Suchmos、約5年8ヶ月ぶりとなる感謝のワンマンライブ「変な人同士、仲良くしよう!」
Suchmos「The Blow Your Mind 2025」2025.06.22(sun)横浜アリーナ
6月21日(土)、22日(日)に神奈川・横浜アリーナで開催された『Suchmos「The Blow Your Mind 2025」』。2021年2月に「修行の時期を迎えるため」という理由でバンド活動の一時休止を発表したSuchmosにとって、約5年8ヶ月ぶりのワンマンライブとなった。2日間にわたる公演への期待は大きく、チケット販売の際に寄せられた応募は約20万。会場に集まった人々が再始動を心から祝福した2日間の最終日、22日の模様をレポートする。
開演時間となり、会場内が暗くなるや否や一斉に座席から立ち上がった観客。「待ってたぞー!」「おかえりー!」という声に包まれながらYONCE(Vo)、TAIKING(Gt)、TAIHEI(Key)、Kaiki Ohara(DJ)、OK(Dr)、サポートプレイヤーの山本連(Ba)が両腕を掲げると、客席の全エリアから届けられていた拍手と歓声は一際熱く高まった。そして穏やかなトーンのエレピが先陣を切り、他の楽器も合流。「Pacific」がオープニングを飾った。会場の隅々にまで響き渡るサウンドが早速気持ちよくて仕方ない。うっとりしながら身体を揺らす人々の鼓動がステージから届けられる歌、演奏と美しく共鳴していた。続いて披露された新曲「Eye to Eye」、観客を一気に興奮させた「DUMBO」、濃密なグルーヴの塊だった「STAY TUNE」、レーザービームが飛び交う中、人々の激しい手拍子も加わった「808」……序盤の5曲の時点で、ものすごい幸福感が横浜アリーナを満たしていた。
「はじめまして。お久しぶりです。いろんな方がいらっしゃるでしょう。Suchmosです。初夏と言っていいような季節。30℃を超えてますよね? 外が気持ちいい時間にこんな暗い場所に集まって、変わってますね、あなたたち。ありがとう」――独特なひねりを利かせたYONCEの挨拶に和まされた最初の小休止。「昨日もとても楽しかったですけど。今日ももう既に楽しいです。俺らは勝手に楽しむから、あなた方も勝手にやってください」という言葉も届けられて演奏が再開された。「PINKVIBES」と「Burn」を歌いながら軽快にステップを踏んでいたYONCE。コール&レスポンスが交わされた「Alright」は、人々の声もバンド演奏を彩る美しい音色と化していた。再び小休止を迎えた時、観客の間から上がった「気持ちいいー!」という声。ステージからすかさず返された「俺も!」が心底楽しそうだった。
「バンドスタイルですね、これが俗に言う。1人1人はただのろくでなし。でも、ひとたび集まると、なんだかすごい……かもしれない。そうじゃないかもしれない。あなたは今どう思ってますか? 楽しいですか? 楽しいふりをしてますか? みんなで1つになりません。なっても意味がありません。それぞれで楽しんでください」――YONCEの言葉を完璧に体現した時間がその後も続いた。観客の歌声が加わると輝度を一気に増した「MINT」を経て新曲「Whole of Flower」へ突入。自由に踊る人々を眺めながら、ステージ上のメンバーたちはとても嬉しそうだった。続いて、YONCEがアコースティックギターを弾きながら歌った新曲「Marry」。甘美なメロディを響かせた「OVERSTAND」……観客はすっかり夢中だったが、演奏している当人たちも同様だったようだ。「昨日よりも体感時間が速いかも。あっという間だった。ラストスパートと言っていい時間帯にさしかかってる」――いつの間にか終盤を迎えている旨が告げられると、観客から届けられた「えええー!?」という不満げな声。「文句がすげえ(笑)」と彼らは大笑いしていた。
自然にバンドに溶け込んでいるので昨日は紹介を忘れられてしまったサポートベーシストの山本は、メンバーたちとは旧知の仲。彼を観客に紹介した後に始まった思い出話が賑やかで、まるで楽屋で仲良く過ごしているかのよう。「雑談しちゃった(笑)」と急に我に返って本編終盤をスタートさせていた。ファンキーなサウンドを濃密に体感させてくれた「To You」。長時間の暗転ブレイクを挟む変化球を交えつつ、情熱的なサウンドを高鳴らせた「Latin」――新曲2連発を経て「GAGA」へ雪崩れ込むと、観客はすっかりトランス状態。踊りまくる人々が作り上げた風景がカーニバルみたいだった「VOLT-AGE」。そして、すさまじい手拍子が加わりながら絶頂の更新を重ねた「YMM」で本編は終了。当然ながら観客の興奮は収まるはずもなく、アンコールを求める雷鳴のような手拍子に応えて、メンバーたちはステージに戻ってきた。
「7月4日にEP『Sunburst』をリリース」「日本国内とアジア13都市を巡る『Suchmos「Asia Tour Sunburst 2025」』開催決定」――2つの告知をした後、YONCEは4年前に逝去したメンバーのHSU(Ba)こと小杉隼太について語った。「失ったものは帰ってこないと、この4年間で嫌というほど理解しました。いまだに実感がなかったりするんだけど、時折変な気持ちになるんだけど、でもやっぱり隼太はいないんだなと痛感します。メンバーそれぞれで折り合いがついてたりついてなかったりするだろうけど、Suchmosというバンドとして一個、区切りをつけたいなと思って、昨日、“みんなで深呼吸しません?”と言って、お願いしたんだよ。今日もよかったら一緒に深呼吸しませんか? 目でもつぶって」――会場にいる人々それぞれの想いが込められた深呼吸が、HSUを偲んでいた。
「来週は隼太の誕生日。彼には2人の息子がいる。彼らのおもちゃ代を稼ぐのが俺たちの仕事かなと思ってます。どうぞ応援をよろしくお願いします。昨日はクソバカな友達に捧げる歌(21日のアンコール1曲目は「Stand By Mirror」)をやったんですけど、今日は新しい命に捧げる歌をやりたいと思います」とYONCEが言い、ドラムのOKが「俺に隼太がくれた最後の言葉は、“一番好きだぞ”でした」という言葉を添えた新曲「BOY」。力強さを秘めながら徐々に光に溢れていくかのような曲だった。歌い終えた後、観客に改めて感謝したYONCE。ずっと応援してくれている人々、休止期間中に好きになってくれた人々、その両方に感謝を伝えたくて、今回の2 DAYSライブを開催したのだという。「ここからツアーがあったり、EPのリリースがあったりとか、いろんな感想を抱くと思います。今日来た人たちもいろんな気持ちを持ち帰るんだと思います。なぜならあなたたちはそれぞれの仕事に都合をつけて、それぞれの経済的事情に都合をつけて、今日この時間にわざわざ薄暗い場所に集まった変な人たちだから。その自覚はありますか? 私たちはそんな変なあなたたちの前で大汗をかきながら必死こいて、やや酸欠になりながら歌ったり、楽器を演奏している変な人たちです。Suchmosです。ありがとうございました! 変な人同士、仲良くしよう」――ラストを飾った「Life Easy」は、“変な人たち”が各々のスタイルで音を浴びる喜びを滲ませながら受け止めていた。清らかな音色がメロディとハーモニーを描き、歌声とリズムと共に穏やかなグルーヴと化していく。身も心も解き放ってくれるひと時だった。そして、爽やかな余韻と共に迎えた終演。手を振りながらステージを後にしたメンバーたちを、観客は全力の拍手と歓声で讃えた。
取材・文=田中大 撮影=Desital Natives