シリコンバレーのテック企業幹部が主な顧客、資産運用を「現代版」にアップデートするCompound
デジタル特化のファミリーオフィスとも言えるCompound(本社:米国カリフォルニア州)は、高額資産を包括的に管理するオールインワンの資産管理プラットフォームを提供している。主な顧客はシリコンバレーのテック企業幹部らで、上場前の自社株を大量保有しているといった、現代ならではの報酬体系にも対応したカスタマイズされた資産運用サービスが特徴だ。共同創業者でCEOのChristian Haigh氏に創業の経緯や会社の強み、将来展望を聞いた。
<font size=5>目次
・運用資産額20億ドル超を2年で達成できた理由
・既存の資産運用会社と異なる最大の強み
・目指すのは「次世代の金融機関のためのOS」
運用資産額20億ドル超を2年で達成できた理由
―これまでのキャリアと創業の理由を教えてください。
私はイギリスのオックスフォードで育ちました。子供の頃は音楽をたくさん演奏しており、オックスフォードの大聖堂の聖歌隊で週に7回歌っていました。オルガン、ピアノ、クラリネットも多く演奏しました。
その後、大学進学のためにアメリカに来て、ハーバード大学に入学しましたが、数年後に中退して最初のビジネスであるLegalistを始めました。Legalistは、訴訟ファイナンス、破産ファイナンス、政府債権に投資する資産運用会社です。
私は2016年にこの会社を立ち上げ、シリコンバレーのアクセラレーターであるY Combinatorを経て投資資金を調達しました。現在は3つの戦略で約10億ドルの運用資産があり、成長を続けています。数年前、私はその事業の日々の運営から少し離れました。
その後、投資家にインタビューを始め、資産運用分野の技術が非常に遅れていることが分かりました。特定の問題を解決するさまざまなソリューションがありますが、うまく統合されていません。その結果、アドバイザーにとっても顧客にとっても悪い体験となっています。そこで、アドバイザーが自分の業務を管理するためのより良い技術プラットフォームが必要だと考えました。
一方で、約86兆ドルがベビーブーマー世代から次の世代に移行しようとしています。次の世代は、財務アドバイスに付随する優れた技術を求めています。そこで私たちは、アドバイザーが自分の業務を管理し、アドバイザーと顧客の両方にとってより良い経験を提供するための、オールインワンのプラットフォームを構築するチャンスがあると気づきました。そこで2022年にCompoundを設立し、アドバイザーの募集を始め、彼らを中心に技術を構築しました。現在、運用資産は約22億ドルで成長を続けています。これまでのところかなりの成功を収めています。
Christian HaighCompoundCo-Founder and CEO英国オックスフォードで育ち、音楽教育を受ける。ハーバード大学に進学するも中退し、2016年に訴訟ファイナンスなどを手がけるLegalistを創業。Y Combinatorの支援を受けて成長させ、約10億ドルの運用資産を達成。2022年にCompoundを設立し、CEOに就任。
―現在の製品と収益モデルについて教えていただけますか?
