大林組とKDDIスマートドローン、ドローンポート「DJI Dock 2」を活用し能登半島で道路工事の作業効率化を推進
遠隔操作が可能なドローンポート「DJI Dock 2」を活用し、工事現場の自動撮影や測量計算の自動化を実現することで、業務の効率化を図った。今回は、この取り組みを管轄する大林組と、ドローンの遠隔運用を担当するKDDIスマートドローンに話を伺った。
石川県の能登半島の道路では、2024年1月1日に発生した能登半島地震からの啓開工事が続く。啓開工事とは被災した道路に、瓦礫などの撤去や段差の修正といった必要最低限の補修を施し、緊急車両などを通行可能にする作業だ。啓開工事が済んだあと、応急復旧、本復旧へと工事が進む。
大林組とKDDIスマートドローンでは啓開工事の日々の作業進捗状況を確認するため、ドローンポート「DJI Dock 2」を利用したドローンの自動運航を活用している。どのようなデータを取得しているのか、作業の効率化がどの程度実現しているのかチェックするため、現地を訪れた。
能登半島では地震からほどなく1年を迎える2024年11月現在でも、その影響により各地で道路が崩落・分断した状況が続いている。また道路によっては、2024年9月21日に発生した能登豪雨によって追加でダメージを負ったケースもある。
いまもなお厳しい状況に置かれているが、道路を再び通れるようにするための作業は、人々の安全な移動のために日々実施されている。
国道249号は石川県七尾市を起点に能登半島の外周に沿ってぐるっと回り、金沢市に至る。輪島市と珠洲市を結ぶ重要な道路でもあるが地震で大きな被害を受け、2つの市の間では、現在8箇所ほどで啓開工事が行われている。
今回の取材で訪れた工事現場はそのうちの1箇所。金沢市内からは啓開・復旧工事が進む高速道路「のと里山海道」などを経由する約120kmの道のりを、自動車で2時間30分ほどかけて向かった。工事現場は全長3kmにおよび沿道に日本海を望む風光明媚な場所ではあるものの、地震により山が崩れて道を塞いでしまっている。
金沢市から能登半島方面へ向かう「のと里山海道」はいまだ啓開・復旧工事が続く。工事箇所を迂回しながら進むため、加賀山橋ジャンクション以降は最高速度が40km/hに抑えられている
工事現場では山側にあった国道249号を海側に引き直す工事が行われていた。ショベルカーがもとの道路上に崩落した山を削り出し、その土砂を巨大なダンプカーに積載。ダンプカーは埋め立てが必要な海側のポイントへ土砂を運ぶ。この作業の繰り返しだ。複数のダンプカーがひっきりなしに行き交い、工事現場には砂埃が舞う。
案内標識も傾いた状態に。痛ましい光景は能登半島を奥へ向かうほど増えていった
工事現場のほぼ中間地点であり日本海を見渡せる場所には、展望台が仮設されている。DJI Dock 2はその展望台に設置されていた。2024年9月11日の運用開始以来、月曜日から金曜日まで1日1回、午前の定時にDJI Dock 2から離陸した専用ドローン「Matrice 3D」は、工事現場の高さ120m程度の上空を、10~15分かけて飛行。7500万平方メートル=7500ヘクタール、東京ドーム約1600箇所分ほどの広さのある工事現場の上空に設定された航路上で、400枚ほどの写真を自動で撮影している。
DJI Dock 2が設置されている工事現場。取材時は右側の山から土砂を切り出し、左奥へと運ぶ作業が行われていた
ダンプカーやショベルカーの上空を飛行するMatrice 3D。通常は地上から120m程度上空を飛行し撮影する。この写真では撮影のためやや低い高度を飛行し、空撮用大型ドローンが追尾している
また、週に1度、定点観測として上空からパノラマ360°撮影を行い、復旧状況を視覚的に捉えるための資料作りに役立てている。
この撮影によって割り出せるのが、1日に山から切り出された土の量(土量)だ。定時に飛行することで得た当日と前日の土量データを比較し、差を算出する。従来はダンプカーが運んだ回数とその積載量の掛け合わせで土量を計算していた。
工事現場で使用されていたダンプカーは定格積載質量24tのキャタピラー製「725」。エンジンは定格出力255kw(約340PS)
