Yahoo! JAPAN

が~まるちょば・HIRO-PONが語る、パントマイムとパフォーマンスの違い「本当の技術を持ってテレビのなかで生きるのは難しい」

SPICE

が〜まるちょば 撮影=福家信哉

パントマイムの技術や世界観を広げた一人として知られ、他の追随を許さない存在でもある、が〜まるちょば。そんなが〜まるちょばの公演『が~まるちょば シネマティック・コメディー JAPAN TOUR 2025 ~Everybody hates MIME~』が2025年1月13日(月・祝)の東京・よみうり大手町ホールを皮切りに、広島、姫路、静岡、大阪、宮城、愛知にて開催される。ストーリー性を重視し、映画を鑑賞しているような深い味わいを堪能できる同公演。しかしそこには「パントマイムとはいったいどういうものなのか」と本質の追求が詰まっている。今回はが〜まるちょばのメンバーであるHIRO-PONが改めて「パントマイム」について、いろんな角度から語ってくれた。

が~まるちょば

●「審査員がいて、その人たちが演者をジャッジし、順位を決めるようなものには出ないと決めています」

――2023年に上演されたツアー『シネマティック・コメディー』はストーリー性、ドラマ性に富んだパントマイムが楽しめました。今回も同タイトルということでその部分は見どころの一つになりそうですね。

「これはパントマイムの公演です」と提示すると、多くのお客様は「パントマイムってこういうことをやるんですよね」と想像をつけるんです。僕の公演をご覧になったことがない方は特に、パントマイムにストーリーがあるとは思っていない。でもストーリーがないパントマイムは、つまりはパフォーマンスなんです。だからこそ「が〜まるちょばのパントマイム公演はストーリー性がある」という理解を得るためのタイトルでもあります。

――HIRO-PONさんはその点をずっと口にし続けていらっしゃいますよね。

おそらく、多くの方に「パントマイムは好きですか、嫌いですか」と尋ねたら「分からない」という答えが返ってくるはず。つまりパントマイムという芸術や表現は、みなさんが常日頃から見ているエンターテインメントの枠から外れたところにあるのではないかと思うのです。しかし当然ながら、パントマイムを生業としている自分にとってそういう状況は本意ではありません。

――おっしゃることは、よく分かります。

世の中の人たちがイメージしているパントマイムは、全身タイツで白塗りの人がパフォーマンスしているものではないでしょうか。もしそういうものが本当のパントマイムであるなら、僕はパントマイムを続けていないし、そんなパントマイムは嫌いです。だからこそ、あえて『Everybody hates MIME』というサブタイトルをつけました。でも、そういったパフォーマンスはパントマイムのごく一部分でしかない。このサブタイトルには、世界で知られているパントマイム以外のものを知ってほしいという願望を込めています。

が~まるちょば

――が〜まるちょばさんは2013年、日本のお笑い芸人も多数挑戦しているオーディション番組『ゴット・タレント』のフランス版に出場されましたが……。

ちょっと待っていただいてよろしいですか。その話について、先に喋らせてください。自分はあの当時も、今も、コンペティション番組には出たくないんです。審査員がいて、その人たちが演者をジャッジし、順位を決めるようなものには出ないと決めています。実は、その当時、イギリスのエージェントから「フランスのテレビ番組からオファーがあるので出てみないか」と依頼があったんです。こちらは「コンペティションでなければいいよ」と伝えた上で、フランスへ行ったら『ゴット・タレント』だったんです。

が~まるちょば

――そんなことってあるんですね。

僕たちも「えーっ?」となって。でももう来ちゃったから、「出ます」と。あの番組は一度合格したらまた行かなきゃいけなくて、合格はしましたが次はお断りしました。今でも『ゴット・タレント』の映像を引き合いに出して「これがが〜まるちょばのパントマイムだ」と紹介されることがあります。だけど、あのとき披露したものはパフォーマンスであって、が〜まるちょばのパントマイムではないんです。だからこそ、あの番組の映像でが〜まるちょばを評価されたくないんです。

