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「自分自身の光秀をやる。それだけです」市川染五郎インタビュー 『新春浅草歌舞伎』初出演への意気込み語る

SPICE

市川染五郎

2025年1月2日(木)に開幕する『新春浅草歌舞伎(以下、浅草歌舞伎)』。かつて芝居町だった浅草で1980年に『初春花形歌舞伎』として始まり、今ではお正月恒例の公演となっている歌舞伎公演だ。若手の登竜門とも言われている。名だたる俳優たちが「花形」と呼ばれる時期に1月の浅草公会堂の舞台に立ち研鑽を積んでおり、直近の10年は尾上松也を中心とした座組が盛り上げてきた。2025年は新たなメンバーを迎え、平均年齢24歳の若手の座組が約1か月間、浅草公会堂での公演を担う。19歳の市川染五郎もその一員だ。初めて「浅草歌舞伎」に参加し、大役に挑む心境を聞いた。

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2025年1月1日時点での平均年齢は24歳。

■新しいメンバーでこれからも続く、浅草歌舞伎

出演が決まった時の心境を、染五郎は次のように語る。

「浅草歌舞伎のメンバーが大きく入れ替わるとは聞いていましたが、自分がそこに入れていただけるとは思っていなかったので驚きました。少し年上のおにいさん方や同世代の方とやらせていただけてうれしいです。出演の話は父(松本幸四郎)から聞きました。『続けて出させていただけるようがんばりなさい』と言われました」

中村橋之助、中村莟玉は昨年に続く出演。中村鷹之資、中村玉太郎、尾上左近、中村鶴松、そして染五郎が初めての出演となる。

「新しいメンバーでというのが、まず見どころです。演目立てのバランスが良く、歌舞伎らしい歌舞伎を観ていただけると思います。個人的に楽しみでありプレッシャーでもあるのは『絵本太功記』尼ヶ崎閑居の場で演じる武智光秀です。橋之助のおにいさんとのWキャストで、どうしても比較はされると思います。その不安はありますが良い意味で勝負のつもりで、楽しみにしています」

市川染五郎


■『絵本太功記』光秀と久吉、影と光の対比を見せたい

第1部の『絵本太功記』では武智光秀を、第2部の同演目では真柴久吉を演じる。光秀と久吉はそれぞれ史実の明智光秀と豊臣秀吉をモデルとした登場人物だ。本能寺の変を企てたあとの光秀が、老いた母のいる尼ヶ崎の閑居を訪れる場面が上演される。

「光秀と久吉は裏と表、影と光。対照的な存在として語られることが多いです。僕はTHEヒーローという役よりも、影のある役や悪役側の方が好きです。(仁木弾正など)高麗屋がそのような役を多く演じてきた影響もあるかもしれません。この芝居では、最後に久吉が家来を連れて華々しく登場します。一方で光秀の登場は、たったひとりで竹藪から現れます。衣裳や化粧などビジュアル面も独特なのですが、同じ武将としての大きさを出しつつ、光と影の対比をお見せしたいです」

光秀役は、祖父の松本白鸚から教わる。

「稽古はまだ始まっていないので、祖父の映像を見たり台本を読んでいるところです。最初の登場が特に難しいのではないかと感じています。出た瞬間にお客様を圧倒するような凄みをどうしたら出せるか」

印象に残っているのは2019年1月の歌舞伎座でのこと。

「中村吉右衛門の大叔父が最後に歌舞伎座で光秀をおやりになった舞台を、僕は2階席の一番後ろから見ていました。笠で顔を隠して登場し、下ろして顔をみせたときに鳥肌が立つような凄味がありました。笠を下ろして見得をすると、2階の一番後ろまで飛び出してくるようであの迫力は忘れられません。大叔父の舞台の中でも一番といっていいくらい好きなシーンでした」

市川染五郎

光秀は、その後に思いがけない形で家族と対面する。

「光秀は、鷹之資さんが演じられる十次郎の父親役です。父親に見えるような大きさ、落ち着きが出さなくてはいけません。大きな人物に見えるように肚(はら)で芝居をする、というのでしょうか。自分の中に作った気持ちをストレートにすべて出すのではなく、抑える演技が必要になってくるのかなと思っています」

舞台の中央で、じっと堪える時間も長い役だ。その間も光秀を取り巻く状況は変わっていく。

「最後は感情が溢れ出し豪快に泣き落とします。光秀は自分の家族が亡くなり、光秀本人も本能寺で主君を殺してきたばかりです。それがどんな感情なのか現代人の自分には想像するしかありません。でも台本を読み、台本に書かれていないところも想像し、ここまでどう生きてきたのかやその後どうなったのかも含めて自分なりに解釈して、自分の中でどれだけしっかり心を積み上げていけるか。じっとしているだけで急に泣いたら、芝居は不自然になってしまうと思うので」

■『棒しばり』コミカルな舞踊も歌舞伎らしく

第2部では『棒しばり』にも出演し、太郎冠者をつとめる。「コメディっぽい、理屈抜きで楽しめる舞踊劇」と染五郎。主人が留守の間に、太郎冠者と次郎冠者は勝手に酒を飲もうと画策するが……。