だがこの計算方法はあくまで概算のため、実際に運んだ土量とズレが生じる。運んだ回数が増えれば土量のズレも大きくなる。もし計算よりも実際に運んだ土量のほうが少なければ、想定よりも残土が多くなってしまい追加の運搬作業が発生するわけで、工期に影響を及ぼしかねない。工期を守るためには、正確な土量計算が必須だ。
ドローンを使用すれば高精度な土量の計算が可能だ。ドローンが撮影した写真から3D点群データを作成し、ソフトウェアによって土量を正確に算出する。現場を担当する大林組北陸支店奥能登災害復旧工事事務所の橋本貴斗氏は、従来までは運んだ土量を「手計算」で算出していたといい、ドローンの活躍ぶりを次のように評価する。
橋本氏:正確に土量を計算することは工期をコントロールするうえでとても重要で、ドローンの使用でそれが可能になっています。ドローンにはとても価値ある働きをしてもらっています。
KDDIスマートドローンはドローンで取得したデータを1枚のレポートにして毎日提供する。レポートには3Dモデルをキャプチャした画像と工事現場のエリアごとの差分をまとめている。同じくレポートされる工事出来高管理と合わせ、工事の進捗状況の確認や、今後の作業方針などの検討を行っている。
工事現場の管理をしながらドローンも運用するとなると、大林組の業務負担が増えそうだ。だが、DJI Dock 2はKDDIスマートドローンが大林組に貸し出し、設置から運用までKDDIスマートドローンが担当する。
といってもKDDIスマートドローンのスタッフが現場に常駐しているわけではなく、東京のKDDIスマートドローンのオフィスから遠隔管理している。つまりドローンが飛行する現場に担当者が不在なのだ。飛行の際には、操縦者が飛行する周辺の気象状況や、機体の具合をチェックする飛行前点検の実施が航空法で定められている。担当者がいないなかで、どのように対応しているのか。
DJI Dock 2のカバーをフルオープンにした状態。Matrice 3Dを右斜め前から見ている。DJI Dock 2は内蔵バックアップバッテリーにより給電が途絶えても5時間以上稼働できる性能がある
Matrice 3Dを左斜め後ろから見ている。カタログスペックでは、自動充電によって20%から90%まで32分で充電可能。DJI Dock 2のカバーを開いた状態の寸法は約1228×583×412mm(長さ×幅×高さ)
気象状況についてはDJI Dock 2に取り付けられた気象センサーのデータ、および現場に常駐する大林組のスタッフによる気象状況の報告をもとに、飛行可能かどうか判断する。機体点検はDJI Dock 2に取り付けられているカメラを使って映像でチェックし、Matrice 3Dが発信する各テレメトリー情報もあわせて確認のうえ、問題なければ飛行するという段取りを踏む。
機体性能としては風速8mまで飛行可能だが、実際に飛行するかどうかはDJI Dock 2に取り付けられた風速計の数値や現場に設置された吹き流しの流され具合などを見ながら判断する。
ちなみに、運用を始めてから業務として飛行しなかったのは、能登豪雨と、それに関連して発令された、許可のないドローンの飛行を禁止する緊急用務空域が設定されていた期間(9月29日~10月3日)を除いて、わずかだという。DJI Dock 2はIP55、Matrice 3DはIP54相当の防塵性・防水性に対応しているので、多少の雨であれば飛行可能だ。
DJI Dock 2のカバーを閉じた状態。カバーを閉じた状態の寸法は約570×583×465 mm(長さ×幅×高さ)となる。重さは34kgとなり以前のモデルから約70%も軽くなった。
また、ドローンを肉眼で目視せず遠隔で管理するため、この飛行は目視外飛行にあたる。通常であれば機体を監視する補助者の設置が求められるが、工事現場という第三者の立ち入りを管理した場所のなかで飛行を完結させているため、省略可能となっている。
Matrice 3Dの光学カメラは広角と望遠の2種類を装備。広角は35mm判換算で24mm相当。4/3型CMOSセンサーを備え、有効画素数は20メガピクセル。望遠カメラは1/2インチCMOSセンサーで有効画素数は12メガピクセル。35mm判換算で162mm相当のレンズとなっている。なお、赤外線カメラを搭載したMatrice 3TDもラインナップしている
