代田でダイダラボッチ伝説を調査したら、謎のチンドン屋に出会った件。「代田ダイダラボッチ音頭」ここにあり!
「世田谷代田は、ダイダラボッチがアツいらしい」。そんなうわさを信じて降り立つも、熱も気配も感じない。しかし、迷走の末にたどり着くは、愉快でアツいチンドン屋さんだった!
「代田ダイダラボッチ音頭」って知ってる?
ダイダラボッチには「近江の土を盛って富士山を作った」とか「堀った跡地が琵琶湖になった」とか、地形にまつわる逸話が多い。「代田」の地名も窪地(くぼち)が足跡に見立てられたことが由来という説があり、世田谷代田駅前ダイダラボッチ広場のタイルには巨人の足跡が。
「さぞかし界隈は盛り上がっているんだろう」と思いきや、甘かった。グッズやご当地グルメは皆無。俺は今、途方に暮れている。「何もねえ」。担当編集のAに電話で伝えると「マジすか」とため息が返ってきた。「頑張って、どてさんならできる(ガチャ)」。あっ、こんにゃろう。切りやがった。
腹が立つやら腹が減るやらで、友人が「BONUS TRACK」で間借りしている定食屋『めしの』へ。「ダイダラボッチが見つからない」と、頭を抱えていると、隣で昼食をとっていた『omusubi不動産』のお姉さんから「サンカツさんなら、分かるかも」と、助言が。「サンカツさん」とは『ヤマザキショップ 代田サンカツ店』の名物店主だ。生粋の地元っ子で、界隈に精通している。
しかし、さすがのサンカツさんも「親父から与太話を聞いたくらいなんだよ」と困り顔。もうダメだ、おしまいだぁ。
しかし、「『代田ダイダラボッチ音頭』って知ってる?」とサンカツさん。聞けば、駅前広場の完成に合わせて作られた楽曲らしい。そしてなんと、歌い手の「チンドン好井」さんは友人なんだとか!
「今から呼ぶよ」。なんという僥倖(ぎょうこう)! ややあってチンドン好井さんが店に現れる。
チンドン好井さんが界隈に暮らし始めたのは2018年からだ。「行きつけの『tasse coffee』の店主から『代田ダイダラボッチ音頭』の存在を聞いたんです。曲は完成しているけど、歌い手を探している状況で。盆踊りが大好きなので、『ぜひ紹介してほしい』とお願いしました」。
作曲家をつないでもらい、歌い手に抜擢。レコーディングを終え、記念配布のCDも完成。駅前広場完成式典でのお披露目も予定していた……が、コロナ禍に阻まれ、式典当日のみならず、その後の数年間、実演の機会は訪れなかった。しかし2023年、「代田盆踊りの会」と出会い潮目が変わる。
「練習曲で使ってくれていたんです。『あの曲は幻ではなかった』と感激しました」。そして2024年、代田八幡神社の盆踊りで初の生歌・生演奏を披露。完成から時を経て「代田ダイダラボッチ音頭」は街に響き渡った!
「音頭を通して、子供たちに盆踊りの文化とチンドン屋という職業の存在を伝えていきたい」と、好井さん。「代田のダイダラボッチ伝説」は、今こそ始まりの瞬間だったりして?
取材・文・撮影=どてらい堂 写真提供=チンドン好井
『散歩の達人』2025年1月号より
どてらい堂
熱血物書き
インタビュー記事を得意とするが、街頭調査やルポルタージュなど、体当たりな企画はより嬉々として勤しむ1984年生まれのB型男。主に『散歩の達人』で執筆。漫画・アニメ・格闘技オタクで、少年漫画脳な気質が文章にちらほら。たこ焼きの腕だけはプロ以上。