市川染五郎

「お酒を飲まないように、次郎冠者は両手を棒に縛られ、太郎冠者は両手を後ろ手に縛られています。その状態で踊るのですが、お客様に楽しんでいただくためにもまず自分自身が楽しく踊りたいです。同時に、ただバタバタしているだけにならないように、と思っています。次郎冠者の鷹之資のおにいさんは踊りがとても上手な方ですし、ご自身の勉強会でも次郎冠者をなさっています。ひと月かけて食らいついていきたいです。踊りとはいえお芝居であることを意識し、役の心をしっかりとのせて踊りたいです」

太郎冠者は父から教わる。酔っぱらいの心を作る際の手がかりを問われると、伏し目がちに「ドリフですね」と言う。

「やはりドリフが好きなので。酔っぱらいは加藤茶さんや志村けんさんなど参考にできるところがあるかもしれません」

染五郎は今年2月に博多座、8月に歌舞伎座で舞踊劇『鵜の殿様』に出演。この作品も可笑しみがありながら、コントではなく音楽にのり鮮やかに跳躍する舞踊であり歌舞伎だった。当時もやはりドリフを参考にしたのだろうか。

「ドリフには『忠臣蔵』の松の廊下をモチーフにしたコントがあります。加藤さんの浅野内匠頭が、志村さんの吉良上野介の袴を踏みつけて何回も何回も転ばせる点は『鵜の殿様』と一緒ですね。それでもふざけてるだけに見えないように、歌舞伎としての技術や見せ方で面白く見せることを意識しました。博多座では無我夢中でしたが、歌舞伎座の時は少し落ち着いて踊れたように思います。その経験も活かし『棒しばり』をお客様に楽しんでいただけるようつとめたいです」

「ドリフが好きなので」と染五郎

『絵本太功記』の光秀では心の動きに言及し、『棒しばり』太郎冠者では踊りでありお芝居であることを意識する。

「歌舞伎には、いかにも歌舞伎らしい動き、歌舞伎っぽい喋り方というものがありますが、それだけでは歌舞伎風のものにしかならないと思っています。自分の中で、歌舞伎も演劇の中のひとつのジャンルだと捉えるようになり、演劇である以上は役を心の部分から作っていくことを大事にするようになりました」

この考え方は祖父の影響を受けている。

「祖父は、歌舞伎には伝統芸能としての一面と演劇としての一面があると考え、演劇的な歌舞伎を突き詰めていた時期がありました。古典歌舞伎も初演当時は現代劇であり演劇だった。その演劇的な歌舞伎を模索するというコンセプトで、当時取り組んでいたのが梨苑座(りえんざ)でした。『夢の仲蔵』というシリーズは、20年以上たった今の時代の方が受け入れられるんじゃないかと思えるほど革新的な舞台です。それを自分が復活させたいという思いがあります。歌舞伎の演劇的なところを突き詰めすぎると歌舞伎ではなくなってしまうので難しいのですが、うまく両立させていつか新しいものを作りたいです」

■高麗屋らしい役者を目指して

1月は、白鸚・幸四郎・染五郎の親子三世代で歌舞伎座に出演する年が続いていた。

「元旦はご挨拶まわりがあり、1月2日には公演がはじまります。歌舞伎役者にとってお正月は慌ただしいものなので、我が家は初詣の代わりに、大晦日に浅草寺にお参りにいくのが恒例です。小さい頃は仲見世通りでお土産物の刀や連獅子の赤い毛などを買ってもらいお芝居ごっこの小道具にしていました。お参りをするとその年の良かったことも悪かったこともリセットして新年を迎えられるような気がします」

市川染五郎

2024年も、新作から義太夫狂言の名作まで広く出演。9月は『妹背山婦女庭訓 吉野川』、10月は『源氏物語』で2か月続けて坂東玉三郎と共演した。

「玉三郎のおじさまは、声の出し方を重点的に教えてくださいました。先月はよく寝れてる? といった何でもない会話や、芝居の話をしてくださるときもありました。この先やりたいことを聞いてくださったときに、自分は『勧進帳』の弁慶をやれる役者になりたいとお話ししたところ、より太く響く声の出し方も教えてくださるようになって。今月も“弁慶をやりたいと言っていたから”と色々教えていただいています。このひと月でも、声の出し方がだいぶ変わったと感じます」

大先輩との“大歌舞伎”から、1月は同世代の仲間たちと作り上げる“花形歌舞伎”へ。

「不安と楽しみの両方があります。先ほどお話したようにWキャストでの光秀にはやはり不安もあります。でも橋之助のおにいさんは(中村)芝翫のおじさまに教わり、おにいさんの家の光秀をなさるはずです。自分も祖父から教わる自分自身の光秀をきっちりとやる。それだけです。光秀は高麗屋らしい、線の太い役だと思っています。お客様に、やっぱり高麗屋の役者なんだと思っていただけることが今回の目標です。極端な話ですが舞台に出てきただけで“この人は高麗屋だな”と思われる役者になりたい。それくらい高麗屋らしさというものを目指しています」

市川染五郎

会場は浅草公会堂。会期は2025年1月2日(木)~26日(日)。なお19日(日)第2部は「着物で歌舞伎」となる。詳細は公式サイト等でご確認を。

取材・文=塚田史香     撮影=山口真由子

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