KDDIスマートドローン プラットフォーム事業部の山崎颯氏は、次のようにコメントしている。
山崎氏:関係ない人がふらっと入ってこられる場所ではないので、遠隔からでも飛行させることが実現できています。
大林組としても普段の業務に加えてドローンの監視も求められると作業効率が下がるため、無人で運用できる体制は歓迎している。
映像やデータを活用し、ドローンの運用に関わるスタッフを常駐させることなく、毎日ドローンを飛行できる体制を整えられる。そしてドローンでしか収集できないデータを得られる。この2点がDJI Dock 2を導入する最大のメリットといえるのだ。
とはいえメンテナンスフリーで使用することはできないので、折を見てKDDIスマートドローンスタッフが現場を訪れポートや機体をチェックしてくれる。適切なサポートを受けられるのは心強い。
なお、KDDIスマートドローンでは2022年に自動充電ができるドローンポートとドローンを使った検証事業を行い、現場管理業務を80%削減できることを確認している。今回の工事現場における作業でも同程度の作業効率化ができるそうだ。
またドローンポートを使用しないで、ドローンを手動操縦で飛行させて測量した場合、スタッフの現場への移動や飛行準備、データの整理などで1日75分かかるという。DJI Dock 2を利用した自動運航によってこの時間が削減できることも確認済みだ。
それではDJI Dock 2が設置されている展望台周辺はどのようになっているのか。DJI Dock 2の運用には電源とインターネット回線が不可欠だ。まず、電源についてはどんな工事現場でも発電装置を置いている。
展望台にも電源が引き込まれており、そこから給電している。次に、インターネット回線は低軌道衛星通信・スターリンクを導入しており、展望台下にアンテナを設置。安定した通信環境が整えられている。
工事現場に設置された展望台。吹き流しや地震検知計なども備えている
スターリンクのアンテナは北の方角に向けて設置されている
展望台の上部には監視カメラが取り付けられている。もともとは展望台の状況をチェックするためのものだが、DJI Dock 2設置後は、ドローンが飛行する前に、周囲に障害物などがないか確認するためにも使用されるようになった。
ドローンポートを設置する際には何も新しい設備を一から導入する必要なく、あるもので対応することもできるのだ。
画面奥に立てられているのが、展望台に設置された監視カメラ。展望台の土台となる鉄板とDJI Dock 2の間に木の板が挟まれていることがわかる
DJI Dock 2の設置場所については大林組とKDDIスマートドローンの間で話し合いがもたれた。もともと展望台は見学者が工事現場を一望できるように、砂浜から約10mの高さで建てられた。ドローンポートも高いところにあったほうがよいだろうと考えられて、ここに置かれたという。ちなみに、展望台には「UAVポート」という看板も立てられている。
https://youtu.be/IScf477RIq4離陸のコマンドがDJI Dock 2に送信されると、「ピーピー」という警告音とともにカバーがオープン。その間にDJIの機体でおなじみの「テレレ」のサウンドともにドローンの電源が入る。カバーが開放されたあと、プロペラが回転し勢いよく離陸する。警告音が鳴りはじめてから離陸するまでの時間はおおむね50秒程度https://youtu.be/_ZCZOIpVXKkMatrice 3DがDJI Dock 2に戻ってくると、筐体が開いてドローンを格納する
ところが、展望台は鉄板で組み上げられている。鉄板はドローンにとって曲者で、自機の位置を計測するのに欠かせないコンパス機能に影響を与えるおそれがあるといわれる。鉄板と機体の間にはDJI Dock 2があるとはいえ、やや心配になる場所だ。そこでKDDIスマートドローンからの申し出で鉄板とDJI Dock 2の間に木の板を挟みこみ、鉄板の影響を緩和させる方法が採用された。
ドローンの飛行が現場での作業に影響を与えているかというと、もちろんそんなことはない。
