【小説集「アンソロジーしずおか 戦国の新説」】 直木賞作家永井紗耶子さんら10人の歴史小説家が腕を競う。女性の活躍に注目
静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は2月26日に初版発行(奥付)された小説集「アンソロジーしずおか 戦国の新説」(静岡新聞社)を題材に。
「木挽町のあだ討ち」で2023年の第169回直木賞に選ばれた永井紗耶子さん(島田市生まれ)、「秘色(ひそく)の契り」が2025年の第172回直木賞候補になった木下昌輝さん、本紙連載小説「頼朝 陰の如く雷霆の如し」が先頃単行本化された秋山香乃さんら、10人の歴史小説家が腕を競う短編小説集。
静岡県内の城にまつわる作品を集めた「アンソロジーしずおか 戦国の城」(2020年)も破格の面白さだったが、「定説とされていたが、最新の研究で内容が覆りつつある“史実”」をテーマにした今回は、より一層物語性が強い作品が集まった印象だ。
旧来の説、新説、作家の創作という三つのレイヤーを行ったり来たりする作品が多い。だからというわけではないだろうが、全体的にスピード感が充満している。
「女城主・井伊直虎は『男』だった?」を題材にした谷津矢車さん「我が君、次郎直虎」は四角四面の武家のならわしの中に「情」の花がぽっかりと咲く。「東国の海賊は『傭兵』だった?」が下敷きの天野純希さん「凪の見た星」は合戦のハードアクションと衝撃的な結末が印象に残る。「徳川秀忠を育てたのは、今川義元の娘だった」を基にした秋山香乃さん「幼馴染み」は同じ作家の「氏真、寂たり」のスピンアウト的な趣がある。
これは編集の計算だろうか。紹介した冒頭3編は全て女性が主人公。5、6編の蒲原二郎さん「女難の相」、杉山大二郎さん「哀しみの果てに」も、自分の定めを強く意識する女性を中心に据える。
通説の変化は、歴史家の女性への興味関心の高まりとパラレルに進行しているのではないか。そんな仮説を立てたくなるほど、魅力的な女性が次から次に出てくる作品集である。
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