか?
根岸:僕がやまちゃん(山寺宏一さん)と仕事をしたいと思ったんです(笑)。
横山:ちょうど山寺さんが『おはスタ』を卒業したタイミングだっけ?
根岸:僕は昔『おはスタ』のスタッフだったんですけれど、当時の「おはスタ」のメインMCが山寺さんだったんです。その山寺さんが『おはスタ』を卒業される際にパーティーみたいなものを開いたんですが、山寺さんは少し会でやることもあったので控室をとっていたんです。そこで山寺さんと二人でお話ししている時に「そうだ!この件をお願いしよう」と思い立ったんです。
「いよいよ『おはスタ』を卒業されるので、これを機に何かご一緒できませんか?非常に力を入れている新しいIPなので、ぜひ山寺さんにお願いしたいです」とお話ししたところ快諾いただいたという流れです。
山寺さんは長年『おはスタ』という子ども番組の顔だったので、子どもたちにも非常によく知られた存在でした。ディズニー作品などの吹き替えでも活躍されていますが、歌もとても上手い方なので、正に今回の企画にうってつけだと考えたんです。
──この楽曲制作に際して、作曲家の井上裕治さんにはどんなオーダーを出しましたか?
根岸:実は井上さんの楽曲以外にも候補があって、それをプロジェクトの皆さんに聴いてもらったんです。その中から井上さんの楽曲が選ばれたという流れです。
──所謂コンペ形式だったんですね。
根岸:だから当初はワンコーラスしかなかったんです。でも、やっぱりツーコーラスあった方が良いという話が出て、急遽自分で歌詞の案を書き足すことになって。別作品のアフレコの合間にスタジオの個室に籠って、一番の歌詞を二番にコピペしながら「ここをこう変えれば良いんじゃないか」みたいにやっていましたね。
それくらいタイトなスケジュールだったから、山寺さんのレコーディング日だけが先に決まっていたのかもしれません。皆さんから「曲のイメージが全然違う」といった反応がきたらヤバいと焦りながらプレゼンをした記憶があります。
鈴木:スムーズにこの曲に決まったと思いましたけどね。
横山:すごい短期間で進めた記憶があるけど良い曲だったよね。
根岸:井上さんの曲が素晴らしかったから一発で決まったんだと思います。
──もうすぐYouTubeでの再生回数が2000万回にいきそうなくらい、ファンの間でも人気の楽曲になっています(※再生回数は2025年4月時点)。
根岸:ちなみに「シンカ シンカ シンカリオン」というバックコーラスが入っていますが、あそこはレコーディングに立ち会った3人くらいのプロジェクトメンバーでコーラスしているんです。
──アニメのアフレコでスタッフがガヤをやる話は聞いたことがありますが、コーラスで参加というのは珍しいですね。
根岸:コーラスに厚みが欲しくて、でも山寺さんとは違う声色の方が良いだろうということで、時間も限られていたので自分たちでコーラスをやって完成させた記憶があります。
始動‼ TVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』
──2017年10月7日の「第24回 鉄道フェスティバル」でファン待望のアニメ化が発表されました。アニメ化は当初からの目標の一つだったかと思いますが、TBSさんからアニメ化のお話をいただいた時はいかがでしたか?