Compoundは、デジタル特化のファミリーオフィス(富裕層を対象に資産管理や運用サービスを提供する組織)として、主に純資産200万ドル以上の富裕層向けにサービスを提供しています。私たちのサービスは、財務計画や投資管理から始まり、流動資産とオルタナティブ投資の両方をカバーしています。さらに、税務アドバイスや第三者を通じた税務申告サポートも行っています。また、多くの顧客に対してオーダーメイド型のサービスも提供していて、例えば、コンセントレイティッド・ストック・ポジション(CSP)を前提とした投資ポートフォリオの構築、株式投資のプランニング、CSPに対する融資などです。顧客の中には、かなりピンポイントな要望をお持ちの方もいらっしゃいますが、そうした問題を解決する方法も提供しています。
顧客はさまざまな財務上の問題や課題を抱えて私たちのもとを訪れますが、それらを解決することが私たちの使命です。これらのサービスは、他社から採用した経験豊富なアドバイザーを通じて提供されています。加えて、私たちは優れたデジタル体験も重視しており、顧客は専用のダッシュボードを通じて、すべての純資産を集約された1カ所で管理することができます。
image: Compound
既存の資産運用会社と異なる最大の強み
―どのような種類の技術を採用しているのでしょうか。
私たちのソフトウェアの特徴は、業界内のさまざまな第三者サービスを活用し、それらから収集したデータを1つのプラットフォームに統合していることです。独自のCRMや報告書、投資管理ソフトウェアを一から構築するのではなく、既存の第三者サービスプロバイダーにデータを送信し、それを集約する方式を採用しています。
また、最新技術も積極的に活用しており、特に生成AIを導入することで顧客体験の向上を図っています。具体的には、アドバイザーが顧客に送るメールの作成を支援したり、ミーティングの要約とアクションアイテムの作成を自動化し、それをタスク管理システムに反映させたりしています。基本的には標準的なソフトウェア製品に見られる機能が多いですが、適切な場面では生成AIの要素を取り入れ、サービスの質を高めています。
私たちの最大の強みは、従来の資産運用会社とは異なり、クライアントの資産全体を包括的に把握し、「真の意味でのバランスシート」を作成できることです。顧客の資産は多岐にわたります。ETF(上場投資信託)や個別株といった流動証券、ニューヨーク証券取引所での投資、プライベート投資、スタートアップへの出資、プライベートエクイティ投資、不動産、さらには会社の従業員としての株式報酬など実に多様です。これらすべての異なる資産を1カ所に集約し、顧客の純資産全体を一目で把握できるようにすることです。
クライアントは簡単なサインアップ後、ウェブ上ですべての資産を一元管理できます。この仕組みにより、アドバイザーが顧客と初めて対話をする際も、即座に顧客の資産構成を把握し、的確なアドバイスを提供することができます。つまり、初回の相談からすぐに価値を提供できるのです。
―顧客の成功事例を教えてください。
私たちの顧客の多くは、シリコンバレーのテック企業で幹部職に就いている方々です。彼らの報酬体系は特徴的で、年間給与に加えて、所属企業の株式を大量に保有しているケースが多いです。これらの従業員にとって、会社のIPOは重要な転機となります。なぜなら、それまで非流動的だった資産が一気に流動化するからです。
この機会を最大限に活かすには、事前の綿密な計画が不可欠です。税務や投資の最適化を適切に行うことで、IPOによる利益を最大化し、同時にリスクを軽減することができます。そのため、多くの顧客が会社のIPOや買収の時期に合わせて私たちのサービスを求めてきます。さらに、IPO後に得られた資産をどのように管理し、成長させていくかという長期的な戦略も提供します。
image: Compound
―この分野で競合はいますか。また差別化要因についても教えてください。
確かに、私たちと同様にデジタルネイティブなファミリーオフィス形式のビジネスを目指している企業はいくつかあります。Compoundの特徴は、主に高額純資産層にフォーカスしていることです。私たちのサービスは全て、より洗練された複雑なニーズを持つ高額純資産層のクライアント向けに設計されています。一方で、他者はより広い層を対象としています。とはいえ、私たちも含めたこれらの企業は、次世代の資産管理サービスの構築という共通のビジョンを持っています。この点では、業界全体が新しい方向に向かって動いていると言えます。
―御社の成長性を示す指標をお聞かせいただけますか。
私たちは2022年創業ですが、かなり速いペースで22億ドルの運用資産額を達成しました。2022年から2024年の間に、私たちの資産は224%成長しています。そして、顧客1人当たりの資産成長は110%でした。2023年時点での顧客数は2165人に達しており、資産運用業界としてはかなり早い段階での達成だったと思います。2024年のファイナンシャル・アドバイザー誌のRIA Survey & Rankingでは、運用資産5億ドル以上のトップ50社の中で2番目に成長の速い企業として評価されました。
―顧客はどのようにして御社のサービスを見つけ、利用するのですか?