橋本氏:現場の作業員はドローンが飛行していることをまったく意識していないですね。重機がぶつかるような高さで飛行しているわけではないですし、ストレスは一切ありません。
現場に余分な負担をかけず重要なデータを取得するドローンは、優秀なスタッフとして受け入れられているようだ。
展望台を離陸したMatrice 3Dは機体の正面にある土砂の削り出し現場の方面へと飛行。削り出し現場よりさらに奥にある盛り土をする現場方面へも進出して写真撮影を行う
さて、地震による被害に追い打ちをかけるように発生した能登豪雨は、今回取材した工事現場でも盛り土が流出するなどの被害を与えている。だがMatrice 3Dで流出箇所を測量し、雨が降る前後で増減した土砂から具体的な流出量が算出できた。
橋本氏:豪雨で流出してしまった分は、ドローンがなければ概算でしか流出量を算出できなかったです。その点、ドローンでしっかりとデータを出してもらえたのは本当に助かりました。
事務所に設置されているモニターでは、工事現場の3Dモデルが表示されている。緑色で表示されている部分は盛り土が施されている箇所になる
5mほどの深い谷ができ、人が立ち入るのが危険と思われる被災箇所もある。二次災害のおそれがあり、早めに対処したいが容易に近づけない。そこでMatrice 3Dを手動飛行させデータを取得することになり、取材当日に現地入りしていたKDDIスマートドローンスタッフが対応した。日常的にドローンを使用していれば、イレギュラーな事態が発生したときにも必要なデータが集められる。
能登豪雨に伴う緊急用務空域が発令されていた際には、石川県からの要請を受け、石川県災害対策本部と国土交通省航空局と事前調整したうえで、情報収集のため飛行した。
また、離陸時には展望台に設置された監視カメラで飛行空域にヘリコプターが侵入していないか確認したというのは、災害発生時らしいチェックポイントといえるだろう。
山崎氏:ドローンポートは災害時の状況確認の手段として自治体からも関心をいただいています。しかし、災害時のためだけにドローンポートを置いておくのはコスパが悪い、今回は日常的にドローンポートを活用していたからこそ実現できた運用だったと思います。
今後ドローンポート導入事業者は、自治体とポートを活用した災害対応で提携することも求められるかもしれない。
現場の作業効率を劇的に向上できるドローンポート。その中でもDJI Dock 2を推薦する理由を橋本氏はこのように語る。
橋本氏:撮影された写真、ライブ映像がすぐに見られ、クラウドサービスが充実していることも助かります。通信状況がしっかり確保できて、座標をきちんと拾えたらすぐに利用し始められます。我々の準備はそれほどないので、導入障壁がとても低いサービスだと思います。そして導入するだけで終わりではなく、アフターサービスも手厚くしてもらっているので、おすすめのサービスです。
https://youtu.be/knolfXgGkIcドローンの飛行経路やライブ映像を確認するモニターが設置されている。どの位置を飛行しているかひと目でわかる
モニターには工事の進捗率なども表示可能。収集データを見ながら次の作業手順を打ち合わせるといったこともできる
山崎氏も導入のメリットをアピールする。
山崎氏:ドローンが建設現場で使われるケースは増えてきていると思いますが、ポート付きのドローンをゼロから導入するというのは、設置や使用方法の勝手がわからず、障壁が高いと思います。導入に関する作業は弊社ですべて対応可能です。ポートを設置して通信がつながった瞬間から使えるので、ぜひ1現場に1台、導入を検討してほしいですね。
左からKDDIスマートドローンの山崎氏、DJI Dock 2の運用に携わるKDDIスマートドローンオペレーション事業部の原田誠也氏、大林組の橋本氏
KDDIスマートドローンは2024年11月18日より、ドローンポートの導入から運用までを一気通貫で提供する遠隔運航サービスの提供を開始している。日々の進捗状況のチェックが欠かせない現場においては、導入を積極的に検討してみてはいかがだろうか。
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