近代美術の巨匠が創り出す光と影 ― 「オディロン・ルドン」展(取材レポート)
19世紀後半と20世紀初頭にかけて活躍し、近代美術の巨匠といわれるオディロン・ルドン(1840-1916)。変貌する社会の狭間で、新しい画材に取り組み続けたルドンの独自の表現を紹介する展覧会が、パナソニック汐留美術館で開催中です。
パナソニック汐留美術館「オディロン・ルドン ―光の夢、影の輝き」
会場は、プロローグと時代順に構成された3章から構成されています。
ボルドーやパリで素描や銅版画を学んだルドンは、植物学者アルマン・クラヴォーを通して、自然科学や文学、哲学の影響を受けて独自の芸術思想を形成します。1872年にパリに移り住んでからは、木炭画や石版画に取り組み、奇怪な形態のモティーフや気球や電球など最新の技術への関心をモノクロームで表現しました。
1879年に制作された最初の石版画集《夢のなかで》でも目に見える現実にはない空想上のモティーフや主観的世界が描写されています。
オディロン・ルドン《夢のなかで》1879年 岐阜県美術館
ルドンは1890年代頃から収集家や美術商、画家仲間との新たな人脈を築く一方、ナビ派の若い芸術家たちから先導者として慕われるようになります。この時期、作品の主題は「闇」から「神秘的な光の世界」へと移行し、黒色は光を表現する手段へと変化していきました。
1896年から再びパリで制作をはじめたルドンは、ナビ派の影響を受け装飾的な絵画に取り組みつつ、神話や宗教、人物などの主題も手掛けるようになります。
技法や表現についても、木炭から徐々にパステルに移行し、さらに種類の異なるパステルの重なりがもたらす光の効果や、油絵具でありながらパステルのような輝きを発する描き方を追求したルドン。1900年のパリ万国博覧会での作品展示をはじめ、アメリカを舞台としたアーモリー・ショーに出品するなど、世界的にも確たる地位を築いていきます。
第3章「Modernist/Contemporarian・ルドン 新時代の幕開け 1896-1916」
1900年以降に多数の題材とされたのが、花瓶や水差し、壺などさまざまな器に生けられた花の絵です。花々は妻のカミーユが用意したものや別荘の庭に咲いたもので、その独特で神秘的な雰囲気でも人気を集めました。
第3章「Modernist/Contemporarian・ルドン 新時代の幕開け 1896-1916」
展覧会のハイライトは、東京で初公開となった1906年頃に描かれた《窓》です。「黒」の時代から外の光が差し込む情景を描いていたルドンは、革新的な色彩への探求の一環として、ステンドグラスをモチーフに取り入れました。この作品からも、ルドンが画業を通じて持ち続けた光と影の表現を感じることができます。
《窓》1906年頃 岐阜県美術館
《窓》や石版画集をはじめ、世界屈指のルドン・コレクションを誇る岐阜県美術館を中心に国内外の作品を一堂に鑑賞できる貴重な展覧会。会期中に実施される学芸員によるスライドトーク(5月10日、6月6日)に合わせて来館されるのもおすすめです。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2025年4月11日 ]