インド版「ナメてた相手が実は」映画はスパイス効きまくり!ド級アクション&残酷&コミカルな痛快作『ジェイラー』
インド映画門外漢も必見の痛快アクション
ご存知『RRR』爆発以前まで“日本で一番ヒットしたインド映画”であった『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995年)で世界中に旋風を巻き起こしたラジニカーント。まさに日本におけるインド映画ブームの先駆けであり、その後も『チャンドラムキ 踊る!アメリカ帰りのゴーストバスター』(2005)や『ロボット2.0』(2018)など数多くのヒット作を生み出した、世界で最も有名なインド人俳優の一人である。
2月21日(金)より全国公開となる『ジェイラー』は、2021年に封切られた『ダルバール 復讐人』(2020)以来3年ぶりに日本で劇場公開されるラジニ主演作だ。
孫を溺愛する爺さん、実は“タイガー”の異名で恐れられた元刑務所長だった
チェンナイに住む元警察官のムトゥ・パンディヤン(ラジニ)は、妻、息子、その妻、幼い孫息子とともに静かな毎日を過ごしている。ひとり息子のアルジュンは彼の影響で警察官となり、正義感の強さは人一倍。そんなアルジュンをムトゥは誇りにしていた。しかし、ある日アルジュンが行方不明になってしまい、美術品マフィアを深追いしすぎて消されたのでは? と噂される。
自分がアルジュンに行った厳格な教育が彼を死に至らしめたのか……と良心の呵責に苛まれるムトゥは、一民間人として独自捜査を開始。ヴァルマという男が牛耳る美術品マフィアとの戦いの中で、かつて荒れる刑務所を仕切り“タイガー” の呼び名で怖れられていた、刑務所長ムトゥの真の姿が明かされていく――。
2023年8月に全5言語バージョンが全世界の約7000のスクリーンで封切られた本作は、世界興収65億ルピー(約102億円)を記録し、同年公開のタミル語映画の1位となった。この数字は歴代のタミル語映画の興収としても第2位で、上回るのはラジニ自身の過去作『ロボット2.0』だけだという。
スーパースター・ラジニ、169本目の出演作
巨大監獄の元看守が家族を守るため、インド各地に散らばった「舎弟」を従え凶悪な犯罪者集団に立ち向かう姿を描く本作。「悪をもって悪を誅す」という謳い文句だが、いわば「ナメてた相手が実は……」と呼ばれるアクション映画に連なる、悲劇からの意外性でカタルシスをもたらすタイプの作品だ。10年ほど前には韓国映画『アジョシ』もタミル語映画でリメイクされているので、ジャンル的な相性は良いのだろう。
そんな本作はラジニの169本目の出演作。ネルソン・ディリープクマール監督はラジニ本来のスター性からムトゥ役としてのヤバいオーラを見事に抽出し、史上最狂のラジニを観客に見せてくれる。ダンスシーンも狂気の演出に効果的に使われているので、プリミティブなビートと低音の効いた選曲とともに要注目だ。
もちろん『バーフバリ』シリーズのタマンナーやラムヤ・クリシュナ、タミル語映画界の佐藤蛾次郎ことヨーギ・バーブらキャストも豪華。他にも嬉しいキャストが何人かいるが、配給の公式Xで一部紹介されているので鑑賞時のガイドも兼ねて事前にチェックしておこう。
マンガ的ケレン味と飽きる暇のない超展開
本作は近年のハリウッド映画より超バイオレントで、しかもコミカルな演出で見せるという容赦のなさ。社会を構成する一つの現実として生活臭のある家族やご近所付き合いみたいなものと同列で描き、かつての暴力性を主人公に自省させつつ3時間強の中に詰め込んでいる。長尺だがアクション一辺倒ではなく、いきなり作風が変わったかのような超展開で観客を飽きさせない。
今年75歳を迎えるラジニカーント。お馴染みの「SUPER STAR Rajini」のテーマは本作のオープニングでもしっかり提示され、ラジニありきのラジニ映画であることがインド映画門外漢にもはっきりと分かる。日本には欧米の映画メディアよりも濃厚な解説記事やレビューが多数あり熱いファンも多いが、普段ハリウッド大作や邦画を好む人にもぜひ観てほしい、マンガ的なケレン味もある痛快作だ。
『ジェイラー』は2月21日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開