【キーボード奏者ADAM atインタビュー】メジャーデビュー10周年記念のベスト盤発表。ファンが選んだ26曲。「ずっとバンドマンでいたい」
磐田市出身で「浜松市やらまいか大使」を務めるキーボーディストのADAM at(アダムアット)が、メジャーデビュー10周年を記念したベスト盤「The Creation of ADAM」を発表した。ピアノ・インストの第一人者としての地位を固めた10年の軌跡を、新盤とともに振り返ってもらった。(聞き手=論説委員・橋爪充、写真=写真部・堀池和朗〈人物〉、久保田竜平〈CD〉)
ライブハウスの音圧を意識
-CD2枚組に代表曲26曲を収録し、Disc1はインスト曲、Disc2はゲストボーカルを迎えた曲で構成しています。選曲や曲順にどんな意図があったのですか。
ADAM at:ファン投票で選んだ曲を、ほぼ得票順に並べています。メジャーで10年やっていますが、ファンと歩んだ10年でもあった。その中で皆さんがどんな曲を好きだったかを聞いてみたかったんです。
-そうやって決めると、やっぱり(NHKのプロ野球放送テーマ曲の)「六三四」(2015年)がトップに来るんですね。
ADAM at:そうですね。この曲でADAM atを知ったという方も多いので。
-Disc1は全16曲中、8曲を録音し直していますね。どうしてですか。
ADAM at:この10年、音源を出し続けましたが、ライブもたくさんやりました。楽曲ってライブで演奏を続けると変化するものなんです。10年前と今を比べると、同じ曲なのに全く違うことをやっている。だから、今のライブ仕様で録音し直したかったんです。
-全体的に重心が低く、ファットなベースが印象的です。統一感を考えたのでしょうか。
ADAM at:マスタリングで低音を重くしました。ライブハウスの音圧を意識して、中心を少し低めに置いています。
コロナ禍を経て曲作りが変化した
-一番古い楽曲は2015年1月リリースの「Silent Hill」(2021年に再録音)で、最新は2024年末に 配信解禁の「シャイン☆センゲンfeat.きのホ。」です。10年の時が流れていますが、楽曲を作った当事者として俯瞰してみて、何か思うところはありますか。
ADAM at:初期の頃はライブでできない要素を曲に入れるべきではないという気持ちがありました。ただ、コロナ禍で意識が変わりましたね。ライブができない状況だったから、『音源は音源』と捉えるようになって、ライブと音源を分けて考えるようになりました。音源でしか残せない曲を作り、ライブの時はそれをどう表現するかを考える。2020年5月発売の「零」、2021年6月発売の「Daylight」あたりで曲作りがだいぶ変化しました。
-プリプロダクションの段階で作り込むようになったんでしょうか。
ADAM at:そうですね。以前はスタジオセッションの延長線上で曲を作っていましたが、こちらでほとんど完成形を作ってメンバーに渡す感じになりました。
-ベースの永田雄樹さん、ギターの橋本孝太さんはほぼ全曲加わっていますね。彼らに対する信頼がうかがえます。
ADAM at:橋本君は2015年、永田君は2017年のアルバムから参加してもらっています。コロナ禍の時は、こういう時こそ一緒に戦っていこうという思いでした。フレッシュなミュージシャンを使うのはたやすいけれど、10年歩んできたという意味ではファンも関係者もメンバーも同じなので。
-CD2枚を通して聴くと、ロック的なカタルシスがあります。メタルっぽい曲もありますね。「サイコブレイク」、メタルバンドSKINDREDのベンジー・ウェッブさんを迎えた「ケイヒデオトセ」などはかなり攻めた楽曲ですね。
ADAM at:本当はもっとメタルの曲を入れたかったんです。そもそも自分は「メタルっ子」でしたから。
-ギターを中心にしたぐしゃっとした音像にきれいな音のピアノを乗せるというアイデアは秀逸ですね。
ADAM at:自分がピアノ(奏者)なので、ピアノでできないことをやっているバンドがかっこいいと思うし、好きなんです。それで、ここにピアノを乗せてみようと。キーボードやシンセサイザーはよくあるかもしれないけれど、ピアノでメタルリフを弾くのは誰もやっていないと思うんですよね。
-とはいえ、ロック一辺倒でもありません。清涼感のある曲やグルーヴィーなソウルナンバーも入っています。特に「サタデーナイトフルット」 feat.コヤマシュウ from SOOBIE DO」は高揚感がありますね。こうした幅広い音楽性は、ご自分の中でどう整理しているんですか。
ADAM at:曲作りで一番大事なのはインプットだと思うんですよね。いろんな曲を聴いていろんなライブを見る。大切なのは(自分とは)違うジャンルのバンドのライブを見ること。対バンのライブを見ると、インプットされるものが非常に多いんです。SOOBIE DOも、ご一緒した時にファンキーな部分を吸収させてもらった。僕はバンドマンなので、対バンは全部見ようと思っています。音源を出していなくて、ライブ動画もそんなに上がっていないバンドのライブはそこでしか見られないし。自分たちの財産だと思っています。
