軟骨伝導イヤホン 自治体などで導入進む
今日は耳についての話題です。
今「軟骨伝導」という、新しい聴覚、聴こえ方の仕組みが注目されています。
第3の聴覚「軟骨伝導」とは
まずは「軟骨伝導」とはどんなものなのか、この仕組みを発見した奈良県立医科大学 学長 細井裕司さんのお話です。
奈良県立医科大学 学長 細井裕司さん
人間が音を聴くのは、通常聴いているのは「気導」と言います。500年前に「骨伝導」というのが発見されました。それは、頭蓋骨を振動させて、その振動で音になります。500年間この2つだったんですが、2004年に「第3の聴覚」として、新しい音の伝わり方を発見しました。「軟骨伝導」と名前をつけました。そもそも「軟骨」は骨の一種ではありません。軟骨伝導は、骨は振動しません。耳の「軟骨」が振動して、その耳の中に音を作って、その音が鼓膜・中耳を通って聴こえる音ですから、骨伝導とは全く関係のないメカニズムになります。
「軟骨」は、骨ではなく、触ると少し柔らかくて、弾力がある部分です。耳の周りにたくさんある「軟骨」の振動で音を聴く仕組みなんです。
改めて整理すると、普段私たちが聴いているのは、耳で直接音を聴く「気導」。
頭蓋骨を振動させて、それが音として脳に届くのが「骨伝導」。
これに加えて軟骨の振動で音を聴く「軟骨伝導」を細井さんが新たに発見しました。
その軟骨伝導の仕組みを使ったイヤホンは、音漏れしにくいほか、耳の穴に入れずに、軟骨に触れるだけでいいので、耳を塞ぎません。つまり、例えば通勤や通学のときに周りの音やアナウンスも聴こえるというメリットがあるそうです。耳の穴に入れる必要がないので、イヤホンに、穴があいていないのも特徴。
私も軟骨伝導イヤホンを試してみましたが、綺麗な丸い形をしていて、軽く軟骨に触れるだけでクリアに音が聴こえて快適でした。
北区 窓口に軟骨伝導イヤホンを導入
この「軟骨伝導イヤホン」、今、自治体や区役所などの窓口で導入が進んでいるんです。
去年7月に窓口に導入した、北区 高齢福祉課長 新井好子さんに伺いました。
北区 高齢福祉課長 新井好子さん
高齢福祉課の窓口に、高齢者が多いということで置かせていただいています。相談する際に、聴こえにくい方とか、何度も繰り返してお話をされる方に「これを使ってみたらどうですか?」というお声がけをしています。まずは、聴こえにくいということでコミュニケーションがしにくいことを遠慮している方もいらっしゃるかと思いますので、特に相談ごとに関しては、気にしないでお話ができるとか区役所の方も大切なことをお伝えするときに、大きい声を使わずに配慮しながらお話しできるといったところもメリットではないかと思います。
北区では、特に75歳以上の方が、週に1、2回利用していて、「よく聴こえる」「これまで結構苦労していたんだよ」という声もあがっています。これまで北区では聴こえづらい方とコミュニケーションをとる際、伸び縮みするプラスチック製の筒状の用具(助聴器)をお互いの耳と口に当てて使っていたんですが、コロナ禍で、間にアクリル板を置いたため、この用具も使えなくなって対応に苦労していました。
区では、今年度から補聴器の補助事業を始めましたが、それに先駆けて様々な面から「高齢者の聴こえ」について支援をしていこうと、去年、軟骨伝導イヤホンの導入に至ったということです。
軟骨伝導イヤホンは耳の穴に入れる必要もないので、窓口で多くの方が使っても簡単に拭き取るだけで綺麗になって、衛生面も安心だそう。今導入しているのは1セットですが、価格も1つ3万円以内でそこまで高額ではないので「今後利用者が増えてきたら、イヤホンの追加も検討したい」と話していました。
認知症の予防にもつながる!?
自治体の窓口での導入増加の受け止めや、期待する効果などについて、再び、仕組みを発見した奈良県立医科大学 学長 細井さんのお話です。
奈良県立医科大学 学長 細井裕司さん
今、金融機関・自治体を含めて、250以上の団体・機関に入っていると思います。特に役所では、なぜ老眼鏡は置いてあるのに、耳のことはほったらかしになっていたのかと前から考えていました。多くの難聴の方が「自分が難聴と思っていない」ということがあるんですね。窓口用軟骨伝導イヤホンによって「これだけ聴こえるんだ、こんなに素晴らしく聴こえるんだ」ということを、まず味わってください。WHO等の報告でも、難聴は認知症のリスクファクターの大きな部分を占めているという報告があります。ですから難聴を克服する、つまり聴こえるようになり、そしてそのことによって会話が弾む。そうすると、脳が働きます。それによって、認知症を予防するということが考えられますね。そういうことにこの活動がつながっていけば良いと思っています。
細井さんは、まだまだ「軟骨伝導」の仕組みが知られていないので、多くの方に知ってほしいと話していました。
「聴こえ」の助けになるだけでなく、この仕組みを使って、スマートフォンなど、新しい製品も今後どんどん出てきそうですね。
(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』取材・レポート:西村志野)