鈴木:実は、TBSテレビさんからお話をいただく前から我々の中でもアニメ化しようみたいな動きになっていたんですよね。
根岸:「ストーリーがあるもの」を何らかの形でやろうという話でしたね。毎年の『シンカリオン』プロジェクトの展開を考える中で話が上がって、それで下山さん(下山 健人)にお声掛けしたんじゃないかな。
アニメ化を検討するとしたら、設定をより細かく詰めないといけないし、どのようなストーリーにするかも決めないといけないですから。後に下山さんにはアニメ第1期のシリーズ構成も担当していただきましたが、彼はアニメ化するから呼ばれたのではなく、このアニメ化プロジェクトの原案を作る中で呼ばれた方だったんです。
TBSテレビさんからお話をいただく前からこういった形で何らかのアニメはやろうとしていて、我々の中で原案開発を進めていたんです。
──先に原案開発が進行している中で、TBSテレビさんからのお話と合流する形で具体的にアニメ化プロジェクトが進行していったんですね。
鈴木:三社で原案開発を進めていた段階では「いつアニメ化しよう」といった具体的な時期を決めてはいなかったので、TBSテレビさんからお話をいただいて“いつ”が見えたんです。
横山:玩具のPVを世間に発表する少し前にTBSテレビの那須田さん(那須田 淳プロデューサー)に見せたら、すごく興味を持ってくれて。ちょうどタカラトミーがTBSテレビさんと組んで朝の時間帯の番組枠で何かを始めようとしていたタイミングだったんです。
それもあって那須田さんとは先の企画について定期的にディスカッションをしていたけれど、その日にディスカッションした企画よりも「実は今こういう企画を進めているんです」とお見せした例のPVを高く評価してくださって、そこからアニメ化の熱烈なラブコールをいただくようになった流れもありましたね。
──アニメ化が正式に決定した後、皆さんのアニメとの関わりはどのように変わりましたか?
横山:我々三社は「原案チーム」としてアニメ制作側と向き合うようになりました。
根岸:ただ、僕はアニメ化においては制作会社の立場でもあるんです。原案の立場と違って、アニメーション制作の立場として納期とクオリティを担保するために調整しなくてはいけない、という立場に変わっていきました。それもあって僕はお二人からの要望をブロックすることもあったと思います。
鈴木:あとはストーリーを作っていくにあたって、色々と新幹線に関する「やって良いこと」と「やってはいけないこと」の制約があるんです。例えば「駅などの施設を破壊してはいけない」「シンカリオンが街を破壊してはいけない」とか、そういったことを共通認識にしていく作業もありましたね。
横山:だからシンカリオンは某巨大ヒーローのように敵にやられて駅舎やビルを壊すとかは絶対に駄目なんです。
鈴木:最終回の方で都庁を破壊していましたけどね(笑)。
横山:鉄道・駅に関連するものは絶対に破壊してはいけないんです。だからトンネルとかも駄目なんだよね?
鈴木:トンネルも駄目ですね。鉄道に事故があってはいけないので、それをイメージ付けるような描写は止めてほしいというJRさん側の強い要望はもらっていました。
横山:でも「街を破壊してはいけない」という制約があったからこそ「捕縛フィールド」というアイディアが出てきたんだよね。
根岸:捕縛フィールドがないと街の破壊描写を描かないといけなくなってしまうから、アニメ内の描写の制限と、制作上の都合を融合するとあれだったんでしょうね。でも、あの捕縛フィールドを作り出す技術って劇中で一番すごいでしょ。宇宙からピカーッと光を放って敵を捕縛するなんて(笑)。
鈴木:あとは「シンカリオン同士で戦わせてはいけない」とか「機体に傷を付けてはいけない」など色々なNG事項がありました。
──そういったリアリティを追求する一方で、例えばシノブが忍者だったりするファンタジックな設定にも驚かされました。リアルな新幹線とファンタジックな設定を結びつけることに対しては、特に議論はありませんでしたか?
鈴木:新幹線は日本全国の様々なエリアを走っているので、その土地ごとの特色や文化といったものをキャラクター設定に反映していると捉えていましたね。
──個人的な感想になりますが、アズサの「YouTuber」という設定も時代に先駆けていた印象です。調べてみると、放送当時の「子どもがなりたい職業ランキング」でも、やっと10位に入ってきたくらいの状況でした。
横山:仕事柄、よく子どもの様子を見ていましたが、当時の実感としてはYouTuberという職業は大分広がっていた気はしますよ。
根岸:「かんあきチャンネル」とかあったから、現実でも子どもYouTuberはいたんじゃないですかね。
横山:プラレールで言えば「がっちゃんねる」というチャンネルもありましたね。がっちゃんがプラレールで遊ぶ動画はすごく再生されていました。子ども自身のスマートフォン保有率は低かったかもしれませんが、親のスマートフォンを使ってそういったYouTubeチャンネルを見ているケースは、当時からとても多かったと思いますね。
苦闘‼ アニメ延長の裏話
──TVアニメ『シンカリオン』を振り返る上で欠かせないのが「放送延長」です。かなり異例のことだったと思いますが、延長の話はどれくらいのタイミングで決まったのでしょうか?