が~まるちょば

――HIRO-PONさんがおっしゃるように、『ゴット・タレント』でのパフォーマンスが広く知れ渡っているのが現状ですよね。一方、海外のリアクション動画系のYouTube企画などで同動画が使用されていたりするのですが、そこでの反応は「こんなパントマイムは見たことがない」と絶賛するものでした。

そうやって喜んでいただけるのは素直に嬉しいです。あれが入口の一つになって、舞台公演に足を運んでいただけると本望です。でも先ほどもお話ししたように、あれはパントマイムではない。あの感じのことを舞台公演として2時間やるのは難しい。そうではなく、舞台上でストーリーを紡ぐ本当のパントマイムをご覧になってほしいですね。

●「『シネマティック』だからこそ舞台で表現することができる」

が~まるちょば

――たとえば2024年2月放送『ニューヨークのクイズ!いつの間に!?』(東海テレビ)でも、出題されるクイズの一つとしてパントマイムを披露されましたが、あれもどちらかというと、パフォーマンスに近いものと言えるのでしょうか。

テレビ番組など、映像のなかでパントマイムをお見せするのはとても難しいんです。というのも、自分が舞台上でやっていることの一部分を切り取ってお見せすることはできないから。だからどうしても、それとは別物の、テレビ用のパフォーマンス的な動きになってしまいます。僕はずっと「パントマイムの本当の技術を持ってテレビのなかで生きるには、どうしたらいいだろう」と考えていて、まだ答えが見つかっていません。『ニューヨークのクイズ!いつの間に!?』でもやはり、逆再生の動きだったり、スローモーションだったり、パフォーマンス的な動きになりました。

――映像でパントマイムを見せる難しさをお聞きすると、余計に『シネマティック・コメディー』というタイトルに興味が湧きます。というのもシネマはそもそも「映画=映像」です。ただ、舞台上でやるから「シネマ=映画、映像」ではなく、「シネマティック=映画、映像のようなもの」としているところがおもしろいです。

たしかに「シネマ」だったら、映像的な見せ方、考え方が必要になるかもしれません。そうなると、お話していたように難しさがある。でもおっしゃるように「シネマティック」だからこそ舞台で表現することができる。そこまで突っ込んで考えてくれる方がもっと増えてほしいですね。そうなればきっと「パントマイムの舞台を観に行こう」と、もっと多くの方がなると思うんです。

――ただ、時代の流れ的にどんどんパフォーマンス系が流行していますよね。日本のお笑い芸人が『ゴット・タレント』に出演する際もやはりパフォーマンス系がウケていますし、YouTube、TikTokなどのショートムービーコンテンツでもいわゆる一発ネタが多くの再生回数を稼ぎ出しています。いずれも映像というコンテンツではありますが……。

でも「もしかすると一周回って、自分がやっていることに興味を持ってもらえる時代が来るかもしれない」と期待を捨てないようにはしています。なぜなら、素晴らしいエンターテインメントを求めている人はどの時代にもいるから。パンデミックのとき、エンターテインメントは生きる上で不必要なものとされ、仕事として成り立たなくなった方たちもたくさんいらっしゃいました。しかし僕がパンデミックのときに感じたのは、生活するなかで人間のメンタルに効くのはエンターテインメントだということ。誰かにとって必要なものだからエンターテインメントはなくならないんだろうと思いました。パントマイムもなんとかそこに入り込みたいんです。誰もがきっと幸せになりたいと考えているはずで、自分のパントマイムが、幸せになるためのちょっとしたお手伝いになればいいなと。

――が〜まるちょばの公演は、こういった取材で内容が事前に語られることはありません。「観に来たら分かる」というもの。ただ、台本作りがどんな感じで進行しているかを最後に教えていただけますか。

今回に限らずいつも頭を悩ませながら台本を作っています(苦笑)。そもそも「パントマイムに台本なんてものはあるのか」と思われそうですけど、あります。台本には、僕がどのように動くかを言葉として書いています。演劇などの台詞ありの台本に似たものです。どうやって動くかなど、スタッフさんたちに伝わるように書いています。パントマイムの公演を一つ作り上げるのはとても大変なのですが、その分、きっと満足していただけるはずです。

関西公演に向けてコメント動画が到着!

取材・文=田辺ユウキ 撮影=福家信哉

【関連記事】

おすすめの記事