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東啓介×松下優也、時代に問いかける『キンキーブーツ』再演の意義「ありのままの個人を受け入れられたら」

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東啓介、松下優也 撮影=松本いづみ

経営不振に陥った老舗靴工場の跡取り息子チャーリーが、ドラァグクイーンのローラと出会い、偏見に立ち向かいながらドラァグクイーン向けのブーツ工場として再生を目指すブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』。イギリス映画を原作としたこのミュージカルは、2016年の日本初演以来、2019年、2022年と再演を重ね、多くの観客を魅了してきた。そして2025年、キャストを一新し5月18日(日)まで東京・東急シアターオーブにて上演中、その後5月26日(月)~6月8日(日)に大阪・オリックス劇場で上演される。今回は靴工場の跡取り息子チャーリー役の東啓介と、ドラァグクイーンのローラ役を演じる松下優也(いずれもWキャスト)にインタビューを3月に実施。本公演への意気込みはもちろん、プライベートや仕事への向き合い方、人生哲学までたっぷり語ってもらった。

東啓介、松下優也

── 上演に向けての意気込みと現在の心境を教えてください。

松下優也(以下、松下):世界中で愛され、観客と出演者が一体となって盛り上がる素晴らしい作品に出演できることに、ワクワクしています。ヒールを履いてのパフォーマンスは初めてなので、本番を余裕で乗り切れるような体力作りと、ローラという役にしっかり向き合っていきたいです。

東啓介(以下、東):世界中で愛され、丁寧に作り上げられた作品に出演できるなんて、本当に嬉しいです。実は2016年に韓国で『キンキーブーツ』を観劇したことがあって、その音楽やパフォーマンスに引き込まれ、衝撃を受けたのを今でも覚えています。この作品で受け継がれるもの、そして新しく生まれ変わるものを大切に届けたいですね。

── お稽古が始まりましたが、稽古場で楽しみにしていることや、気になる共演者はいますか?

松下:最近は年下の方と共演する機会が増え、今回はチャーリーとローラのWキャスト4人の中で最年長になります。新世代のソウルやパッションを稽古場で感じられるのが楽しみですし、何より歌が楽しみです。歌うことが大好きで、どうやってこの曲を構築していくか考えるのも好きな作業なんです。エンジェルスの皆さん、その中でも特にミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』で共演したシュート・チェンくんと工藤広夢くんが気になりますね。

東:最初の読み合わせで皆さんの生の声を聞けるのが楽しみです。この物語をみんなで作り上げていく第一歩なのでワクワクします。セットが組まれた中で稽古が進むのも楽しみなポイントですね。気になる共演者は、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』などで何度も共演したドン役の大山真志さん。サブストーリーの主役ともいえる存在なので、注目してほしいです。

東啓介

── それぞれの役と自身との共通点や、本作の魅力を教えてください。

東:任されたらすぐ行動してしまうところや、誰かと一緒に何かを作ることが好きな点はチャーリーと似ています。ただ、チャーリーは猪突猛進ゆえに他人を傷つけてしまう一面もあって……。その心の奥にある揺れ動く感情をしっかり表現したいです。

松下:大胆で華やか、でも繊細なところが本作の魅力であり、ローラもそんなキャラクターです。ローラはブーツに強いこだわりを持っていますが、僕も靴やファッションが大好きでこだわりがありますね。

── 松下さんは靴が好きとのことですが、お二人の靴にまつわる思い出やエピソードを教えてください。

東:高校生の時に履いていた上履きですね。クラスで「唯一無二の上履きを作ろう!」というのが流行っていて、めっちゃ落書きしてました。汚くなっても履き続けて、青春の思い出です。

松下:20代前半、スニーカーにハマっていた時期があって、その時に買ったレアな靴を手放したことを今でも後悔しています。それは『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』でマーティ・マクフライが履いていた「ナイキ マグ(NIKE MAG)」のオリジナルモデル。給料をつぎ込んで手に入れ、ライブで履いたこともありました。今では当時の何十倍もの値段になっていて……。なんてバカなことをしたんだと悔やんでいます。

松下優也

── 普段は華やかでエネルギッシュなお二人ですが、プライベートでの意外な一面を教えてください。

松下:毎朝飲むコーヒーは、できれば外で飲みたいタイプなので、毎朝行きつけのカフェに行っています。思考が動き出す朝の感覚が大好きで、空っぽの状態でカフェインを入れて仕事に向かいます。運転中など、一人の時間も好きですね。

東:意外と行動しないタイプなんです。家で完結できるなら家で済ませたい。オフの日は、夜のうちにスーパーで食材を買って食事を作り、稽古がある日は弁当にして持っていきます。あと、居心地のいい空間が好きで、ストリーマーの配信を流しっぱなしにして、ラジオ感覚で情報や流行をキャッチするのが好きです。

── 本作は倒産寸前の靴工場を立て直すストーリー。お二人が挫けそうになった時、どうやって立て直していますか?

東:今でも挫けそうになることはあります。道は開かれたり閉ざされたりの繰り返しなんだと感じます。これまでは先輩や古くからの友人、家族の存在に支えられてきました。あとは歌に救われています。落ち込んだ時は1人でカラオケに行って発散し「こんなふうに歌ってみよう」と考える時間が幸せです。

松下:昔は仕事の多忙さや色々なことが重なり、挫折しそうな時期もありましたが、今は乗り越えました。人に感動を与え、感情を揺さぶり、何かを届ける仕事をしている以上、生半可な気持ちでは務まらないし、中途半端な生き方はしたくない。弱音を吐きたくなる時も、いつか抜け出す日が来ると信じ、その経験が糧になると信じています。人生は全ての経験の積み重ねで、俯瞰すると悲劇が喜劇に変わることもある。瞬間を生きることが、ミュージカルに携わる人間にとって大切だと思います。

── 松下さんの仕事へのエネルギーの原動力は何ですか?

松下:原動力というより、芸事に生きることが自分のミッションだと信じています。コロナ禍で自分のやってきたことを見つめ直した時、それに気づきました。もちろんこの仕事が好きで始めたし、「俺にはこれしかない」と思っていましたが、本当の意味で腹に落ちた瞬間があったんです。だから苦しみも受け入れるし、闘う自分も好きです。

東啓介、松下優也

── 大阪公演期間中、楽しみにしていることや行きたい場所はありますか?

東:大阪の美味しいものを食べたいし、キャストみんなで行けたらいいですね。

松下:10代の頃、大阪のスクールでダンスや歌を習っていたので、心斎橋や梅田を目的もなく一人でぶらぶらするのが好きです。別の舞台の休演日にも、梅田や心斎橋、アメ村、堀江を巡って楽しみました。今回もふらっと一人で出かけるかも。

── 昨今はLGBTQ+への表現にますます配慮が求められていますが、今作を再演することにどんな意味があると思いますか?

松下:「多様性を受け入れる」とよく言われますが、それって裏を返せば受け入れていないから出てくる言葉なのかな、と違和感があります。僕も昔、無意識に区別していたり、知らずに誰かを傷つけたことがあるかもしれない。でも、目の前の人の「どうありたいか」という思いを受け入れ、見ることが大事だと思います。

東:過剰になるのはやめようと思います。もちろん尊重することは大事だし、知りたいという気持ちもあります。でも、過剰になったり決めつけたりすると、逆に変な方向に進んでしまう気がするんです。個人がありのままの姿で好きなことをし、それを互いに受け入れる。そしてその人を好きになっていく。それが本作のメッセージでもあると思います。皆さん是非いらしてくださいね。

東啓介、松下優也

取材・文=ごとうまき 撮影=松本いづみ

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