横山:詳しい時期までは覚えていないけど、結構後半だった気がします。延長が決まってからがかなり大変でしたね。
根岸:TVアニメ『シンカリオン』で一番大変だったのが延長ですね、自分は。そもそも2Dアニメパートをお願いしていた亜細亜堂さんは別作品の制作が決まっていて、延長分の対応は難しいというお話があって、スタジオも変わっていますからね。
横山:延長の話が来るまでは、普通に物語を終わらせようとしていたから、最初の予定では「シンカリオン E5はやぶさ MkⅡ」も作っていなかったし。
鈴木:1年間放送する予定で始めて、3カ月延ばします、そこから更に3カ月延ばしますみたいな話でしたよね。
根岸:地獄(笑)。
──だからキトラルザス編の終わりが1年プラス3カ月くらいの話数にあたる第64話で、残り3カ月弱がキリンとの戦いという構成になっていたんですね。
根岸:最終話の予定は決まっていて、そこに行くまでにどう延伸していくかという作業だったかもしれません。
横山:「ブラックシンカリオン 紅(くれない)」を出したのもその辺だよね。あれも元々の計画には無かったので。
鈴木:1年間放送するアニメであれば玩具を売るタイミングでもないですし。
根岸:今考えると「ブラック」で「紅」って意味が分からないですよね(笑)。
横山:そもそも玩具は1年以上前からスケジュール立てて開発しているから、新たに作るというのはかなり厳しくて。まあ「ブラックシンカリオン 紅」は色違いだから早く作れたけど(笑)。
鈴木:逆に言えばそれしかできないということだったんでしょうね。
──そう考えると「ブラックシンカリオン ナンバーズ」や「ブラックシンカリオンオーガ」といったコンパチ的なシンカリオンも苦肉の策で生まれたものですか?
鈴木:当時は、新しいデザインを発注したり、設定を変更したりする余裕はほとんどありませんでしたね。
──勝手に「大人気で放送延長だ!やったー!」みたいな雰囲気を想像していましたが、関係者の皆さんはかなり大変だったんですね。
根岸:今のアニメーション制作って数年先の作品を作ることを計画しながら進めていくものですから、急に話数が増えるというのは大変ですよね。それで2Dアニメパートの制作スタジオも途中から変わることになって、リソースもスタッフも全て移行させる必要があったので、かなり大変なことでしたね。
※編集部注:TVアニメ『シンカリオン』のアニメーション制作協力は第1話から第52話までを亜細亜堂が担当し、第53話以降はSynergySPに変わっている。
鈴木:池添監督の都合もあったから、途中から板井監督(板井寛樹)に入っていただいていますし。
──延長に次ぐ延長が決まる大人気作品になりましたが、放送当時にファンの皆さんからの反響で特に印象に残っているものはありますか?
鈴木:倉敷ヤクモが登場した後に街なかで指をさされたり、イベントに足を運んだら「あっ!」と言われたりしたこともありましたね(笑)。あとはちょうどその頃、自分の子どもが正にシンカリオン世代だったので、周囲の反響はリアルに入ってきていました。
※編集部注:第50話から登場する倉敷ヤクモのモデルが鈴木さんというのはファンの間で有名な話。
横山:おもちゃ売り場もそうだけど、街中で子どもたちが『シンカリオン』の話をしていたり、服を着ている子を見かけたりとかしたね。
根岸:私のところには、「グッズをください」という声を本当によくいただきました(笑)。それだけ注目度が高かったんだと思います。
──そんな苦労があったアニメ第1期ですが、ちょうど良い機会ですので皆さんが特に好きな回を教えていただけますか?
