インポスター症候群とは?【前編】原因と症状、克服方法を徹底解説
インポスター症候群とは、周囲から良好な評価をされているにもかかわらず、自分自身を過小評価し、否定的に捉えてしまう心理状態のことです。自己肯定感が低い人が陥りやすいと言われるこの心理状態をどうやって克服すればよいのか。
この記事では、原因や症状、インポスター症候群になりやすい傾向かどうかのチェックリスト付きで解説します。
前編 インポスター症候群とは?原因は? インポスター症候群が日常生活に与える症状は? 後編 インポスター症候群を克服するには インポスター症候群の具体的事例
インポスター症候群とは?原因は?
ここでは、インポスター症候群の定義、特徴、背景、影響について解説します。
インポスター症候群の定義と特徴
「インポスター(imposter)」とは「詐欺師」を意味しており、「インポスター症候群」とは、名声や成功を手に入れ、周囲から良好な評価をされているにもかかわらず、自分自身を過小評価し、周囲をだまして「詐欺師」のような気分になる傾向や心理状態を表しています。「症候群」という言葉が使われていますが、正式な精神疾患ではなく、あくまでも一般的に経験する心理状態を指しています。
「インポスター症候群」は、1978年にポーリン・ローズ・クランス博士とスザンヌ・アイムス博士によって提唱された概念と言われています。2人は5年間かけて企業やアカデミックな世界で成功した約150名の女性を対象に「高い業績を達成した女性たちの中にあるインポスター症候群(The Imposter Phenomenon in High Achieving Women)」という論文を発表しました。その中で多くの女性たちが周囲の自分に対する評価が信じられず「周囲をだましているような気がする」という心情を吐露したといいます。(※1)
インポスター症候群になりやすい人の特徴として以下の点等が挙げられます。
完璧主義 過労やバーンアウトに陥りやすい 失敗を恐れてチャレンジを控える 自分のスキルや能力を評価できない 成功したのは外的要因のおかげだと思う プライベートでも仕事のことを考えてしまう
正式な疾患ではない以上、医師が「インポスター症候群」と診断するわけではありません。そのため、自分自身がインポスター症候群になりやすい傾向かどうかを分析し、必要に応じて専門家に相談すると良いでしょう。
分析ツールはいくつかありますが、ここでは前出のポーリン・ローズ・クランス博士が提唱したチェックリストを紹介します。(※2)
出典:
※1 The Imposter Phenomenon in High Achieving Women :Dynamics and Therapeutic Intervention | Pauline Rose Clane & Suzanne Imes
※2 Clance Impostor Phenomenon Scale
インポスター症候群につながる背景や複数の原因
インポスター症候群につながる主な原因として以下の3点が挙げられます。
・個人的要因
個人的要因の中には、性格特性や家庭環境などが含まれます。例えば、幼少期から兄弟や姉妹、同級生と比較されたり、周りの空気を読むように強要されたりすることが多く、自己肯定感が低い傾向にある人はインポスター症候群になりやすいと言われています。
・社会的要因
日本ではインポスター症候群は男性よりも女性がなりやすいと言われています。その背景には、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」「出産したら、仕事を辞めて子育てすべき」という性別役割分担を強いる昭和的な価値観が根強いことが要因の一つにあります。両親などからそういった価値観を幼い頃に押し付けられた女性は、大人になってからキャリアで成功したにも関わらず、自分がその立場にふさわしくないと感じることがあるようです。
・職場環境
業績を上げた経験があるにもかかわらず、職場で常に上司や周囲からの評価を気にして、チャレンジすることよりも目立たない存在でいることを重視してばかりいると、インポスター症候群を引き起こしやすくなります。自分がどのように評価されているか、具体的な誉め言葉や積極的なフィードバックが与えられないことも関係します。
もちろん、インポスター症候群につながりかねない要因を上記3点だけにまとめることはできませんし、ほとんどの場合、複数の要因が絡み合って、複合的に作用していると思われます。いずれにしても、自分にインポスター症候群の傾向があることに気付いたら、その要因を理解することが克服への第一歩です。
インポスター症候群が日常生活に与える症状は?
インポスター症候群は個人の日常生活にどのような形で現れるのでしょうか。ここでは3つの症状について解説します。
心理的症状
自己疑念:自分の能力や成功を疑う傾向 成功の否定:自分の成功を運や外的要因に帰属させる傾向 失敗への過度の恐れ:小さなミスを極端に恐れる様子 完璧主義:些細なことにこだわり過ぎる行動 自己評価の低さ:自分の能力を過小評価する傾向
こうした心理的症状が続くと職場などにおける人間関係において同調することばかりを考え、自己の成長が阻害されることになりかねません。また、慢性的なストレスや不安障害、抑うつ症状につながる可能性もあります。
行動的症状
過剰準備:必要以上に準備や確認を行う傾向 先延ばし:重要なタスクを後回しにする傾向 機会の回避:新しい挑戦や昇進の機会を避ける傾向 承認探し:常に他者からの確認や承認を求める行動 自己犠牲:自分よりも相手のことばかり優先する行動
こうした行動的症状が続くと、小さな失敗や他人からの承認や確認が得られないと自分の価値を否定したり、成果や実力があってもそれを正しく評価できなくなったりします。また、他の人からお願いされたり、任されたりすると、完璧にこなさなければならないと感じて、気付かないうちに、ストレスをため込んでしまうこともあります。
身体的症状
慢性的な疲労感 睡眠障害(不眠や過眠) 頭痛や筋肉の緊張 消化器系の問題(胃痛、食欲不振など) その他のストレス関連の身体症状
こうした身体症状が続くと、日常生活の家事や職場での業務が負担になり、徐々にきちんとやるべきことを果たせなくなる可能性があります。それがさらに自信を失わせるきっかけになり、悪循環に陥ってしまいます。
出典:
※3 藤江 里衣子|インポスター現象研究の概観 『名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要. 心理発達科学 vol.56』pp.29-38 2009
執筆:河合 良成