特別支援学級から通常学級に転籍したい、でも…小3自閉症娘のため母が優先したこと
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
2学期になり特別支援学級の先生が療養から復帰。面談で驚きの事実が
転校先の学校の特別支援学級で穏やかに過ごしていた2年生から一転、進級がきっかけで不安定になったクラスメイトXくんとの関わり方に悩んだり、 担任の先生が体調不良で休職したりと、波乱だらけだった3年生の1学期。夏休みが終わり、2学期はどうなるか不安もありましたが、ひとつ良いことがありました。長期休職していた担任の先生が復職されていたことです。これでクラスも落ち着くし、Xくんとのことも相談できて良い方向へいくのではないかと期待していました。
ちょうど9月に入ってすぐ、先生の休職で延期されていた面談がありました。私はそこで娘とXくんのこと、そして娘自身の特性を和らげるために投薬の必要はあるのかも含め、主治医へ相談したことなどを伝えました。主治医からは、発達検査の結果と娘の様子から、投薬治療ではなく「環境を変えるよう学校へお願いしてください」と言われていました。
ところが驚いたことに、1学期の出来事は担任の先生に全く引き継がれていませんでした。娘の遅刻早退の理由も担任の先生は初耳という様子で、学校には発達検査のコピーを提出していたにもかかわらず、それも担任の先生の手元にはありませんでした。
しかし、担任の先生は「Xくん本人も今怒らないように努力中なので見守ってほしい。しぇーちゃんが大きな声に耐えられなくなり教室にいられない場合は(娘には聴覚過敏があります)、他学級へ避難してもらうなどフォローをします」と言ってくれたので、ひとまず今後はしっかり対応してくれるだろうと信じて、深くは追及しませんでした。
私はここで夏休みに考えていた「来年度は娘を通常学級へ転籍させたい」旨を伝えました。3年生になってから通常学級で過ごす時間が増え、仲の良い子がたくさんつくれたこと、勉強に遅れがないこと、そして特別支援学級に在籍する限り、Xくんとは来年度も同じクラスになるので、いっそ離せるなら離れたほうがいいのではないかと思ったからです。担任の先生が同意してくれたので、来年度の転籍を見据え、今後はさらに通常学級で過ごす時間を増やしてみよう(Xくんが荒れがちな国語や算数の授業を通常学級で受けられるのもいいと思いました)、ということで面談は終わりました。
帰ってから娘にその話をすると「これから学校早退しないで通えるようになるね!」ととても喜んでいました。
おさまらなかった友だちトラブル。そして決定的な出来事が……
「やれることはやった。これからは良くなっていくはずだ」と思っていましたが……結果として、残念ながらXくんの授業での暴言や暴れることはおさまりませんでした。追い打ちをかけるように、娘と仲が良かったクラスメイトの子が学校へ来られなくなったことで、Xくんの娘への執着はますます強くなり、距離を置きたいのにおけなくなりました。Xくんと娘のトラブルは連日のように続きました。
そんな中で、娘が学校に行けなくなる決定的な出来事が起きました。ある日の授業中、先生から娘が指されて回答したことに対し、Xくんは「答えないで!」と激高し、暴れてしまいました。そのことを彼が娘に謝った時、先生から娘も謝るように促されたのです。先生からすれば“場を納める”という流れだったのだと思いますが、娘はなぜ自分が謝らないといけないのか理解できず、「何かあっても自分は我慢させられる……」と段々学校側への信頼がなくなっていきました。
また、Xくんの大声で教室にいられなくなった娘が廊下に避難したところ、他学級へ避難させてくれるという話でしたが、なぜかその場で説得され連れ戻されることもありました。その日はさらに、娘がXくんから「学校へ来るな」ということを言われたので、私は担任の先生にそういうことがあった旨を連絡帳に書きました。担任の先生からの返信は「彼は幼いところがあるのでしぇーさんにも“また言ってるな〜”と聞き流すようにお伝えください」でした。私は唖然としました。しかもこれを娘が先に読んでいました。娘は「担任の先生は自分の味方ではない。もう学校へは行きたくない!」と私に訴えてきました。
私は担任の先生に急いで電話しました。電話では担任の先生は謝ってくれましたが、今のままでは状況が改善に向かっていくとは思えませんでした。私は心の中で(もう無理かも……これ以上学校に行くと娘の心がダメになってしまうかもしれない…… )と感じました。
私は電話後、娘に「明日朝起きて、やっぱり学校には行きたくないと感じたなら、行かなくてもいいよ。」と伝えました。次の日娘は休むことを選択しました。通常学級へ転籍の準備期間でしたが、娘の心を守るために、迷わず学校に行かない選択をしたのでした。
あれから1年……。小学4年生になった娘は今、特別支援学級から通常学級へ転籍し、元気に学校へ通っています。当時は不安もありましたが、再び笑顔で学校に通えるようになった娘の姿を見て、あの時の選択は間違っていなかったと思えるようになりました。その後の娘の様子については、また改めて書かせていただきます。
執筆/マミヤ
(監修:室伏先生より)
しぇーちゃんが学校へ行きたくない気持ちになってしまった経緯を詳しく共有くださり、ありがとうございました。
このまま学校に行けなくなってしまったらどうしよう……、せっかく通常学級への転籍の準備も進んできたところなのに……、学習もついていけなくなってしまうのではないか……、きっとマミヤさんもたくさんの不安や葛藤を抱えていらっしゃったことと思います。共働きのご家庭であれば、日中どのようにケアをするのかという課題もあったかもしれません。そんな中で、まず娘さんの心を大切にすることを最優先に考えたご判断をされたことは、誰にでもできることではなく、とても素晴らしいことだと思います。お子さんが「学校に行きたくない」と感じたとき、必ずしもお休みすることが最善の選択とは限りません。しかし、担任の先生との信頼関係が揺らぎ、さらにクラスメイトとの間で毎日のようにトラブルが続いている状況では、しぇーちゃんの心にかかる負担は計り知れないものだったと思います。しぇーちゃんが毎日穏やかで、充実した日々を過ごせますよう、お祈りしております。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。