根岸:第31話「発進!! シンカリオン 500 TYPE EVA」です。とにかくEVAが好きなので。ゲストキャラや、巨大怪物体の造形、前話の次回予告から、放送版だけのBGMなど、拘りに拘ったので思い出深いです。この話だけ、深夜でも放送してもらい、大人に作品を知っていただくきっかけにもなりました。
横山:ちょっとベタかもですが、作品テーマのひとつでもある『親子の絆』を象徴しているという点で、第1話のハヤトが「お父さんの役に立ちたい…!」というセリフが好きです。
似たような理由で「劇場版」でホクトが生まれたばかりのハヤトを抱いて「久しぶりだな、ハヤト……」というシーンはシナリオ段階でうるっときていました。
鈴木:第1期も第2期も第3期も、第1話ですね。第1話はやはり特別だと思うんです。制作側の意志表示をしている部分もあると思うので。特に第1期の初回は、マルチプルタイタンパーがいきなり出てくる時点で、鉄道に真摯に向き合うことを示していると思いますし、込めているものがあると思ってます。
あとは、やっぱり第31話「発進!!シンカリオン500 TYPE EVA」です。実現させたかったことを200%叶えられた話数といいますか、企画であったと思います。
次の10周年へ‼ シンカリオンと新たなる出発
──ファンとしては『シンカリオン』シリーズの次の10年も非常に楽しみにしています。みなさんは次の10年でどんなことをやってみたいですか?
鈴木:どちらかというと、この10年である程度やりたいことをやってきたと思うんです。「次にやりたいことは何だろう?」というのを探している段階です。
横山:海外にも行ってみたいですね。それこそフランスのTGVなどがシンカリオンになったら面白いと思いますし、どんどん世界感が広がっていくと良いなと思っています。
根岸:僕は会社の異動でプロジェクトを途中下車しているので、外から見ている部分も含めてになりますが、『シンカリオン』はとても良い形で進んできたプロジェクトだと思っています。このプロジェクトならではのスピード感や軽やかさが好きなので、そんな人たちが次に何を考えて、何を見せてくれるのかをいちファンとして楽しみにしています。
この10周年という節目の年にも、そういった動きがあるでしょうし。今後20年、30年と続いていく中で、また面白い展開が生まれた時に、新たな『シンカリオン』の山場みたいなものが見られるのではないかと思うと、ファンの皆さんと同じようにこの先の展開が楽しみです。
──個人的には『シンカリオン』と「戦国時代」の相性の良さを感じるので『戦国シンカリオン』みたいな作品を見てみたいと夢見ています。
根岸:外伝っぽい(笑)。
鈴木:確かに戦国武将ゆかりの地には新幹線が走っているところが多いですね。
横山:(二人に向かって)企画書を見たことないっけ?
鈴木:何のですか?
横山:戦国版『シンカリオン』の案。みんな背中に旗を付けて、武者みたいな姿のシンカリオンが戦うの。
一同:(笑)。
横山:いつか機会があったら企画書をお見せしますよ。
──それでは最後に『シンカリオン』シリーズを応援してくれているファンに向けてメッセージをお願いします。
鈴木:今年で10周年を迎えましたが、これは一つの区切りでしかないと思っています。この先の『シンカリオン』がどうなっていくのかは引き続きお楽しみにしていただきつつ、まずは10周年を記念した施策を行っていくので、ぜひ応援していただけると嬉しいです。
根岸:僕もファンの皆さんと一緒に『シンカリオン』が次に何を見せてくれるのかを楽しみにしています。僕の耳にも『シンカリオン』に関する情報は自然と届いてくるので、制作チームの皆さんが世間の注目を集めるような面白いことを常に考えているんだなと感じています。僕自身も今後の展開を楽しみにしていますし、ファンの皆様にも一緒に楽しみにしていていただけたらと思います。
横山:正に「新幹線は止まらないよ!」です(笑)。これからも『シンカリオン』は走り続けたいと思っていますので、皆様も一緒にご乗車いただけたら幸いです。
取材・記事:岩崎航太、編集:太田友基、写真:胃ノ上心臓
参考資料
アニメイトタイムズ編集部 独自制作の『シンカリオン』TVアニメ放送開始までの非公式年表