私たちは既存の顧客基盤を持つアドバイザーを採用しています。私たちがアドバイザーを採用すると、その顧客も私たちの顧客になります。これが1つの方法です。さらに、業界全体のアドバイザーにアプローチし、私たちのツールが何をできるかを紹介しています。多くのアドバイザーにとって、これは非常に魅力的であり、そのため他の企業からアドバイザーを採用することに非常に成功しています。
オンラインのデジタルプラットフォームも提供しており、インターネット上の誰でも顧客としてサインアップし、私たちのプラットフォームを無料で使用できます。彼らは友人からの口コミや私たちのウェブサイトやダッシュボードを通じて知ります。そして私たちは、それらのユーザーに「資産運用のアドバイスも受けたいですか?」と提案するのです。
image: Compound
目指すのは「次世代の金融機関のためのOS」
―次のステップについてはいかがですか。今後12〜24カ月で達成を計画しているマイルストーンはありますか?
私たちの主な取り組みは、資産運用事業の継続的な成長とアドバイザリーチームの拡充、そして社内の専門知識の向上です。これまでの成長を維持しつつ、ビジネスを段階的に発展させる計画を立てています。第1段階では社内のアドバイザリーチーム育成に注力し、現在もその拡大を続けています。
次の第2フェーズでは、当社が開発したプラットフォームを他企業にも提供することを目指しています。具体的には、資産運用業界やその関連分野の企業・機関に向けて、私たちの技術製品を展開することを検討しています。今後1〜2年のうちに、この第2フェーズの実現に向けて取り組んでいく予定です。
この計画を進めるなかで、業界での信頼構築が大きな課題となっています。私たちの技術は業界の現状と比べてかなり先進的ですが、多くの既存のソフトウェアプラットフォームが時代遅れとなっている中で、アドバイザーからの信頼を得ていく必要があります。当社が長期的に存続し、将来にわたって革新的なサービスを提供し続けることへの確信を持ってもらうことが重要です。この業界において最も重要なのは信頼だからです。
―日本企業とのコラボレーションについてはどうお考えですか。
現時点では日本企業との協業は行っていませんが、その可能性には大いに関心があります。アメリカ国内では多くのパートナーと協力関係を築いており、特にテクノロジー分野のパートナーシップを重視しています。常に革新的なテクノロジーパートナーを探しており、金融サービスを提供する企業とも幅広く協力しています。
海外展開についてはまだ小規模ですが、今後、機会があれば積極的に検討したいと考えています。国際的なパートナーシップや展開は、私たちのビジネスにとって非常に有益だと信じています。新しい市場や技術との出会いは、私たちのサービスをさらに向上させる可能性を秘めていると考えています。
―長期ビジョンと、将来のパートナーへのメッセージをお願いします。
金融サービス分野は巨大な市場で、業界全体で何兆ドルもの資産が運用されています。これまでにいくつかの大きな成功事例がありました。特にFidelity InvestmentsやCharles Schwab Corporationなどの金融機関は、資産管理の分野で素晴らしい実績を残しています。
私は、次世代の偉大な金融機関は、業務管理のためのアドバイスを提供するテクノロジープラットフォームになると確信しています。そのため、私たちが最終的に目指しているのは、次世代の金融機関のための包括的なオペレーティングシステムの構築です。このシステムを通じて、アドバイザーは業務を効率的に管理し、クライアントとスムーズにコミュニケーションを取り、卓越したクライアント体験を提供することができるでしょう。
私たちは常に対話にオープンです。私たちのこれまでの成功は、パートナーとクライアントの信頼の結果です。もし私たちについてもっと知りたい、連絡を取りたいと思われたら、LinkedInで私とつながってください。また、弊社サイトにアクセスして、ダッシュボードやネットワーク、純資産トラッカーを試すこともできます。
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