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芸人・誠子さん「尼神インターの解散を悲しい思い出にしたくないから、新しい環境に挑戦」

りっすん

転職や職種の変更、社内での異動などで新しい仕事に挑戦したい。けど「変化」への不安から、踏み切れずにいる人は少なくないのではないでしょうか。

17年続いたコンビ「尼神インター」の解散と吉本興業の退所を経験したお笑い芸人の誠子さんは、長年慣れ親しんだ環境を飛び出し“ゼロから再出発”する道を選びました。

そこにはどんな葛藤や思いがあったのでしょうか。

「解散」を悲しい思い出にしないため「挑戦」を選択

💡POINT
•「尼神インター」の解散は予想外だった
•「最大のチャレンジ」が「最大のメリット」になると考え吉本興業を退社
•マイナスをプラスに変えようとした
誠子さんは昨年、相方の渚さんと組んでいたお笑いコンビ「尼神インター」を解散され、現在はフリーランスの芸人として活動されています。今日もおひとりで来られたので驚きました。

誠子さん(以下、誠子):そうなんです(笑)。いまはマネージャーもおらず、どんな仕事も基本的にひとりでやっています。

「芸人」という肩書き自体はこれまでと同じでも、フリーになったことで景色が大きく変わりました。この1年は、海外で違う文化を経験したくらい目に映るもの全てが新鮮でしたね。

17年間続いた「尼神インター」の解散は、誠子さんにとってまったく予想していない出来事だったそうですね。渚さんに解散を告げられたときは、率直にどのような心境でしたか?

誠子:もう大ショックでした。尼神インターは今後も続いていくもんやとなんの疑いもなく思っていたから、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになって……。

でも10分後くらいには解散を受け入れました。

引き止めることはしなかったんですね。

誠子:私たちは2人で「漫才」をしていたので、どちらか1人が「解散したい」と思った時点で、どれだけ抗おうと成立しないと思ったんです。

それに、17年の活動の中で「コンビでできることはやり切った」という感覚は確かに理解できたし、渚は真面目やから生半可な決意じゃないこともよく分かった。

だからその意見を尊重したいと思いました。

吉本興業を退社しフリーランスになる道を選んだのはどうしてですか?

誠子:ただただ「自分にとって一番のチャレンジをしたい」と思ったからです。

解散はやっぱり悲しいことやから、ここで何か新しいことにチャレンジせんと悲しい思い出のままになってしまうと思って。

「自分も世間も驚くようなフルスイングのチャレンジってなんやろ?」と考えたときに、思い浮かんだのがフリーランスになることやったんです。

慣れ親しんだ吉本興業を離れるのは勇気がいりませんでしたか?

誠子:そうですね。ただ、「最大のチャレンジ」をすることが結局は「最大のメリットになる」という確信はありました。

そもそも「芸人」は、過去の悩みやコンプレックスを“笑い”に昇華できる仕事なんです。だから、解散という悲しい経験もプラスに変換できるはず。

この芸歴で、しかも女性芸人でフリーランスにチャレンジをしてる人ってほぼおらへんから、自分が挑戦することで誰かに勇気を与えられるかもしれないこともメリットやと思いました。

と言いつつ、吉本興業が好きやから辞めるのが寂し過ぎて、マネージャー陣に退所を伝える場では号泣しましたね。

私があまりにも泣いているので「ほんまは残りたいとちゃうか?」と言われたり(笑)。

新しい環境に踏み出したら、仕事の楽しさが増した

💡POINT
•退職するときは本心を話すことで、辞めたあとも続く人間関係を築く
•新しい環境で仕事に対する「楽しさ」「やりがい」が増した
•「数をこなしたい」から「1つの仕事に熱量をかけたい」へ
環境が変わったら以前のように働けないかもしれない、という不安はありましたか?

誠子:ありましたが「まあなんとかなるやろ」とも思ってましたね。でも、いざ会社を辞めてみたらほんまにちゃんと仕事がゼロでした(笑)。

しゃべりが鈍るのだけは避けたかったので、資金ゼロで始められるポッドキャストをすぐに始めて。

それから「人脈づくりをせんと」と思い、去年1年間はとにかく人に会いましたね。お酒も飲めないし、社交の場ってあんまり得意じゃないんですけど。

本当に“ゼロ”からの再出発だったんですね。

誠子:はい。タダで仕事を頼まれたり、逆に怖いくらい高額な案件を依頼されたり「これって大丈夫?」と不安になることもたくさんあって。

「ちゃんと信頼できる人に頼らんと、いつか騙される」と感じて、怪しいなって思ったら吉本時代のマネージャーさんに相談するようになりました。

辞めた会社の方を頼れる関係性を築けているんですね。

誠子:辞めるにあたって、嘘をつかず本心を全て話して自分の弱みもぐちゃぐちゃの泣き顔も見られてるから、もう何も取り繕う必要がなくて。

だからこそ、辞めた今でも良い関係を築けているんやと思います。

環境が変わったことで、仕事への向き合い方に変化はありましたか?