音楽を通じて付き合いが広がった10年間
-Disc1の1曲目「六三四」のクレジットには「Voice」としてフラワーカンパニーズのグレートマエカワさん、YONA YONA WEEKENDERSの磯野くんら10人ほどの名前があります。お祭り的なニュアンスを感じました。
ADAM at:レコーディングした後に「せっかく野球の曲だし、プロ野球の好きなバンドマンに参加してもらったら楽しいんじゃないか」って思いついたんですよ。それで皆さんに連絡して。
-顔ぶれがバリエーション豊かですよね。
ADAM at:マエカワさんは中日ファン、HUSKING BEEの磯部正文さんは広島ファン、SCOOBIE DOのMOBYさんはロッテファン。そういえばあの人、あのチーム好きだったっけと思い出して、呼んでみようかと。来られない人はリモートで声を出してもらって。
-音楽を通じて人の付き合いを広げた10年間という意味が込められているような気がしますね。
ADAM at:本当にそうですね。いろんな方とライブでご一緒して。それっきりというわけではなくて、お互いのイベントに出たり呼んだり。そうしたことを繰り返してきました。
アイドルグループとの音源制作は初めて
-ボーカル入りのDisc2で特筆すべきは、英国の人気バンドFEEDERのグラント・ニコラスさんをフィーチャーした「 Happy Place」です。2022年のアルバム「OUTLAST」に収録されていますが、あらためて、どういういきさつで共演が実現したんですか。
ADAM at:(所属レーベルの)ビクターの担当さんがFEEDERも担当していたんです。それで「僕が作った曲、歌ってもらうことは可能でしょうか」と連絡を取っていただいたのが最初ですね。
-この曲はニコラスさんの作詞作曲とクレジットされています。
ADAM at:最初はこちらがイントロからエンディングまで作った曲をお渡ししたんです。そうしたら「イントロ、Aメロ、Bメロ、サビを分けて送ってほしい」と。結果的にそれを入れ替えて曲を再構成し、メロディーラインもそれに合わせて歌ってくださった。すっかり「洋楽」になりましたね。
-新曲「シャイン☆センゲン feat.きのホ。」では京都の女性5人組と共演しています。アイドルグループとのコラボレーションは初めてですよね。
ADAM at:対バンやイベントでご一緒したことはありますが、音源では初めてですね。
-京都が地盤の彼女たちとの楽曲制作が実現するまでの過程は。
ADAM at:もともとは静岡ご当地Vチューバーの葵わさびさんの曲として書かせてもらったものです。すでにミュージックビデオも公開されています。これを自分のベストアルバムに入れたいと思って、どうやったら世に広めることができるか考えました。それで、アイドル的なグループに歌ってもらうのがいいと。
-きのホ。に白羽の矢を立てたのはなぜですか。
ADAM at:彼女たち、すごくバンドマンっぽい活動をしているんです。共同生活していて、車1台で全国のライブハウスを巡っていて、音源もメタルな曲が多い。「シャイン☆センゲン」の音源に新しい息吹を吹き込めるのは、たくさんライブをやっている「きのホ。」だと判断しました。これもたくさんライブを見てきたからこそできたことだと思います。
スターになりたいわけじゃない
-2月23日にグランシップで行われる「静岡JAM」に出演します。どんなイベントになるでしょうか。
ADAM at:共演するTRI4THはロックンロールに近いジャズをやるイメージ。踊れるジャズバンドと言ってもいいでしょう。fox capture planは日本を代表するピアノインストバンドです。演奏そのものでお客さんの気持ちを高揚させる力があります。グランシップの「海」は大きなホールですが、僕らはいつもの演奏をするだけですね。気負うことなく、ライブハウスだと思って演奏するつもりです。
-デビュー11年目以降の活動について、どんな展望がありますか。
ADAM at:10年たちましたが新人気分が抜けていません。まあ、それを残したままずっとやっていきます。僕はタレントとか芸能人とかスターになりたいわけではなく、ずっとライブハウスでライブするバンドマンでいたい。11年目も12年目も、自分で車を運転して、会場に機材を搬入搬出して、ライブやって、グッズ売って、自分で運転して帰ることを続けます。これを誇りにしている。バンドマンとして当然のことだと思っています。
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■静岡JAM2025
出演者:ADAM at、TRI4TH、fox capture plan
会場:グランシップ大ホール・海
住所:静岡市駿河区東静岡2-3-1
日時:2月23日(日)午後4時開演
入場料:一般4000円 こども・学生1000円(28歳以下の学生)※未就学児入場不可
問い合わせ:グランシップチケットセンター(054-289-9000)