団体行動が苦手な発達グレー息子。特別支援学級に入学後、運動会で感じた確かな成長
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
幼稚園・保育園時代は「見学」のみだった悔しさ
わが家の長男は年中の時、当時通っていた幼稚園の園長先生から「長男くんは、うちの園の年長クラスに進級するのは難しいと思う」と直々にお話があったことがきっかけで、進級目前で保育園へ転園しました。そのため、幼稚園と保育園の両方で運動会を経験したのですが、どちらの園でも練習に参加しないという理由から、団体競技には参加させてもらえず、いつも見学のみという悔しい経験をしました。
小学校の初めての運動会。ダンスメインの内容に、長男は……!?
昨年小学校に入学し、自閉症・情緒障害特別支援学級に在籍することになった長男。ちょうど去年の今頃、初めての運動会を迎えたのですが、やはり運動会の練習は進んで参加することができず、通常学級との合同練習も見学をしていることが多いようでした。
特に、長男はダンスに昔から抵抗があり、1年生はかけっこなどの競技はなく、ほぼダンスがメインだったため、余計に参加するのが難しかったのだと思います。
運動会当日!「操り人形」でもその場にとどまれた成長
運動会当日、長男はやはりダンスを踊ることはできませんでした。しかし、私は長男の確かな成長を感じました。先生に手取り足取り動かしてもらう状態でしたが、逃げ出すことなく最後まで指定の場所にとどまることができたのです。たとえみんなと同じようにダンスが踊れなくても、その場を離れるという選択をしなかった長男の姿に、私は胸がいっぱいになりました。どんな形であっても、最後までやりぬいたことが、誇らしく感じました。
その後の「玉入れ」の競技では打って変わって、長男は先生の元から離れて、一人で楽しそうに参加することができました。
待機中には大きな声を出してしまって、通常学級のお友だちに注意されてしょげてしまう場面もありましたが、なんとか最後までその場にとどまり参加することができました。
今年の運動会
そして今年も間もなく運動会の時期となり、練習がスタートしています。
先生の話を聞くと、まだ参加はできていないものの、通常学級のお友だちが練習している場所に行くのは嫌がらず、練習の様子を見学できているとのこと。今年はリレーがあり、それには参加したいと意気込んでいるようです。
去年よりももう一歩進んで、自分なりに運動会に参加しようとしている長男。少しでも自信をつけて楽しんでくれることを願って、家庭でも練習などできることは共に取り組みたいと思っています。
執筆/プクティ
(監修:初川先生より)
幼稚園・保育園時代から続く、運動会の参加に関するエピソードをありがとうございます。集団での表現(ダンス)などは、たしかに練習していないと本人も先生も周りのお子さんも困ってしまうため、見学扱いになることはあるかもしれません。ただ、個人的には、練習の方法を工夫できる余地はまだあるのかもしれないとか、すべてとは言わず、部分的に参加する、あるいは別の役割で参加するということも検討の余地はあるかもと思いました。練習の方法については、お子さんの知的な理解力にも関連しますが、先に振り付けや移動の場所を映像や図で説明を聞いておくなど、集団での練習に入ることは難しくとも、心の準備や個人での練習ができる場合もあります。また、部分参加に関しては1曲目だけ踊る、あるいは本部席(朝礼台)のそばで旗など小道具を振る、先生とそこで踊る、曲の再生ボタンを押す係になるなどさまざまなバリエーションをされている実践がありました。ただ、それは本人や保護者の意向のみならず、先生方の状況にもよるので、いかなる場合にもできるとは言えず、運動会の表現活動に参加が難しそうであることを前もってご相談されるとよいと思います。
さて、長男くんは1年生の時に先生に手取り足取り動かされながらも、「その場に留まることができた」のですね。その様子をこれまでの経過からして大きな一歩、成長であると捉えてくださるプクティさんの見方が何より長男くんにとって、あたたかくサポーティブなものであったろうと感じます。多くの保護者や子どもたちの前での発表になるため、上手にできないことを保護者が恥ずかしく思う場合も中にはあると思います。そうした気持ちが出てくることもあるとは思いますが、お子さん本人なりの頑張り、これまでの姿からの成長といった点で見てあげることもとても大事だと思います(運動会は団体としての演技・表現の上手さを問うコンクールではなく、日ごろの体育での練習の成果を発表する意味合いが昨今は特に強いように感じます)。団体競技(玉入れやリレー)に関しては、長男くんにとっては取り組みやすいようですね。ルールも分かりやすく、一人で覚えねばならない事柄もそう多くはないのもあり、いろいろな意味で参加のハードルが低く、楽しく参加できるレベル感であるようで何よりです。
運動会は、練習の過程において、時間割が変わったり(体育が増えたり)、踊るための音楽が大きな音で流れていたり(練習期間中は他学年の曲が聞こえてくることもありますね)、広い校庭の中で、広がって運動するがゆえに自分の位置取りがつかみづらく、不安が高まったり。練習段階においてもさまざまなつまずきやすいポイントがあり、また本番はいつもと違って多くの観客の前で行うため、緊張や不安、あるいは興奮が高まりやすい面があります。苦手だなと思うお子さんも結構な数いるように感じますが、ただ、苦手だからまったくやらないというのでもなく、できる範囲で取り組む、不安なところは家や教室での練習など、できるところから誰か(先生や支援員さん、家族など)と一緒にやっていくことで、想定よりも取り組める場合もあります。そうした学校行事の持つ良さもあるので、無理のない範囲・自信を失わない範囲でぜひ先生方とご相談されながら取り組んでいただければと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。