誠子:仕事に対する楽しさややりがいが増しました。1件のイベントや番組出演にはこれだけのやりとりが必要だったんかと、大変さも身に沁みて分かって。

1つひとつの仕事のありがたみが理解できた分「いい仕事がしたい」「めっちゃ笑かしたい!」という気持ちがさらに強くなったと思います。

仕事のペースという面ではいかがですか?

誠子:シンプルに数字だけで見ると、今は収入も仕事の数も吉本時代の4分の1程度。でも数が減った分、1つの仕事にかけられる熱量が増えました。

正直、20代の頃は「とにかく仕事の数をこなしたい」と思っていた時期もあったんです。でも36歳を迎えた今は、これくらいのペースがベストかもしれへんなと思います。

どの現場でも自分は「この仕事を成功させるためのチームの一員なんや」という気持ちで臨めているので。

「やりたいこと」を無視するのはもったいない

💡POINT
•「やりたい気持ち」を無視するのはもったいない
•今いる組織でも「マインド」次第で挑戦はできる
•社会人歴が長くなったら「自分に優しくするフェーズ」に入っていい
誠子さんのように新しいことにチャレンジしてみたいけれど、慣れ親しんだ場所から離れることへの不安が大きくて決断できずに悩んでいる人がいたら、どんな言葉をかけますか?

誠子:もし何か具体的にやりたいことやチャレンジしたいことがあって、それができない理由が今いる組織なんやとしたら、私は勇気を出して飛び出してみるのもありかなと思います。

「やりたい」って気持ちに出会えたこと自体がかけがえのないことで、それを無視するのはあまりにもったいないから。

でも、漠然と「もう少し仕事でワクワクしたい」と感じているんやとしたら、組織に残ったままでもできることはあると思います。

新しい環境に飛び出すだけが選択肢ではない、と。

誠子:はい。というのも私は、面白いし才能があるのに売れなくてやめていった芸人を、17年間でほんまにたくさん見てきたんです。

その中に1人、今は京都のスーパーで働いている男の子がいるんですけど、彼はしゃべりがうまいから配属されたパン売り場で商品を全部売り切って表彰されたらしいんです。

その話を聞いて「めちゃめちゃ芸人やな!」と思ったんですよ。

あと私が好きな「envy」というバンドは、1人のメンバーを除いて全員が現役の会社員なんです。

要はスーパーの中にも芸人はいるし、会社の中にもロックンローラーはいる。結局は「どういうマインドで臨むか」なんやと思います。

だから会社で自分のやりたいプロジェクトを立ち上げたり新しい風を吹かせたりするのも、十分大きなチャレンジとちゃうかな。

ある程度キャリアを築いてきた社会人にとって「一度立ち止まる時間」は必要だと思いますか?

誠子:そうですね。それが1時間か1週間か1カ月かは人によると思いますけど、一度立ち止まって自分の声を聞くための時間は、みなさん設けた方がいいんじゃないかなと思います。

この記事を読んでくださっている方がもし社会人5年目とか10年目、あるいはそれ以上のキャリアの方やったら、そろそろ「自分に優しくするフェーズ」に入ってええと思うんですよ。

「自分にやさしくするフェーズ」……ですか?

誠子:はい。自分がスタッフを雇う立場になって思うのは「人を雇用すること」には大きなリスクがあるということ。雇った人が実際にいい働きをしてくれるかどうかは、一緒にやってみんと分からんから。

そんな中で、同じところで長く働き続けている人って、会社からしたらめちゃめちゃありがたい存在ですよ!

仮に派手な売り上げや企画は立てられてへんとしても、会社の業務をきちんとこなしているだけで素晴らしいことやし「この人がいてくれるだけで仕事が穏やかに進むな」と周りの人に感じさせるような、数字や結果に表れない貢献をしている人だってたくさんおると思うんです。

だから、そろそろ「ある程度は頑張ったよな」と自分に合格点をあげていいと思う。そうせんと、解散するまでの私がそうやったみたいに立ち止まる時間って一生つくれませんから。

みなさんもう十分貢献してると思いますよ、というのは私から伝えたいですね。

取材・文:生湯葉シホ撮影:関口佳代編集:はてな編集部

お話を伺った方:誠子さん

2007年に大阪の吉本お笑い養成所NSCに入学。漫才コンビ・尼神インターを結成。劇場ライブやバラエティ番組に多数出演。2024年にコンビを解散、吉本興業を退所。現在はフリー芸人としてお笑いライブや料理イベントなどを開催。ライフスタイルブランド「merci」をプロデュース。

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